会場の開場
さぁ、決闘だ。
いざゆかん!
なんてテンションにはどうしてもならないよね。
今朝は剣の練習も魔法の練習も休みにして、ゆっくりと準備をしていた。
朝ごはんも、いつものパンとスープの他に焼いた肉もあり少しだけボリュームがあった。
「頑張ってこいよ、ラルフ。
のまれんなよ、な!
後で応援に行くからな!」
ぺぺさんに見送られ、僕はララさんと連れ立って会場へと向かった。
他の家族は先に会場に行っているそうだ。
なんだよー。
楽しんじゃってさー。
「こっちの方にあんまり来たことがなかったなぁ。
遠くからでっかい闘技場は見えていたけど。」
ハズレの教会への道とも、兵舎の方とも違う、屋台などが立ち並ぶ地域のさらに奥にそびえ立つ闘技場。
遠目に見ても大きな建築物があると分かってはいたけど、用もなかったし、僕には妖怪が取り憑いていたから行動も制限されていたから、この辺をなにも知らない。
僕が戦う会場なんかもこっちの方にあるのだろうか。
国の施設が集めてある地域なのかも。
「私もあんまり行かないからなぁ。
場所は分かるから、案内は任せてね。」
ふーん。
ララさんも忙しいもんね、普段。
ダメな大人のお世話で。
ところで今日はどんなところでやるの?
「闘技大会の会場。
ほら、さっき言ってた、ここからでも見える闘技場よ。
すっごいたくさん人が来るだろうからって、王様が貸してくれたんだって。」
え?あの遠くから見えてるあそこでやるの?
僕が?前座とかかな。
メーンイベントが他にあるんだよね?
チャンピオン同士の戦いとか。
統一戦的なヤツとか。
「他の戦いはないわよ?
シャルル様がいっぱい宣伝したんだって。」
…子供の決闘に来るなよ暇人どもめ。
お互いの家族が来るとかそのくらいの規模感だと思ってたのに。
一気に帰りたくなってきた。
話し合いで何とかならないだろうか。
ならないんだろうな。
到着すると、闘技場前の広場でお父さんと知らないお姉さんが待ってくれていた。
知らないお姉さんは案内係らしく、促されるがままついて行くと、たくさんの人が入って行く大きな門からは離れた、選手用の入り口から中へ入る。
僕専用の控室が用意されているらしく、そこで待つように指示を受けた。
所在がないけど、うろついていい雰囲気でもないから、大人しく座っておこう。
控室の外からはザワザワと音が聞こえてきているなぁ。
30人や40人の喧騒じゃなさそうだ。
そんなに人が集まる?子供同士の決闘に。
なんで?
この都の人たち、そんなに暇なの?
「あのな、クソ剣士が、公的なイベントになるように手を回したんだ。
観客にも大物を呼びつけてな。
緊張させたくはないが…王が見てるぞ、ラルフ。」
天覧試合みたいなもの?
ぇえ?
王様も暇人なの?
「3年かけて喧伝し回ったらしい。
前にも言ったがな、お前は神様によく似ているのだ。
当然聖騎士だったあの馬鹿にも気づかれている。
それを王に伝えたのだろうなぁ。
私には何も通達が来ていないから深刻ではないだろうが。
神子だと思われているかもしれんな。
ラルフが大人になるまで、あまり存在を公にするつもりはなかったのだが…もう仕方ないな。
楽しんでおいで。」
そうか、神様公認の神子ではあるんだけど、周りからそう思われるのは面倒だなぁ。
僕にはどうしようもないし、お父さんの言う通り、楽しむしか自分を慰める方法がないけれど。
どっかにホットドッグとか、プロ野球カードとか売ってないの?
