すれちがい
ダーリン?
この龍、ペリンさんのことダーリンって言ったよね。
龍の一鳴きにある意味すくんでいる僕を、ペリンさんが見ている。
あぁ、怯えているように見えるんだろうね。
まぁ、考えようによっては怯えているのに近いんだけど、龍という存在にではなんだなぁ、これが。
「…ボン、お前、もしかして龍の言葉が分かるのか?」
うん、そう…だね。
分かってしまったね。
めちゃくちゃ神聖な感じなのに、一声目が…なんというか、アレを思い出した。
ちょっとヤンチャな先輩の家に遊びにいったら、彼女と同棲していて、ちょっと気まずい思いをしながら挨拶する感じ。
そんな感じ。
「それで、エアリスはなんと言っているのだ。」
えーと…どうしよう。
ペリンさんが戦う動機と、龍が応じている動機が食い違っているとしか思えない。
一旦確認。
ペリンさんとエアリスは…あの、えーと、友達なの?
「言葉を交わした事はないが俺はそう思っている。
何度も剣を交わした。
恥ずかしい事だがリナリーンの事も正直に話した。
手加減されているのは理解している。
怪我をしないように手加減されているのは、剣士として忸怩たる思いだが…。
アイツも俺を友だと思っているのだろうと考えに至り、少し誇らしい気持ちになったんだ。」
そうですか。
そうですか。
エアリスは、ペリンさんと仲がいいの?
「あら?貴方、龍の言葉が分かるのね、珍しい人。
ペリンは何度も私に挑んできてくれたの。
最初は英雄になりたいだけの馬鹿がまた来たと思ってあしらっていたんだけどね、信じられないくらい何度も何度も挑んできたのよ。
ある時から、戦いのあとに彼が何かを語ってくれる様になって…理解したわ。
言葉はわからないけど、わかったの。
愛を語っているって、そう言う目をしていたもの。
龍である私は、そういうのに弱いから、受け入れたのよ。
あとはペリンが私を傷つけられるまで…。
それぐらい強くなるまで待っているの。
見て、この石の周り、剣がいっぱいでしょ?
今までペリンが挑んできて、折れた剣、愛の形よ。」
あっちゃー!
めちゃくちゃすれ違ってるよ!
そりゃ愛を語る目をしているのは当たり前だよ!
何年も何年も思い続けるリナリーンのこと語ってたんだから!
どうしよう…。
龍と魔女と勇者の三角関係に挟まれる事になるなんて考えなかった!
話すことができれば、理性的な龍ならなにか解決出来るかもしれないと思ったのに!
例えば、縛られている役目から解放する方法とかあるのかと思うじゃない。
なんかあるじゃない。
あると思うじゃない!
別方向でややこしくなるなんて思わないじゃない!
「どうした?
ボン、エアリスはなんと言っているのだ。
友の声を伝えてはくれぬか。」
…彼氏だと言っています。
「え?」
貴方のこと、そういっています。
「…え?」
「ちょっとあなた、きちんと伝えてくれてる?
彼氏じゃないわよ。
婚約者だって。」
…そうすか、婚約者。
大事なことですもんね。
あの、ビリビリするから大きな声出さないでもらって…。
ペリンさん、あの…彼氏じゃないって。
正確に、きちんと伝えてって。
「…おお!そうか!
多言語故に上手く伝わってなかったのか?
では改めて、エアリスはなんと言っていたのだ?」
ワクワクしてんじゃないよ。
親友とか戦友とか、それ系のワードが聞きたいんでしょ。
違うんすよねー。
なんというか、ノリが違うんだよね。
掲載雑誌から違うんだよね。
婚約者ですって、婚約者。
フィアンセ。
「…え?」
おめでとうございますー。
「…婚約者…なんでそんなことになっているんだ?」
確かに。
エアリス、なんで婚約者なの?
愛を語られたのはわかったよ。
だけど、婚約者って飛躍しすぎじゃない?
「あら?貴方はまだお子様だから知らないのね。
龍に挑み、打ち倒そうとするってことは龍を伴侶にしようとするって事なのよ。」
はえー…知らなかった。
なるほどねぇ。
挑み続けたペリンさんは、龍の流儀でいうとプロポーズし続けていたのか。
エアリスが受けて立っているってことは、プロポーズ自体は受け入れられた状態で、あとはエアリスを打ち倒せば資格を得られると。
エアリスはそれを待っているって、そういうことね。
だからペリンさんは殺されなかったし、愛を深めた今は怪我もしないように気遣われていると。
合点がいったわ。
じゃあペリンさんはどうあれリナリーン結婚する道がないってこと?
エアリス勝てなければリナリーンは役目から解放されない。
エアリスに勝てれば、エアリスがペリンさんの伴侶となる、と。
えぇ…なんか、超かわいそう。
何年も思ってきた人がいるのに、文化の違いで…。
しかし…龍に勝つと結婚かぁ。
ん?
んー、もしさ、仲間と龍を倒した場合、それってどうなるのさ。
結婚の儀式ならさ、英雄譚にある龍退治っておかしなことにならない?
「全てが叶うと言われているわね。」
そっかそっか。
おほん。
実は、ペリンさんは婚約していると思っていないんだ。
好きな女の人がいて、多分エアリスも知っている龍を祀る村の女の人なんだよ。
その村の役目を守るため、色々結婚に縛りがあってね。
それでエアリスを倒そうと思って挑み続けているんだって。
「…そう。」
あ、拗ねてる。
っていうか…信じてないな?僕の言うことを。
僕もエアリスを倒すためにペリンさんに手を貸すことにするよ。
そうすれば、全てが叶うんでしょ。
龍を伴侶にしようが、思いびとと結ばれようが自由なはず。
いいかな。
「そう?
それはそれで構わないわ。
でも、貴方にも手加減出来るなんて思わないでね。
貴方は恋路を邪魔する、敵、なんだから。」
そっか。
頑張るよ。
死ぬだろうなぁ。
何回かか、何回もかは分からないけれど。
じゃ、ペリンさん。
僕もペリンさん側で戦えることになったから、一緒にやろっか。
「お前はまだ子供だろう。
やめとけ、死ぬぞ。」
はいはい、良いんだよ。
死ぬのは別に。
強がりでも比喩でもなく、死ぬのなんてなんとも思ってないから。
それに、エアリスのあの顔…もう決まっちゃったみたいだし。
…なんでこうなったかなぁ。




