魔女
「よし、やりましょうか、師匠。」
自然体で立っているリナリーンの背景が歪んでいる様に見える。
とんでもない魔力を纏うとそう見えるものなのか、それともリナリーンが醸しだす雰囲気が幻視させるのかはわからない。
だけど、間違いなく強いだろうってのは伝わってくるね。
「戦闘中はお姫様じゃなくなっても許してね?」
そう言いながら挑発的に手を向けているリナリーンの周りに、石の塊がいくつも浮き上がって来た。
お姫様じゃなくなっても許せって?バカか。
もうお姫様の笑顔じゃないよ、その歯を剥いた好戦的な笑みは。
さてさて、あの石、どう見るべきか。
魔法は発生に一番時間がかかる。
僕がシャルル戦で風の玉を設置したのと同じように、ストックしておいて、発射タイミングを測っているのだろうか。
しかし数が違うなぁ。
あの時の僕は、5個とか6個しか置いておく余裕はなかった。
対してリナリーンの周りに浮いている石。
あれ、100くらいはあるだろうか。
細かいのを入れると、もっとあるかもしれない。
一つの石をくるくると人差し指の周りに回しながら、リナリーンは僕を指さす。
はいはい、この石を飛ばしますよ、これぐらいは受けてねってことね。
そんな挨拶を受けて、僕も剣を生成する。
ついさっき覚えた、土から金属を生み出すやつで。
リナリーンは魔法を教える気はあるみたいで、生成の時間をくれるみたいだ。
だったら単純な訓練の時間もおくれよ。
「いっくよー。」
発射された石は真っ直ぐ飛んでくる。
剣で弾きながらリナリーンを観察すると、人差し指を向けたまま。
その指には次弾が装填されて、周っている。
あまりにも真っ直ぐ来た今の攻撃が本命とは思えないし、あっちの方がデカくて強そう、魔力もふんだんにこもっていそうだ。
あれは今みたいには受けちゃいけないだろうなぁ。
剣で弾いても僕ごとすっ飛んでいきそうだ。
必死で避けなくては!
なんてね、見えてるよ。
右上の方にある石
大量に設置された中に一つだけ小さく鳥の形をした物がある。
あれはヤバそう。
安易に避けて体勢を崩したところに飛ばされたら避けらんないだろうなぁ。
警戒はしている間に飛んでくる次の石。
直線で飛んでくる物を真正面から受けるのは良くない。
だけど、身体から逸らすくらいなら、まだ大丈夫そう。
カキンとね。
こっちがリナリーンの本命を見つけていることを、目線バレないようにしないと。
アレを見つけたのだけが、ほんの少しだけある僕のアドバンテージかもしれないから。
僕は自分の前に土壁を作り、リナリーンの足元に石の槍を出した。
「はっ!
こんな単純な魔法いくら撃っても当たりゃしないよ!」
お姫様力の低下が著しいなぁ。
後でお説教だ。
っていうかさ、これって指導戦だよね?
直撃したら普通に死んでたんだけど。
◆
壁で魔法の発動を隠しはしたみたいだけどね、こんな安易な石槍に当たってやる義理はないね。
私はそのまま人差し指の石をラルフの石壁へ放った。
あそこに師匠がいてもいなくても、壁を壊しておかないと邪魔だしね。
おっと、やるね、いないじゃないか。
どこに行ったか全然分からなかったよ。
まぁ隠れるやつは相場が下か…上だろう?
