神様の嘘
「いや、ダメですよ。
頭なんかしまっちゃったら死んじゃうでしょ。」
え?死んだの?
頭なんてしまってないよ!
生き物は入らないもんじゃないの?こういうのって。
危ないって。
「いやいや。
もし生き物が入らないとすると、あそこにはなーんにも入らないですよ。
貴方の持ち物にどれだけの微生物がついていると思っているんですか?
滅菌してからしまうにしても、100%完全に無くすなんて事はかなり難しいと言わざるを得ませんし。
それに、有機物と無機物の差異の証明などという哲学的な答えを、能力一つで判断するだなんて危ない思想ですよ。」
…たしかに!
「私は神ですからね。
微生物を生き物じゃないなんて言えません。
それで?閉じ方ですか?
そんなのマジックバッグオープンって言って出したんだからマジックバッグクローズに決まっているじゃないですか。」
…たしかに!
穴の存在感が強すぎて『マジックバッグ』感がめちゃくちゃ薄くなってた。
怖い穴って名前の能力だったらそのワード出てたかも。
それで?どうやってペンとか取り出すの?
「え?
出せませんよ。
空間に穴をあけるってどういうことか分かってます?
あれは重力の塊、小さなブラックホールですよ?
別の方法で空間に穴を開けるったって、それはどれも超高エネルギー体ですからね。
そもそもあなた、無限に入れるとは言っていたけれど、出したいなんて言っていなかったでしょう。
時間が止まった空間っていうから、確実に息の根を止める攻撃魔法だと思ってましたよ、私は。」
…たしかに!
言ってない!
でも入れたら出すのが摂理でしょうが。
神に摂理を説く無謀さは分かっているけども。
つまり僕はブラックホール生成の能力にマジックバッグという名前を付けて頂いたってことね。
怖いって感想はバッチリ合ってたみたい。
なるほど?
ところで、僕が想像した無限倉庫みたいなものってあるの?
「無限倉庫…?ないですよ。
持ち運べる鞄に物が無限に入るとしたら、その質量はどこに行くんです?
例えば現実にある倉庫に物を飛ばすとかですか。
んー、空間を歪める穴を、任意の場所に繋げるなんてとんでもない計算能力ですからね。
ラルフは瞬間移動でその難しさを認識したでしょ。
穴自体、エネルギーの塊なので安全なわけがありません。
宇宙にすっ飛ばしていいなら可能かもしれませんが、やはり取り出せませんしね。」
あぁ、そうすると、お気に入りのペンとノートと枕は…。
永遠に失ってしまったということか。
ルーベンスさんに謝って新しいの買わなきゃな…。
「今回は、認識の齟齬があったので、ペンとノートと枕、私が想像して差し上げましょう。
流石に中身まで同じには出来ませんので、新品になりますが。」
本当に?
ありがとう!
神様、あのさ、この世界に空間魔法的なものはないの?
マジックバッグの魔法みたいなやつは。
「攻撃魔法としてはあり得るかもしれませんが…。
空間が歪むほどの超高魔力を練られるなら、それをそのまま相手にぶつけた方が効率がいいですよね。」
たしかに!
それはそう。
「呼び寄せられる魔法はありますがね、召喚の様に。
だけど、家に置いた物を呼び寄せるのに神の力を使うのはもったいないですよ。
何を取り出したいんです?
水は魔法で出せますし…食糧とか?
食べ物を取り出す魔法が欲しいですか?」
んー、そういわれるとなぁ。
生ものとかを保存したかったんだけど、部屋に置いておくのは変わりないなら、結局腐らせてしまうんじゃあね、貰っても仕方ないなぁ。
どっかに時間の流れがおかしな場所があればね、そこへ入れておけばいいんだけど、そんな都合の良いところなんてないよね。
「……えぇ、ありませんね。」
はぁ、異世界初心者パックから何か選べば便利そうだと思ったんだけど、何もうまくいっていない気がするよ。
あ、鑑定は神様さえ的確な解説をいれてくれたなら成功していたけどね。
「あれは大変でしたね。
情報なんて刻一刻と変化するんですから。」
たしかに!
あれは神様に質問しまくるっていう能力だったもんなぁ。
悪いことしたな…。
次は人に迷惑かけない能力がいいな…。
「なにも思い浮かばないなら、私からお願いしたいことあるんだけど、いいかな、ラルフちゃん。」
ん?いいよ、なに?タナさん。
「石碑の周りの花が元気なくなってきてるの。
あそこは私とティナが居たから、小さな神域みたいなものだったからね、花が咲き誇っていたのだけれど。
ほら、私がこっちにきちゃったでしょう?
もう、供養がどうとかじゃなくって普通のお花畑なのよ。
出来れば土魔法とかで元気にしてあげて欲しいの。
好きな場所だったから。」
花を咲かせる能力か、いいじゃない。
「決まりましたね。
では次の能力は、土属性魔法です。
では、幸せな人生を。」
…
……
………
「あなた、嘘をついたわね。」
「え?なんですか?
どれですか?」
「ここって別の空間よね。」
「あぁ、そういう事ですか。
そうですね、別の空間です。
確かに時間の流れもおかしいところですね。
あぁ!
ラルフは神域を下さいって言っていたのですか。
いやー、流石にそれは無理ですよ。」
「ダメなの?
それくらい、いいじゃない。」
「ダメ、というより出来ないんですよ。
前に説明した通り、神っていうのは、現象が意識を得た存在ですからね。
神域もそれにくっついているに過ぎないんです。
貴女にもありますよ、神域。」
「それは知っているけど、あの子がここに物を投げ込むようには出来るでしょう。」
「…出来ますね。」
「取り出しは?」
「私が運べば…。」
「嫌なんだ。」
「嫌でしょう?何を入れられるか分からないのに。
どうするんですか、魔物の首とか大量に入れられたら。
貴女の神域に繋いで実現しますか?」
「それはちょっと…。」
「そうでしょう?
出来ないって言った方が平和です。」
「それは…そうね。」
「ね。」




