楽しい楽しい剣の時間
ははっ。
割と動かしてきたとはいえ、慣れねーちびっ子の身体よりは馴染むってもんだぜ?
なんかテンションがあがるわなぁ。
別に前世で喧嘩自慢って訳じゃないが、男なら妄想した事ぐらいあるだろう?剣を握って戦うことをよ。
そん時ぁ、そうだな、自分が圧勝する場面ばかりだった気がするが、まぁ仕方ねぇ。
ままならねぇもんなのが人生ってやつだ。
なんだよ爺さん。
楽しそうな顔しやがって。
こっからどうなるのかワクワクしてんのか?
悪いけどさ、別に何も変わらないのよ、これが。
力は増したし、リーチも伸びた。
動かしやすくなった分、技術的にもマシにはなるだろうが、ただそれだけ。
でも頑張るからさ、楽しんでいってよ。
さ、やってみようか。
俺は自分から爺さんの懐に飛び込む。
今までは体重差のせいで選べなかった選択肢だが、単純に重くなったからな、イケるだろ。
ダメかな、ダメかもな。
ま、行ってダメならそれから考えりゃいいか。
所で、この重たくなった分の質量ってどこから来てんのかね。
今考えることじゃないか。
あはは、楽しくなってきたよ。
持ってる全部をぶつけられるっていうのは、楽しいよなぁ。
突撃してみると、吹っ飛ばされはしない。
だが剣技は圧倒的に爺さんが上。
ま、そりゃそうだ。
年季が違うってな。
それでもなんか、やっぱり調子がいいな。
目で追えているし、身体はキレてる。
今までは体格のせいで受けの選択肢が狭くなっていて逃げ場がなくなっていたし、強く弾かれただけで体勢を立て直す必要もあった。
剣を剣で受けられる、たったそれだけで被弾は減るもんだよな。
ということは、少し無茶な攻撃、も、出来る!
ガツンと当たる剣。
木製のそれから、破片が飛び散る。
おーおー、折れなきゃ上等よ。
爺さんとやるって、分かってりゃあな、釘でも打ち込んで来たんだが。
あんまり意味ねぇか。
魔法でコーティングしてんだから、この剣。
はっはっは!
打ち合えるっていいな!
爺さん!
「シャシャシャシャ!いいじゃないですか!
重い!芯まで来ますよ!」
チッ、なんだよ、まだ余裕じゃねーか。
でもな、今までやりたくても出来なかったこともあるんだ。
打ち合えるってことは近づけるってことだろ?
近距離まで。
避けるマージンが必要な距離だとさ、難しかったんだが
…。
さ、くらいな。
俺は風魔法に火魔法を載せて放つ。
火は、風を受けて炎となり、2人を包み込みながら燃え上がる。
熱いか?こっちには聖魔法があんだから多少の火傷は織り込み済みなんだよ!
サウナ好きだったしな、前世で。
俺の方が有利だろ。
嫌だけどな、火傷確実な自爆技なんてよ!
親が泣くぜ。
喰らえ、火炎旋風だ。
燃えて全裸になりなよ、妖怪ジジイが!
せめて恥ずかしい目に合え。
いい歳してはしゃいでる罰を受けろ。
「忘れてるんじゃないか?
私を何処の所属だったと思っている。」
お?
炎の中、姿は見えないが、声が聞こえてくる。
確かに。
聖騎士団長様だっけか、元。
聖魔法はお手のものね。
ははは、なんだ?
喋り方が荒れてきているな、素が出て来てんのか爺さん。
指導モードはどうしたんだよ。
俺は距離を取りながら野球ボールほどの土を生み出し、シャルルへと投げる。
ほらほら、受け切ってみなさいよ。
曲がるぜ、その球。
避けられるかな?
変化球なんてもん見たことないだろ?
野球なんてないんだから、この世界。
あんのかな、ないよな、多分。
ジェマさんなら、親子っぽいキャッチボールイベントをスルーするとは思えないもんな。
飛んでくる球を、爺さんは難なく剣で切り飛ばしながら近づいてくる。
やるじゃない、アンタいいバッターになれるよ。
贔屓のチームに入ってくれたらよかったのに。
そんだけ当てられるなら、首位打者目指せたかもな。
でも残念。
ボールの一つはハズレ。
なんにでもあるだろ?
沢山ある中の一つはハズレ。
スリルはエンタメの基本ってね。
土魔法で固めたボールのなかに水を入れて、カンカンに熱したそれは、衝撃を与えると水蒸気爆発を起こす爆弾。
衝撃も中々だろうし、煙が吹き出して真っ白な視界では対応も遅れるだろう。
目眩しの間に踏み込んで剣を振るう。
ここまでやって、なんとか綺麗に攻撃が入れられるかと思ったがな…。
いやー!ダメか!それでも身体と剣の間に腕を滑り込ませて来た。
でも、痛いだろ?
上裸だもんな、皮膚に剣はあたっているんだから、痛そうだ。
やっと入れられた、生身への一撃。
へっへ。
やってやったぜ。
驚いたろ?一矢報いられたかな?
そして、それで終わりだ。
剣に纏わせた風魔法を、切り傷から送り込む。
大した量じゃないが、爺さんの固くなった血管には致命的だろ。
死ぬかもな。
ま、魔法で治してやるから安心しな。
この姿の方が、外科手術は得意だぜ。
「なんだこれは。
こんな手があるのか。
シャシャシャシャ。」
腕から上がっていく空気に気がついた爺さんは、膨れ上がった皮膚を自分で斬り、空気を押し出して対処した。
血が飛ぶ。
人によっては卒倒しそうな量だが、爺さんは笑顔だ。
怖いよ。
医学的な仕組みも知らないはずなのに、この魔法の対処にどうやったら気がつくんだ、妖怪め。
「お前、デカくなって態度が悪くなってないか?
生意気になりおって。
楽しいの!」
確かに楽しくなってるよ。
ま、お互い様だろ?
その後も斬っては斬られ、治す。
魔法で隙を作ろうとすると、お返しに聖魔法の光で目潰しをされたりとまぁ、楽しく戦っていた。
そんな剣戟は続く。
しかし、爺さんのなんの変哲もない、牽制目的の横薙ぎを受けようとした時、俺の身体に異変が起きた。
ありゃ?
少しクラっとしたかと思うと力が入らなくなった。
入らなくなったんじゃないね、力が無くなったんだ。
あーあ、時間切れ…。
子供の身体じゃ、受けるのは無理か。
受け止め切れずに剣ごと押し込まれた「僕」は、そのまま吹き飛ばされる。
くそー!
もう何個か手を考えていたのになぁ…。
意識が朦朧とする。
想定外だったからダメージが大きい。
それでも立ちあがろうとする僕が最後に見たのは、満面の笑みを浮かべながら剣を掲げた、嬉しそうなお爺さんの姿だった。
満足げな顔しちゃってさ。
その剣が動いた瞬間、僕は意識を手放した。