下を警戒して土を固めつつ、本命の上へと石を放つ。
30個も撃ちゃあ、一つくらいは痛いところに当たるでしょ。
お、やるねぇ、師匠。
いい工夫だよ、それ。
落ちながら剣に集めていた硬い土を盾に凌ぐなんてさ。
うーん、精度も操作も全然なっちゃいないが…そうだね、硬さだけでいうと師匠の方が上か。
本当に昨日今日覚えた土魔法を基軸にした立ち回りで、このリナリーン様に接近してくるだなんて、いい男じゃないか。
歳の差が悔やまれるよ、我がお婿様に相応しい才能で、可愛い顔してんのにさぁ、産まれてくるのが遅かったね。
アンタは天才、神がかった才能を持っているといっていい。
村の何人が師匠の才能に気がついているかは分からないけどねぇ、私は分かってあげるよ。
でも、ま、戦士としてはまだまだだね。
ダメよ、そんな、バレてたかって顔をしちゃあ。
ミスは咎める。
私のお姫様指導も試合後に咎められるんだろうけど、戦いに関しては私が咎める側さ。
というわけで、少し驚いてもらおうかね。
◆
うわぁ…バレてたか。
せっかく下に槍を出して視線誘導したのに。
ま、せっかく石の柱を下から突き上げて、自分を飛ばしたんだから、なんとか近寄らせて貰うよ。
神の能力のおかげで一つ一つの石は僕の方が硬いようだしね。
足元に剣から分けた金属の板を出して弾幕を防ぎながら、死角を作る。
このまま板の陰から斬り込んでやろう。
僕が意を決して飛び出し、リナリーンを目視。
リナリーンとは目が合わない。
見失っているね!
このまま斬ってやろう。
剣をリナリーンに振り下ろそうとした瞬間、僕の身体が流れ剣が外れた。
なんだ?
「はっは。
言ったじゃないか。
土魔法は造形ってね。
師匠はどこまで小さい物なら目で見えるのかな?
まぁ、目を凝らせば見えるだろうよ。
それとも見えているのにただの砂だって、気にもしてなかったかな?」
腕に砂が絡みついてる。
石と一緒に飛ばしてたのか…!
わかったら大した問題はない。
魔力を身体から放出するだけで弾けるからだ。
小さいものに込められる力なんてたかが知れてるから、簡単。
問題はこれを付けられたことを認識出来なかったことだ。
魔力を放出し続けるのは現実的じゃない。
だけどまた付けられたら、今度は身体をブレさせるくらいで済む保証はない。
手加減されているのはわかる。
わざわざ教えてくれたのだから。
しっかしこの砂を貼り付ける魔法。
魔力が少ない場合これだけで詰みかねないな…。
…あれ。
…そういえば、鳥は?
急いで左に壁を作る。
勘が外れた時の保険と…そう、支えだ。
支えがいるぞ。
リナリーンは気が強い。
どうせそんな奴は、自分がやられた事をやり返すに決まってる。
上だろ?
「俺」は死魔法を発動させ大人の姿になる。
恐らく腕力がいる。
俺ならそういう攻撃にする。
フッと俺に影が掛かる。
やっぱり上!
落ちて来たのは鳥の形のまま、石とは呼べない大きさになった岩。
はっは。
ついさっきまで小鳥だったじゃねぇか。
ま、俺でもデカくすると思うよ。
重いってのは、それだけで攻撃として成立するからな。
左側に生成した壁に鳥が当たり、ゴリゴリと音が鳴る。
やはり俺の方が硬度は上、だが。
鳥の羽は折れ、破片が降ってくる。
しかし単純な岩としての落下は止まらない。
これがスパッと斬れるなら剣士として名前が残るんだろうが俺にゃまだ無理だ。
壁に剣を突き立てて思いっきり剣を握ると、剣を土魔法で思いっきり伸ばした。
うぉ!怖ぇ!
子供の身体だったら握力が耐えられてないな。
伸びる剣に掴まりながら飛び、落下地点から離脱することに成功した、が、危ねぇ!前髪に何か触れたって!
飛び残された剣の先が、鳥の下敷きになって折れる音がした。
勢いよく押し出していたからなぁ。
慣性の制御なんて不可能だもんで、空中に投げ出された。
でもこれは想定済み、死ぬよりゃマシ。
高いところで身体のコントロールを失っているのは超怖い。
絶叫マシンとかも苦手なんだよ、俺は。
怖いが!これからの作戦に関わる。
格好良く着地して、なんでもないようにしていろ。
頑張れ自分!




