龍の賛美
リナリーンも手伝ってくれるってさ。
良かった良かった。
許可も降りたので安心して愛属性をぶち込んでやろう。
僕…と、天界でワクワクしながら見ているであろうカプ厨に、二人の絆を見せておくれ〜。
僕は魔法を発動すると、リナリーンとペリンに向けて放つ。
愛属性は特殊な魔法だ。
心で増幅する関係上、強化率が人によって違う。
相手を想う気持ちがどれだけあるかで、どれだけ強くなるかが変わっちゃうんだってさ。
そりゃあ仲間同士で使うとモヤモヤするに決まってる。
魔法を掛けた感覚的には、リナリーンはちょっと強くなった。
元々強いけど、普段の1.3倍は強いだろう。
なんだ、リナリーンもペリンのこと結構好きじゃないか。
本来ならそんなに強化される魔法じゃないんだけどね、これ。
本来なら。
でもそんな程度の魔法でもペリンはとんでもない強化がされている。
マジで。
エアリスの魔力で出来た、この場に溜まっている霧が吹っ飛んで、日が照って来るほど。
あんたどんだけリナリーンへの想いがあるんだよ。
そういうのって、なんだか、カッコいいじゃないか。
僕の仕事は魔法の維持だね。
死んだ時に切れてしまっていたようだから、ペリンにもう一度聖魔法をかけて若返らせる。
リナリーンは元々大して老けてないから、昔の二人ってこんな感じだったんだろうなぁ。
…ふむ。
お似合いに見えるね。
どうだい、神様的には。
愛属性は能力で貰ったから維持は全然大したことないけど、聖魔法は自力だから時間制限があるんだよ。
だから、とっととやってくれ、我が勇者よ!
腹の部分に何本か、翼にも何本かの剣が刺さったエアリスは飛ぶことをやめた。
無理をしたら飛べないこともないんだろうけど、その状態は自由自在に、とはいかないからだろうか。
「さ、いらっしゃい。
勇者ペリン。
女が来て急激に強くなるなんて気に入らないから、やっつけてあげる。」
龍語でつぶやいたその言葉は、ラルフの力が消えた今はもう誰にも伝わらない。
小さくトン、と一度飛んだペリンはエアリスに向けて走り出した。
ペリンを襲い来る風をリナリーンの土の壁で防ぐ。
その事を見越した様に、ペリンは、真っ直ぐ、真っ直ぐ、加速しながら突っ込んでいく。
「エリナリーンがアリスまでの道を作ってくれた。
ラルフが魔法を使ってくれて、身体もかつてないほど軽い。
今まで独りで戦って来たが、今は、仲間の力を感じる。
ならば、それならば。
勝てないはずはないだろう!」
◆
ペリン自身、今回の攻撃はエアリスに通ると確信があった。
二人の力を自覚した瞬間、身体がより軽くなる。
ボンは俺を強化してくれた。
昔と変わらず、美しいリナリーンを見て、やはり俺は彼女を愛してしまっているのだな、と思った瞬間途轍もない力が湧いて来た。
エアリスはこちらを見ているが反応をしていない様だ、エアリスが追い切れないほどの強化とは。
いや、違うか。
エアリスは受けるつもりか。
誇り高い生き物だな、龍というのは。
エアリスの姿を冷静に見ると、緑がかった白く美しい龍に沢山の剣が刺さり、傷が出来て、血が滲んで痛々しい。
ボンは本当にすごいなぁ。
何年も何年も傷という傷を与えられなかった俺を1日で飛び越えて行った。
…そうか。
殺せるのか、今の俺は。
エアリスを。
…友を。
そうか。
◆
キン、という音と同時にエアリスの身体に刺さっていた剣が全て抜けた。
僕の目には追えていなかったが、ペリンがやった様だ。
しかし、みるみるうちに目視できるほど溢れていたペリンの力は萎んでいった。
「ボン、すまない。
俺は、俺には無理だ。
自分のために、友に手をかけるなど出来ない。
思えばそれが出来ていれば、愛するリナリーンを傷つけることを覚悟出来ていれば、当時リナリーンと結ばれる道もあったのだろう。
それが出来なかったのは、俺のせいだ。
弱い俺の、心のせい。
間違っていたのだ。
そのために龍を殺すなど。」
そう言うと思ったよ。
ペリン。
勇者ペリン。
優しさは弱さではないよ。
でも弱さは優しさではないんだよ、ペリン。
僕は屑鉄の剣を一本持ち、全ての維持していた魔法を一度消した。
ペリンは再び老人に戻り、力の奔流は消えた。
身体に負担があったのだろう、ペリンが膝をつく。
リナリーンも同様で、少し身体が重そうだ。
僕は愛属性魔法をもう一度発動すると、エアリスへと放った。
古い時代では呪魔法と呼ばれたらしいそれ。
聖女が愛魔法と呼んだそれ。
神が言うには心魔法と呼びたいそれ。
一度使ったことで本質がわかった。
これはやりたいことをやらせてあげる魔法だ。
強くなりたければ強くなる。
なら、逆に弱くなりたければ、弱く。
リナリーンを越え、跪くペリンを越えてエアリスの前にたち、剣をエアリスへ向けた。
「やめてくれ!ボン!
もういいのだ。
俺が、俺が弱いのが悪かった。
俺のせいで友が傷つく必要などないのだ。」
そんなペリンを無視してエアリスの目を見る。
そうか、ここね。
ここに剣を突き立てればいいのか。
「やめろ!やめてくれ!」
僕はエアリスの心臓へ、屑鉄の剣を突き立てた。
すんなり刺さる。
深く、深く、命を奪う感触がする。
彼女も思っていたのだろう。
ペリンの思いを叶えるならば、自分が弱くなければならないと、愛するペリンと何度も戦う内に実は気がついていたのだ。
気に入らない。
死ぬつもりの龍と弱い弱い勇者。
そんな英雄譚があってたまるか。
剣を抜くとエアリスの身体から赤い光が解き放たれた。
それらがねじれ、僕が掬う様に構えた手のひらへと集まっていく。
そうして掌に集まった赤い光が、結晶化した様な赤い宝玉。
全てが叶うらしい龍討伐の報酬。
そのぐらいの力は確かにありそうなのが手のひらから伝わってくる。
赤い玉が問う。
「願いを言え。」
なんでもいいの?
「願いを言え。
お前は龍を殺した。
お前はこの世の全てに優先される。」
そっか、なら願うことは一つだ。
赤い玉が光に戻って僕の手から離れていく。
サービスだ。
とびきり美人を想像しておいたよ。
光はエアリスの死骸へと飛び立ち、纏うように広がった。
目を開けているのが辛い程の光。
その赤い光が収まると、そこに1人の美しい女が立っていた。
「ありがとう、ラルフ。」
そう言いながら、彼女は僕の傍を走り抜ける。
良かったな、エアリス。
勇者の胸へ飛び込んでいけ。
今なら、人間になった今なら、優しく受け止めてもらえるよ。
彼は優しさのせいで弱くも強い、本物の勇者だから。
君はもう、強大な力と質量を持つ、優しく動いても全てを破壊する龍ではないのだから。




