神の子
気絶し、剣聖に抱かれた、次期剣聖となるであろう少年。
そしてそれに心配そうについて行く聖女と呼ばれる美しい女の子。
圧倒した決闘。
婚約者を抱き寄せた際に降り注ぐ天からの祝福。
剣聖との死闘。
使っていた木剣のメーカーや足のサイズまで。
それはそれはもうセンセーショナルに報道された。
吟遊詩人は歌にしたし、新聞屋は普段より気合を入れて、絵までつけて一面で採用した。
見に行ったもの達は大袈裟に様子を語り、その話は他国までも渡って行った、らしい。
5日で。
まだ終わってから5日しか経っていないのに。
なぜ他国へと渡ったのが分かるのか。
手紙や送りものが届いたのだ。
どこかのお姫様や、教会本山の偉いらしい人から。
一番遠いところだと、馬で4日ほど離れているところからの贈り物だった。
計算が合わないくらい早い。
往復8日かかるはずでしょ?
5日で届いていい訳ないじゃない。
普段使っていた家の隅にあった木剣。
一応ブランド物だったらしく、そのメーカーから使っていることへのお礼の手紙と、柄頭に白い花の意匠がついた特製の木剣が送られてきた。
片道4日の距離を5日で往復して、シグネチャー木剣まで用意する。
メーカーの本気をみた。
これからも同じところを使おうと心に決めた。
なんか、断るの怖いし。
だけどまぁ、ここまでは伝聞なのよ。
何故なら僕は気絶したまま屋敷へと帰って来たあと、2日ほど眠り続けてから、まだ外に出ていない。
この3年で外出する習慣を完全に失っていた僕は、目が覚めた次の日からまた普通に練習を始めていた。
日課になっていたので、やらないと気持ち悪くなっていたからね。
しかし今日の新聞を見て、事情が変わった。
神の子ラルフってなんなんだよ…。
慌ててお父さんを探しているがどこにもいない。
ララさんに訊ねると、なんと兵舎を襲撃して、その後王城へ呼び出されて行ったきりになっているんだとか。
なんで?
警察に捕まってるみたいな感じ?
僕とシャルルさんの対戦中、家族全員がお父さんにしがみついて乱入を止めていたらしい。
お父さんの握りすぎた手のひらからは血が流れ、食いしばりすぎた奥歯は砕けていた。
それはもう恐ろしい形相で乱入しようとしていたとか。
しかし僕が死魔法を使い善戦し始めると、声の限界を遥かに超えて応援し続けて、完全に喋られなくなるほど喉を潰したらしい。
…死魔法を使ってからの戦闘時間って2分か3分くらいだよね…?
「そうよ、先生ったらその短時間でカッスカスの声になっちゃったんだから。」
とはララさんの言。
終わった後は落ち着いたもので、ご機嫌だった。
そのカッスカスの声で、帰ったらたくさん褒めてあげような、と言うくらい。
でも、次の日に豹変した。
絵姿付きの新聞を観た後に。
溺愛する息子との2ショット絵姿に憧れていたお父さんは、キレた。
ここまで我慢に我慢を重ねて、ギリギリでシャルルを襲撃していなかったのに、自分より先に2ショット絵姿になった怨敵にブチギレた。
爆発しちゃった。
アンヌとの2ショットなら切り抜いて額に入れていたであろう。
しかし、シャルルさんとの2ショットは別。
届いた新聞に描かれた姿絵を見事な魔法で燃やし尽くし、表情のない笑顔で出かけていくと、そのままシャルルさんを襲撃したのだった。
国が誇る賢者と剣聖の戦いは練兵場で突如始まり、兵舎まわりを破壊し尽くし、最後にはシャルルが気絶し、お父さんが勝った。
若くなり気力に溢れていたこと、ラルフ戦のすぐ後でシャルルが気力も体力も萎えていたところだったというのが勝敗を決めたと、あとでブランドさんから聞いた。
これにより困ったことが起こった。
超強い魔法使いが冷静になったころ、その場にいた兵士たちはこう思った。
「…誰だ?」
戦っていた様子からサシュマ様かと思った。
あぁ、いつもの二人の喧嘩か、巻き込まれない様に遠くから見学しようなんて思っていたら、サシュマ様っぽいけど明らかに若い、知らない人だった。
そこに共に訓練中だったカルとブランドたちが駆けつけたのだが、それにも問題があった。
具体的に言えば「たち」の部分が大問題。
その人物は、カルさんの兄弟子でブランドと同年代。
2人と仲が良く、いい加減やめてくださいと周りに言われているのに抜け出して剣の練習をする男。
そう、お前が始めるんかいでお馴染みの王様がいたのだ。
兵士だけなら問題はなかった。
いつものことだし、私はサシュマの息子だなんだとか煙にまいて、修理費用を支払って終わりだった。
しかし誤魔化して、もみ消すには厄介な相手がそこに居て、横にいる脳筋二人が、サシュマ様!何やっているんですか!なんて口に出して言ってしまったなら話は変わる。
そうして連行されて行ったジェマことサシュマことお父さん。
当然必要な王様や偉い人への説明。
その中で、神がラルフを育てさせるために私を若返らせた。
なんて口走っちゃった。
当然のことだが、お父さんは自分が若返った理由を理解してなどいない。
神との対面で喜びのあまり気絶している間に若返ったから当然だけど。
神職者らしく、自分に起きた奇跡に対して神が何を望んでいるのだろうなんて熟考した。
考えに考え抜いて出した結論はちょっと斜め上だった。
ラルフがあまりに可愛くなっていくうちに、ラルフが来てくれて嬉しい。
ラルフが私の元に来た運命に感謝。
ラルフが私の元に来たのは神からの運命で、ラルフを育てさせるために老いた私を若返らせたのだ!
とまあ思考が2段階進化。
ラルフがいかに神聖かと、吟遊詩人もビックリな演出を加えながらの妄想を、昨日の後遺症でカスカスの声で熱弁してしまった。
そこにいた偉い人達は決闘場にもいたし、空から光が降り注ぎ祝福される様子も観ていたので、なんか納得してしまったのだった。
王様に至っては、シャルルが決闘をデカくする為に、神の子かもしれないと適当なことを伝えていたので、信じる他ない。
僕の立場。
昨日の決闘までは、賢者の孫と言う無難なもののはずが、真の聖剣士というキラキラしたものに。
それならギリカッコいいまであったけれど、目が覚めた途端、不本意にも神の子というちょっと抱えきれない立場になってしまった。
なんでこうなったのか。
まさに、父と神からの祝福の結果なんだけれども。




