ほう、れん、そう
「タナさん、どう思う、これ。
なんだってこんなことになったんだと思う?」
今更外出禁止もないので、決闘の前日に僕はハズレの教会に来ている。
実はこれまでも全く外出していないわけではなく、このハズレの教会にはよく来ていた。
ブランド、アンヌ、そしてアンヌママであるマニエールさんと共に、鐘を鳴らす仕事に付いてきてお祈りをしたりしていたのだ。
そうそう、鐘守はマニエールさんの家系の仕事らしい。
そのマニエールさんはおっとりした女性だが、対シャルル最終兵器らしく、彼女がいるところならシャルルさんは襲ってこないらしい。
なにやったんだマニエールさん。
本当は鐘守の家系じゃなくって、陰陽師とかだったんじゃないの。
しかし彼女もアンヌと僕の婚約騒動には賛成派らしく、決闘話を聞いた時も、ロマンチックねぇ、の一言で終わったらしい。
確かに強いかも。
あとで分かったことだが、家にマニエールさんとシャルルさんが2人でいるときに、この結婚がどう有意義なのかのプレゼンが完了してしまっていたらしい。
マニエールさんも、ダメ貴族からの婚約話に腹を立てていたらしく、反対する理由がないんだって。
というわけで、対シャルル最終兵器は味方につけられなかった。
なんでシャルルさんはマニエールさんに弱いのか。
いつか誰か知らないか聞いてみようかな。
おっと、なんの話だっけ。
あー、そうそう、決闘話だ。
「あのね、ラルフちゃん、そもそもよ?
強い子が大好きなお爺さんには剣に興味ないふりをしなくちゃいけなかったんじゃない?
お爺さんを凌げるようにって、どんどん強くなっていく子供なんて大好物に決まっているじゃない。」
そうじゃん!
剣聖の後継を探しているから目をつけられたのに、強くなっちゃダメじゃん!
何で3年間、誰も気が付かなかったんだ。
「ティナもこの間、弟に婚約者が出来るかも、いい子だよって言ってたわよ。
貴方、外堀を完全に埋められているじゃない。」
おぉ…。
そうか、ティナも賛成派なんだ…。
「どうする?神様に会っていく?
貴方の生贄で私の神格も上がったから、死なないで連れて行けると思うわよ?」
生贄っていうのやめてよ。
お供物ね。
でも、タナさんが偉くなったなら、毎日お供えし続けた甲斐があるよ。
死なないのなら、会いたいかな。
生贄の能力は気に入っていたからかえたくなかったんだけど、死なないなら変わらないよね?
石碑にお供えする時は瞑想にもなるし、タナさんと神様に報告するのが日課になっていたからさ。
じゃあお願いしようかな。
僕は目をつぶり、タナさんに心を委ねた。
ふわりと何かの力が僕を包み込み、心地よい気分でいると、どこからか「あっ」という声が聞こえる。
え?ダメだよ!
神様と医者のあっ、だけは!
◆
「死にましたよね。」
ですよね。
そんな気はしたんです。
「ラルフちゃん、死にやす過ぎよ。
魂ガッバガバじゃない。
スルッと身体から抜けて死んじゃったわ。」
そんなこと言われても…。
タナさんが大丈夫っていうから!
「ま、いいんじゃないですか?
今更騒いでも仕方がないし、ね。
お久しぶりですね、ラルフ。
3年ぶりですか、大きくなりましたね。
こう言うのもなんですが、会いたかったですよ。」
うん。
久しぶり、神様。
僕も会いたかったよ。
「決闘をするらしいじゃないですか。
どうします?
剣術の能力を持っていきますか?」
いや、やめておくよ。
相手もいるし、僕も3年間頑張ったんだから、それはズルい気がする。
やるなら自分の力で。
「そうですね。
自分の力で頑張る時ですね。
なら今回は戦闘に関する能力はやめておきましょうね。
今回、私に能力任せてみませんか?」
知能の時みたいな感じか!
あの時も必要な能力くれたし、任せてみちゃおっかな!
「うん。
では能力を与えておきますね。
戦闘の能力ではないので、存分に戦って下さい。
応援してますよぉ。
次の能力は祝福です。
頑張って下さいね。」
神様からの応援なんて贅沢だね。
祝福か…。
中身は想像がつかないけど、危なくなさそうだ。
ちょっと安心だね。
ラルフが光に包まれたあと、タナは気になったことをラルフィードに尋ねた。
「祝福ってなに?
あの子全然気にしてなかったけど、なんだか不安。」
「あぁ、本来一時的に加護を強めるという、使徒用の能力なんですが、ラルフには加護を与えていないのでただ空が光るだけですね。
婚約のお祝いにちょうどいいかと思いまして。
剣を上に掲げると空が光ってラルフを照らすだけの能力ですからね。」
「加護…あるわよ。」
「え?
貴女の加護は知っていますが、そんなに強いものではないでしょう?」
「ええ。
でも、加護をあげた時に知ったんだけど、あの子もう一つあるわよ。」
「え?
ラルフに関わりのある神はそんな何柱もいないですよ?」
「じゃあ前世の神様かしらね、獣の神様ヤイシャって言うんだけど…。」
「あっ。
そういえば…私が神にした獣の神がラルフを気に入っていましたね。」
「…貴方の祝福は他の神の加護は強くならないのよね。」
「多分…?」
「ちょっと!
加護ってなんなの?
私もあげといて今更だけど。」
「神によって違うんですよねぇ。
タナの加護はもう一度発動してますよ?
ほら、シャルルが襲って来た時に、ゆっくり感じたって言ってたでしょ?
アレです、アレ。」
「あら、ラルフを一度守れたのね。
命を守るのに便利そうな力なら、それはうれしいけれど。」
「そうですね。
ラルフが速く動けるわけではないんですがね。
認識だけがちょっとだけゆっくりになるみたいですね。」
「それで?
ヤイシャちゃんの加護は?」
「えーと、調べてみましょうか?
んー。
…いざという時に、速く動けるようですね。
野生動物の神ですので、信仰者が逃げられるような能力になるのでしょうね。」
「ふーん。
じゃあラルフちゃんの加護が発動したら、周りが遅くなって、ラルフちゃんは速くなるのね。」
「本人的にはそうですね。
相対的にはすごく上手く動けるようになるように見える程度ではないでしょうか。」
「祝福はそれを強化するのね。
ラルフちゃんがすっごく速くなって、周りがすっごく遅くなると…。
それに勝てる人いるの?」
「…人間に限界なんてありませんから。
それに私以外の加護が強くなるのかはまだ分かりませんし、ほら、あの、強くなったとしても、別に大したことないのかもしれませんし。
さ、ラルフを応援しましょうか!
友の晴れ舞台ですよ!」
「…早口ね。
祝福を受けないなら、ちょっと速くなってちょっと遅くするだけ、か。
私たちの加護には効かないかもしれないし…。
ま、変なことにはならないでしょ。」
タナは知らない。
これまで神がラルフへ何かした時に、変なことにしかなっていないことを。




