ペリンは勇者
「ほー、お前、サシュマの子か。
確かに賢そうだ。
あいつは頭でっかちなところがあって、お堅いがな、良いやつだった。」
ペリンさんは昔を懐かしむ様に顎鬚を撫でる。
その姿はボロボロにちぎれかけた袖の服でも、なんかサマになって見える。
木に立てかけられた革鎧も、使い込まれている。
それに不似合いなぐらい真新しい剣が違和感を与えてくる。
「それにしてもどこから来たのだ、ボン。
この辺には何もないだろう。
…魔女の村に拐われて来たのか?」
…拐われては…いないよね。
土魔法を習いに来たんだ。
家族に村の出身者がいるんだけど、その伝手でリナリーンに師事しにきたんだよ。
「…そうか。
あー、その、リナリーンは元気か?」
うん。
元気だったよ。
すっごい強かった。
「…は?戦ったのか?
…そうか。
まぁ、元気ならいいんだ。
俺はなペリンという。
お前の父ともリナリーンとも昔馴染みでな。
俺も昔リナリーンにやられてな。
鍛え直しているのだ。」
僕は勝ったよ。
言わないけど。
やっぱりこの人がペリンさん。
年嵩はいってるし、ボロボロのだから分かりにくいけど、リナリーンの好みに合致しそうな見た目なんだけどなぁ。
っていうか、オーラが凄い。
この人より強い人なんて存在すんのかって思うよ。
なのに、リナリーンに負けて、リナリーンは去った。
なんでなんだろうか。
ペリンさんはこんな森の奥で何してるの?
「ん?あぁ…。
ここを少し言ったところにな、龍が住んでいるのだ。
竜は昔倒したことがあるから、やれるかと思って来たんだが、まぁ強い。
何年経ったか分からないが、未だ勝てていないのだ。」
龍を襲い続けているとは神様に聞いていた。
人間に勝てるものではないって神様は言っていた。
ペリンさんがいつから挑み続けたか知らないけど、何年も死んでいない。
凄いな。
僕も龍に会いに来たんだ。
あの村が龍に関する役目を背負っているって聞いてね。
「似たような理由だ。
俺は龍を倒したらリナリーンに想いを告げようと思っている。
アイツに剣は向けられない俺は、魔女の長の伴侶に相応しくない。
だが、龍を滅せばアイツが背負う長の役目は消える。
そうすれば、アイツより弱くとも、心置きなく愛を伝えることが出来るだろう?
フラれるかもしれんがな、ハハハ。」
カッコよ…!
リナリーンに負けたのは、単にアレか。
惚れた女に斬りかかれないってだけなのか。
なんか本当に勇者って感じ。
大真面目に明後日の方へ走っているのが勇者って感じ。
きっとこの熱意で直接リナリーンに当たっていたら、別の方向でうまくいっていたんだろうに。
僕も連れて行ってよ、龍と会いたいんだ。
「…いいぞ。
子供を無闇に傷つけるような奴ではない。
朝になってからにしよう。
俺が起きて番をしているから、ボンは寝とけ。」
助かるぅ。
正直クタクタだったんだ。
リナリーンと戦ってそのまま来たから。
お言葉に甘えて寝させて貰おう。
◆
「そうか、リナリーンは元気か。」
もう大分待たせてしまったな。
俺と結婚して欲しい。
美しく奔放な女、そんな印象を持っていた。
彼女が国を去ると言い出した時、俺の口からなぜかその言葉が飛び出た。
一番驚いたのは自分だが、リナリーンも驚いていたようだった。
サシュマとシャルルにそのことをいうと、お前はやはり勇者だ、とからかうように言われた。
「私と結婚したからったら、私を打ち負かしな。
あんた、馬鹿みたいに強いんだろ?
私に勝てたら好きにしていいよ。
私に勝てる奴なら村のやつも納得するさ。」
俺は、リナリーンと対戦した。
しかしただの一度も怪我すら与えられなかった。
理由は簡単だ。
俺が弱かったのだ。
自分の持つ剣がリナリーンを傷つけると思うと、剣を振ることが出来なかった。
一度彼女に聞いたことがある。
彼女の村には龍がいて、その龍を祀り、暴走した時のために強くあらねばならない。
「だから私は雑魚を伴侶にする訳にはいかないんだ。
悪いね。
アンタも頑張って強くなんなよ。
待っててやるからさ」
俺には、出来ない。
どんなに強くなろうと、例え神に剣が届くようになろうと。
彼女の肌を傷つけることは、この先、出来ない。
そこで俺は目的を変えた。
彼女より弱くて良いように。
龍を倒せば縛られるものは無くなるのだから。
リナリーンが去った日そのままその足で旅に出ると、2年ほどを探索に使い、そのまま龍に挑み始めた。
塩が切れたり剣が折れれば調達しにいく。
その資金は食糧調達の片手間に、少し多めに獣や果実を狩り、それを売った金を充てた。
それ以外の時間を龍に挑むか、剣の修練。
それだけの生活をしてきた。
そうして何年か経った時、ふと気がついた。
強大な力を持つはずの龍は、自分を決して殺しはしないことを。
鬱陶しいことだったろう。
最近は怪我すらしなくなっていた。
俺の戦い方が上達したのも、もちろんある。
しかし、それにしてもだ。
俺もそんな龍を友だと感じるようになっていた。
言葉はわからないが、独り言の様に、ぽつぽつと自分のことを龍へと話す。
そのおかげで、今日まで正気でいられたのだと思う。
そうしてまた、何年経ったであろう、今日、龍と話にきたと言う少年がやって来た。
話せると言うのか。
友と、理解し合える可能性があるというのか。
神が使わせてくれたのだ。
そう思う事としよう。
朝まで目を離さぬ様にしよう。
俺が守るのだ。
朝目を覚ましたラルフが、余りに近い所で自分を覗き込むペリンに心臓が止まりそうになった事は言うまでもない。
ペリンの熱意は心臓に悪く、そのせいで危うく友と話せなくなる所だった。




