片腹いたし
夕方になるころ、やっと地面に降りられた。
ずっと空中で揺られていたから、ただ座っていただけなのになんかフラフラする。
吐きそう。
飛行機は偉大だ。
やっぱり小型セスナとかは酔いやすいんだろうか。
乗った事がないからわからないけど。
「ははっ。
慣れないとふらつくよね。
今日はゆっくり休みな。
あの城、見えるか?
あれが私の家なんだよ。
かわいい家だろ?」
おー。
なんかミニチュアのお城って感じ。
確かにかわいい。
不思議とリナリーンさんに似合う気がするね。
「そっかそっか。
なんでそう思うんだい?」
え?いや、だってさ、手首に付けてるチャームとか、マフラーの端のフリルとか、アイテムの端々がいちいち可愛い系なのだ。
鳥に乗っている時はずっと甘い花の香りもしていた。
香水なのかな?
髪も手入れされてるし、爪だって整えてある。
確かに背が高くキツめの顔だけどさ、靴の先はまん丸で可愛らしいし、スカートの中にはパニエが入ってふんわりしてるもん。
喋り方と、メイクと、アイテムがチグハグだ。
ふーむ。
なるほどね。
似合う物を選んでるとは言い難いけど、好きな物を好きなだけ集めて身につけているのか。
そんな彼女がこだわり抜くと、家もこんな感じになるんだろうなぁ。
薄っすら拉致されたかって疑念は拭えなかったけど、多分大丈夫だ。
だって、可愛らしい人だもん。
僕は女の人の見る目があるのだ!
前世ではどうだったかって?
ちょっと、関係ない話はやめてもらえますか。
プチキャッスルに案内されると、玄関にはシャンデリアが吊られ、階段が二つ左右に分かれていた。
床は赤い絨毯でフカフカ、奥にはダイニングがあるみたい。
ダイニングとは別の扉が二つあり、一つは浴室、一つはキッチンで普通のキッチンの中にピザ窯のようなオーブンがあった。
確かに、魔女っぽい大釜はないし、リナリーンさんの美的感覚とはかけ離れているビジュアルだから置かなそうだ。
小さな螺旋階段を登った2階は、ふた部屋あって、片方は最低限の家具だけ置いてあって、客間や応接間として使っているらしい。
もう片方は大きなベッドと大きな窓、そこに半円のバルコニーがついている。
月とハートがモチーフになっているドアプレートにはしっかりリナリーンと書いてあるから、ここが彼女の部屋なんだろう。
なるほど…。
わかったぞ。
この人の城は物語の中のお姫様の家のそれらしい所をコンパクトにまとめた物、お姫様ハウスコスプレハウスだ。
ややこしいな。
しかし少し気になるな…。
「…なんか変な所あったかい?」
いやね、部屋を見ながら想像していた物が二つ足りないのだ。
あれだ。
猫足のお風呂と、ベッドに天幕が付いてない。
あの、ほら、ひらひらの天井から垂れ下がっている薄い布のやつ。
「なんだい、それは。
そんなもの、聞いたことないねぇ。
ちょっと、描いて描いて。」
あんまり絵は上手くないのだけれど…。
天幕はレースとシルクだよな?
それで…こう、四角に垂れさせて…。
そいで、猫足のお風呂は…。
ただバスタブの足がくるんとなっているのだ。
足は金、または黒。
「可愛いじゃないか、でもこれには何か意味があるのかい?」
なにを言っているんだ?この人は。
お姫様っぽくて可愛い意外の理由がいるのかよ!
「確かにそう!野暮だったね!」
そうでしょ!?
こうなったらとことんやろうよ。
庭に木も植えなきゃ!
「なんで木なのさ。
あ、土魔法覚えたいと言っていたね。
それは明日にやるから焦るなって。」
ダメダメ。
それじゃあ朝に小鳥に挨拶出来ないじゃないか!
小鳥に挨拶をしないお姫様などいない!
馬鹿にしているのか!
「そうだね!すぐ植えようじゃないか!」
あはは、楽しくなって来たぞ!
小児科医を舐めるなよ!
俺はな、子供を山ほど見て来たんだ!
入院中なんて、悲観する事しか起きない。
苦しいし、治療は辛い。
そんな病気と戦う女の子の心の支えは、そうお姫様。
それを実現出来る能力があるのなら妥協なんてさせてたまるかよ。
しかもこの人、魔女っ娘でもあるじゃないか!
全部盛り!幼女の憧れ全部盛り!
明日はメイクと髪型と喋り方を治そう。
もっと可愛らしく生きていって貰わないと!ね!
はははははは!
あ、その前に庭で剣術の練習していいですか?
日課なのでやらないと気持ち悪くて。
ちょっと、リナリーンさん?
後ろで見ているなど2流だ。
バルコニーからそっと見ていろ!
主張をせずにな。
飽きたら静かに去ってね、お姫様だから。
なんにも分っちゃいない。
僕が、お姫様ハウスコスプレハウスに相応しい振る舞いを叩き込んであげるから、着いてくるんだぞ!
「はい!師匠!」
うむ。
……おい!バルコニーで佇む姿勢は、手すりに肘を置くのだ。
そう、両方ともだ。
手は組んで顎の下、もしくは開いて頬を包むんだ。
理由?
お姫様っぽいだろうが!




