始めぃ!
待たされすぎて眠たくなってきた所、扉がノックされた。
返事をすると案内係のお姉さんがやって来て、いよいよ舞台に向かう時間だと言う。
「そろそろ準備をお願いいたします、ラルフ様。」
係の人は舞台までの道を先導してくれた。
てくてくとついていっているけど、明らかに熱気に近づいている感じが伝わってくる。
僕の覚悟というか、真剣さと、用意された舞台の差に風邪をひいてしまいそうだ。
アンヌは可哀想だと思うけれど、未だになんで決闘する事になっているのかさっぱり分からない。
黒い大きな扉の前にはマッチョマンが2人立っていて、僕と目が合うと、扉を開けてくれた。
その瞬間、気圧差かなにかで風が吹いて来て、僕の身体を貫いた。
うぉぉ、熱気がすごいな、怖…。
決闘自体は楽しいかもしれないと思っていたけれど、こんなに大勢の人前でやるのは気が引けるよ、僕は。
自分が強いのか弱いのかも知らないし。
◆
舞台に登場した主役に、ドッという歓声が起きる。
それに引いて、顔をしかめながら中央へと歩いていったラルフ。
観客はラルフを初めて見る。
感想はそれぞれだが、その中でも教会長は、ラルフィードと瓜二つの容姿に大変驚き、仕事柄どちらにも賭けていないことに安堵した。
顔を見る前に参加していたなら、相手に賭けていたからだ。
綺麗な容姿のラルフは観客に受け入れられたようだが、オッズが物語る本音は、勝てはしないだろうなというものだった。
実際の賭け数でいえばオッズ以上に偏っていた。
ラルフへの賭け金一つ一つが大きいので、最終的に3:7くらいで落ち着いたが、賭け数の実数は0.5:9.5くらい差があった。
彼の家族たちは落ち着いたもので、彼を長らく指導していたルーベンスとブランドは正直負けることはないだろうな、と思っていた。
ルーベンスは、ゴールデンエイジと呼ばれる神経伝達の成長期にイカれた特訓をしているラルフと何度も対峙している。
時折技術で上回れることもあるラルフはまだ12歳。
身体が出来上がったら、並ぶものなどいない。
そんな弟子の才能を認め、自信を持って送り出した。
ブランドも同様で、むしろ大人の大会に出てみても良いところまで行くのではと思っていた。
この剣士の二人も他の家族と違い、ご祝儀的な賭け金ではなく一撃に賭けた。
負けたら生活に支障が出そうな金額だ。
しかし、彼らは自分たちをダメな大人とは思っていない。
確実に儲かる方へ賭ける堅実な投資家なのだ、と本人達は思っているタイプのダメな大人である。
ララ、シー、ティナの女性チームは、ラルフが負ける事なんて考えられなかった。
もし負けたら相手の家を襲撃して有耶無耶にしようとも思っていた。
あんなに頑張っていた皆の弟が負けるなんて世界の方が間違っているので、とりあえず神を滅ぼそうとも思った。
勝手にラルフの肩に世界の命運がかかっている。
ジェマは緊張し過ぎておじいちゃんに戻りそうだ。
朝から数えきれないほどトイレに行っている。
先ほど冷静にラルフに声を掛けられたことを誰か褒めてあげて欲しいくらいだ。
開始直前の今は、オエオエとえずいている。
◆
僕が舞台中央へ行くと相手がもう待っており、なぜか怒りの形相をしていた。
僕が一体、何をしたっていうのだ。
「貴様にアンヌ嬢は渡さんからな!」
声でっか!
アンヌを物みたいに言わないでよね。
大切な友達なんだから。
ほんと、唯一の同年代なんだから、
あ、泣きそう。
「両者とも、準備はよろしいですね?」
どうぞ、この意味のわからない決闘をさっさと終わらそう。
そういえばもうすぐお昼かな。
お腹が空いてきた気がする。
なんか食べて来たらよかったかも。
夜ご飯はなんだろうなぁ。
「それではこれから決闘を始めます。
内容は、アンヌ嬢との婚約を賭けて。
参ったと言うか、決着するまで試合は続きます。
もし殺傷してしまった場合は、必ず一回は相手の墓へ参ってください。
では離れてください。」
え?
殺しちゃダメとかじゃないの?
墓へ参れって…倫理観どうなってんのさ。
ルール説明短いし、禁止事項とかないの?
魔法は?使っていいの?
そういえば誰も決闘のマナーとか教えてくれてないや。
…最初に強く当たって後は流れで頑張ろう。
あ、アレが王様かな?
冠をかぶってる人。
意外と若いのね。
んー。
隣にシャルルさんとアンヌがいるね。
アンヌが心配そうに見ているな…。
変な顔しとこう。
あ、ちょっと笑った。
ふふ、頑張るからね。
ん?王様が立ち上がった?
なんだろう、まだなにか挨拶とかあるの?
「それでは決闘を開始する!
ラルフ!ベジェリン!
両者構え!
始めぃっ!!」
王様が始めるのかい!
予想外のタイミングで始まった決闘に、僕は急いで剣を構えた。
そしてジリジリと迫る相手の名前をここに来て初めて聞いたことを思い出したのだった。
ベジェリン、ベジェリンね。
よろしくベジェリン。




