賢者の子、賢者モードになる
アドレナリンが抜けた今、やってしまった感が拭えない。
気絶するリナリーンを抱えて修練場から出てきた僕は、もう本当に冷静になっていた。
今から夢だったことに出来ないだろうか。
無理だよなぁ。
もう手遅れなのは分かる。
乙女の弟子たちが大騒ぎしているから。
誰も勝てるなんて思ってなかった少年が、村の魔王を倒した。
大大大快挙。
しかも出て来た時は大人の姿で、とんでもなく美しい男性だった。
もう、村ごとメロメロ。
逃げ………いや、ダメだ。
相性が良すぎただけで、彼女らに本気で探された場合逃げ切れる訳がない。
でも役目があるんだっけ。
大丈夫か?
…んー、追われる予感がビンビンにある。
格好つけすぎた…。
どうしよう。
とにかく今夜からはリナリーンの城で寝る訳にはいかなくなったよね。
身の危険があるもの。
100%ではないがあるもの。
物語のお姫様のように迎えに来るまで待ち続ける。
そんな人間性を持っている方に賭けるか?
そんなの分が悪い…。
リナリーンをせめてもの罪滅ぼしにお姫様抱っこでベッドまで運んだあと、神様の像まで来て頭を抱えていた。
勝ってしまって逆に居場所がない…。
いや、調子に乗って変な勝ち方をした自分が悪い。
古いお姫様の物語に精通したいたのが裏目に出た。
あぁ…神様。
助けて下さい。
僕はこの世界に来て一番真摯に神に祈った。
「ラルフちゃん、こんなところにいたのね。
なんか必死な祈りが届いたわよ。
何してるの?
みんな探してるわよ?」
タナさん!
タナさんじゃないか!
助けて!
助けて下さい。
「どうしたのよ一体…。
とりあえず天界に連れった方がいい?
その方が時間取れるでしょ?」
そうして僕は召された。
今回は完全に逃避だ。
「いやぁ…。
やりますね、ラルフ。
見てましたよ?
お前に……勝てば……俺の……好きに……していいんだろ?
あっはっは!
カッコいい!
カッコいいですね!」
やめて…やめて下さい!
タメて言わないで下さい!
でも勝つにはあれしか無かったんだよ。
単純な戦闘では手も足も出なかったんだから。
「勝つ必要なんて無かったじゃないですか。
対魔法使いの練習でしょ?
なんでそんなに勝ちたかったんですか。」
…理由なんてないよ。
勝ち筋あるなら試したくなるじゃない。
「お姫様にしちゃったから願いを叶えてあげたくなったんでしょ。」
…う。
「物語のお姫様様は王子が来るけど、現実はそうもいかないですもんね。
そういう子を一杯見て来たんでしょ。
それで戦闘でテンション上がっちゃってやっちゃったんでしょ。」
そうです…。
「婚約者もいるのに…。」
…。
「うふふ。」
あ、からかわれてる!
からかうなよー、反省してるんだからー!
「さ、次の能力は何にしますか?」
貝になる能力を下さい。
海の底で静かに暮らします。
「逃げちゃダメよラルフちゃん。」
そうですね。
「そういえば、先ほど真摯に祈られたので、もう助けの人を呼んでしまいましたよ。
丁度サシュマを呼んだ時のように。」
そうなんだ。
ならお父さんが来るの?
「いえ、無理ですよ。
知らないですもん。
サシュマはこの村の場所。」
そうなんだ。
自由に呼び寄せられる訳じゃないのね。
「当然じゃないですか。
私はその人がその日にしようと思っていた行動を捻じ曲げるくらいしか出来ませんよ。」
そりゃそうか。
おかしなことになるもんね。
じゃあ誰を呼んだの?
何とかなるかもって呼んだんでしょ?
「ペリンです。」
あぁ!
お父さんとシャルルさんの同級生ね。
「そうですよ。
ずっと修行していたんです。
20年以上、リナリーンに愛される為に、勝つために。」
…リナリーンの性格上その選択は間違ってるでしょう。
何回も挑んだ方が可能性あるんじゃない?
「そうなんですよねぇ…。
それにその熱意が変な方向に向いていて…。」
ダメじゃん…。
でもリナリーンも期待してたのに、って言ってたから可能性あったんだよね?
「好き同士だったと思いますよ。
戦闘力で言えばペリンの方が上でしたし。」
え?
でも負けたんでしょ?
リナリーンが20ならペリンは15だって言ってたよ。
「ペリンはリナリーンが見ている前で力を出せた事なんて一度もないです。
メンタル面が…ね。
好きな子が見ていると力み過ぎるタイプで…。」
あぁ…。
ペリンさん…!
会ったこともないのに僕は貴方が好きになってきたよ。
2人を後押しする能力はないの?
「んー。
洗脳とかでないなら難しいですねぇ。」
そういえば、リナリーンさんの役目ってなんなんだろう。
それさえ無くなれば可能性あるのでは?
「役目?
あぁ、あの村でしたか。
あの村は龍を祀っているのですよ。
龍を安寧させ、いざという時に龍を討伐する役目の、巫女の村です。」
普段は龍と仲良くして、龍がおかしくなったら退治するってこと?
「そうですね、そうなります。」
だから強い人じゃなけりゃダメなのね。
…ならペリンさんが龍を倒せばイケるのでは?
「龍は人間に倒せるものではありません。
私達と互角ですからね。
先ほど言った、ペリンさんが15なら龍は5000くらいありますよ。
あの村は一つの宝具に魔力を溜め続けています。代々、何年もね。
龍が寿命を迎えて狂うのは1000年に一度程度なので、その時に使うまで溜め続けているのです。
宝具もその龍が授けたものらしいですよ。」
はぇー
神話の類だね。
なら今はいざという時に自分が誰にも迷惑をかけないように準備をするような、理性的な龍が居るってことね。
「とても理性的ですよ。
ペリンが何十年も襲い続けても、怒ったりしていませんから。」
あ、実行に移しちゃってんすか。
さすが勇者様。
龍を倒したい勇者…。
理性的な龍…。
そして、巫女のお姫様、か。
よし、なら、次の能力はアレだ。
異世界初心者パックのアレ。