東京ドームみたいなもんでしょ、ここ。
ないか。
野球がないもん。
はー、始まるまで神様に報告でもしながら瞑想でもしようかな。
まずは落ち着こう。
やってらんねーって気持ちがしかないけど、せっかく対人戦を経験出来るんだし、やれる準備はやっておかないと、相手に失礼だ。
◆
ラルフがどこか楽観的に待機している中、アンヌは別の控え室でため息をついていた。
なにがどうなって自分が賞品になってしまったのか分からないが、これから戦いが始まる。
その上そんなに親しくもない聖騎士団長の息子がやって来たのだから余計ため息も出るというものだ。
「安心してくれ、アンヌ嬢。
今日、私が勝って貴女を自由にしてみせる。
いきなり婚約してくれとは言わぬ。
年も少し離れていて不安もあろう!
だが!
勝者に笑顔をくれる、それだけでいいのだ!
それだけで戦士は報われるのだ!」
この二十歳も過ぎたであろう男は本当に話を聞かなかった。
のしのしとアンヌの元へやって来て今までずっとこんな様子。
アンヌは、何か言う隙間もなく、はぁとかそうですかの合槌くらいしか言葉を発していないが、彼はどんどん盛り上がっている。
そうして一人で喋っているかと思えば、
「では!私は!試合があるので!これで!失礼する!
また!後でお会いしましょう!」
と大きな声でのしのし出ていったのだった。
アンヌはほぼ初めての対面のあと、一つのことを決めた。
ラルフを応援しようと。
…ラルフ君、頑張って!超頑張って!
あの人が勝ったら結婚まで一度も話を聞かれないまま進んじゃう!
彼の評価は決闘騒ぎをおこしたことで既に地の底だったのだが、更に下へと掘り進めたようだ。
観客席はなかなかの人だかりで、その人達は魔法の大家サシュマの孫と現聖騎士団長の息子が、最近学園で聖女なんて呼ばれ始めたアンヌを取り合うというドラマチックなストーリーの結末を見に来た。
という建前で実は賭けの興行にされていた。
人を集めれば色々と決着するだろうと考えたシャルルが王に提案し、面白がった王様が了承した。
現在、2:8で圧倒的にラルフが不人気だった。
少年が青年に対して、女の子のために立ち向かうというストーリーは大好物でも、現実的に無理だろうと思われている。
「サシュマ様のお孫さんはまだ12歳くらいだろ?
団長様の息子は二十歳だぞ?勝負になんのか?」
カルはここ最近、何度も何度も同僚たちから問われていてうんざりしていた。
「いや、だからよ、わかんねーんだって。
ラルフと練習はしてたけど、頻繁じゃないし、俺も横で団長にしばかれてたんだから。」
「それで?カルはどっちに賭けたんだ?」
「うるせーな、どっちでもいいだろ!警備に戻るぞ!」
実はカルはラルフに賭けていた。
3年前は圧倒的に自分より弱かったラルフ。
しかし3年間の努力を知っているし、アレはちょっと常軌を逸してるとも思った。
なんせ明け方から夜までずっと剣の修行。
なにを目指しているのか聞こうと思ったのは一度や二度じゃない。
そして最後にみたラルフの訓練は、アンヌに攻め込まれながら、シーとティナから魔法を打ち込まれている様子だった。
3対1でもややラルフが優勢だったのだ。
驚いたカルが弟弟子のルーベンスに聞けば、ラルフ対ルーベンスでは3回に1回はラルフが取れるようなったらしい。
ちなみに団長相手には5回に1回くらいは良いところまで持っていけているとか。
おいおい、天才ルーベンスと剣鬼ブランドから取るのかよ。
…天才過ぎねぇ?12歳だぜ?
まぁ、普通あんなに訓練しないし、アレを毎日毎日1000日ほど続けている。
学園に通いながらの片手間で、あの剣と魔法以外削ぎ落としたような生活をしているラルフに勝てるわけないと思った。
ラルフを尊敬してきていたカルは、この興行が賭けの対象になると知ってから貯金を始めて、ほぼ全額ラルフに賭けていた。
ご祝儀賭けと呼ぶには、その額は常識を大きく越えている。
この会場の中にいる人間全てで、アンヌの次にラルフが勝つことを、真剣に神に願っているだろう。
一撃に賭ける剣士らしい男、カル。
そう、彼もまた、ダメな大人だった。




