茶番
いや、ダメでしょ。
相手が上段から斬り掛かってきたところで実力が分かってしまった。
相手の力量を確かめもせず大振りする程度、ということをだ。
いつもの訓練に比べると弱々しく降ってくる剣を避けて肘に攻撃を合わせると、ベジェリンは剣を落としてしまった。
なんだこれ。
ルーベンスさんなら肘を狙えるようにしていた事自体罠だ。
ブランドさんなら、そもそもあんな速度で剣は振らない。
大慌てで剣を拾い、少し間合いを取り直すベジェリンに、僕は興味がなくなって来たよ…。
え…終わらないの?
剣を落としたでしょ。
やろうと思えば何でもできたよ?
剣士が剣を落としたら負けでしょ。
普通に疑問だって。
いつもの訓練ではこんなもの見逃してもらえないし、見逃さない。
何だったら罠かと思うくらいだもん。
「偶然うまいこと肘に当たったからと言って終わりだと思うなよ!
身も切れておらんわ!」
身も切れていないのは当然でしょ。
僕は木剣だし、剣に魔法で硬くもしてないんだから。
危なく腕を切り落としてしまいそうになったから、魔力を直前に抜いたんだよ。
まさか本当に当たると思ってなかったからゾッとしたよ。
っていうか、ベジェリンは真剣なんだね。
真剣使っていいんだ。
まぁ、使って良いって聞いていても、僕は木剣を選んだけれど。
だってわざわざ魔法で硬く出来る剣を、重い鉄にする意味もないし。
もしかして、これって結構差がある感じ?
僕の方が大分強いかも。
もうやめない?意味ないよ。
審判の方をチラッと見ても止める気がないようだ。
完全によそ見をしている僕を見てか、おお!と雄叫びを上げながらベジェリンはまた振り下ろしてきた。
当たらないって、工夫するか、そもそももっと強く速く振らなきゃさ。
んー、もう少し分かりやすく決着しないといけないのかな。
剣を落としたら終わりだと思っていたよ。
次振ってきたら受けてみようかな。
力は向こうのほうが強いかもしれないし。
剣を軽く受け止める。
あら、そうでもなかった。
それにベジェリン、そんなに強く握りすぎたらダメだよ。
振りも固くなるしね。
僕は手首を軸に剣を回し、くるんと巻き取りベジェリンから剣を奪う。
握りすぎたらこういうのを防げないんだよね。
習い初めの頃、ルーベンスさんにやられたよ、僕も。
◆
観客は流石に気づいた。
実力が違いすぎると。
だって、剣を取られちゃってるんだから。
しかしなおベジェリンは諦めずに素手で立ち向かう。
「くそ!なぜ当たらん!なぜだ!」
ベジェリンは学園では強い方だった。
体格も良く、将来は剣術大会に出るだろうと言われていたし、事実あと3戦勝てば本戦というところまで進出していた。
しかしラルフは大会優勝者から、上手くやれば一本取れるレベルになっている。
3年間のイカれた努力と、真摯な祈りで鍛えられた加護のお陰で、ベジェリンの攻撃は止まって見えるようだった。
必死に腕を振る相手が何だか可哀想になって来たラルフ。
考えたらアンヌの方が大分強いのも悲しい。
ベジェリンをよく見ると薄っすら涙目だ。
ベジェリンから奪った剣は真剣をよくみると、そこからも実力の程が伺えた。
この世界の熟練者は刃をつけない。
欠ける原因になるだけだし、どうせ魔力をこめるのであれば、金属部分を厚めに取っておいた方が、魔力を込める余地が多くなるからだ。
指向性を持たせるため多少角度はつけるが、こんなピンピンに研ぐ意味もない。
魔法を武器に込める能力が低いと言っているようなものだ。
ラルフはベジェリンの剣から手を離すと、木剣に魔力を込めてぶった斬った。
そうして木剣を腰に戻して、ベジェリンに相対し直した。
もう思いっきりぶん殴ることにしたのだ。
弱いものいじめしてるみたいに思えてきたが、あまりの諦めの悪さにイライラしてきた。
剣でやっちゃうと大変なことになりそうだし、素手でぶん殴ることにしたのだ。
腹にしておくか?
顔は可哀想だしな…。
「あの美しい女は!俺がもらうのだ!」
この後に及んで、そんな自分勝手な理由で諦めないベジェリンの顔面にラルフの拳がめり込んだ。
「アンヌを物扱いするなって言ったよ。」
吹き飛んだベジェリンはピクリとも動かない。
殺ってしまったかと思って肝が冷えた。
近づいて確認すると、大泣きしていたので大丈夫だろう。
「勝者!ラルフ!」
やっと勝ちを宣言されたラルフに、アンヌが飛び込んできた。
「よかった!ラルフ!
勝ってくれてありがとう!
…私がやってても勝てたかもね。」
それは、そう。
会場では拍手が起こっていた。
美しい剣士が美しい聖女を抱き留める姿は、それは美しかった。
涙を流すものもいた。
しかしそれは大金を失ったことに対してで、試合の感動なんかは微塵もない。
感動の涙を流すのは、ここまで成長したラルフを溺愛しているジェマと達成感に満ち溢れているシャルルだけだ。
「さ、ラルフ様。
剣を掲げて下さい。
観客に応えなくてはなりません。」
審判に促されて剣を高く掲げると、歓声が響き、空からラルフへと光が降って来た。
それはまるで、神からの祝福。
聖典の一文の様な光景であった。
◆
うわ…!なんだこれ!
まさか…祝福ってこれ?
最悪だよ神様…。
こんな白けた試合でやめてよ…。
目を見開き、神職者達が立ち上がり、ジェマが頭を抱える。
彼らには神聖な光ということがすぐに分かった。
真の聖騎士が誕生した!
神が祝福されていられる!
なんて声がちらほら聞こえてくる。
後者は正解なんだけど、ちょっとニュアンスが正しく伝わってないから静かにしててほしい。
万雷の中、ついに我慢できなくなった聖職者の剣士の元団長、シャルルが観客席から飛び降りて来た。
クソジジイはゆっくりと拍手をしながら歩み寄って来る。
「おめでとう、我が孫とその伴侶となるものよ!」
うるさいよ!
誰のせいでこんな事になったと思ってんだ!
歓声は割れんばかりに響き渡り、会場が揺れて大きな拍手が鳴り続けている。
何故お父さんまで拍手しているのか…。
完全に雰囲気に呑まれちゃってるじゃない…!
「神からの祝福もあってめでたいな!
しかしなぁ、試合自体はあんまりな実力差だったので、観客も白けてしまっただろう。
でも安心して欲しい。
義孫の実力は私が直接確かめよう!
さぁ!やろうか!ラルフ!」
この妖怪がとんでもないことを言い出した。
アンヌの、孫娘顔を見ろ!
無だ。
無だぞ!




