脳筋
「頭が冷えたなら、きちんとラルフの話を聞いて。」
僕はもう一度訓練の説明をした。
手がボロボロなのは自分で選んだことで、痛くないとどこが悪いか分からないからそのままにしている。
問題などないこと、剣が楽しかったことを。
養子に来いと言われたことと、逃げ帰ったこと、隠れていたのと祈っていたので遅くなったことは言わないことにした。
2度目の怒りは多分止められないからね。
「そうか、楽しかったのならよかった。
しかし…あんまり遅くなるとな、心配はするんだ。」
それは、はい、ごめんなさいだね。
「手のことも分かったし、私も剣士だったから理解できる部分もあるからうるさく言わないけど、変な感じがしたら必ず言うのよ、ラルフちゃん。
無理してどこか痛めることだってあるんだから。」
それも、はい、ごめんなさい。
「ラルフ、ちょっと手を見せてください。
この手は1日で…?
…親父、変なこと言いませんでした?
養子になれとか。」
ヒッ…バレてる…。
言われました……言われちゃいました。
「やはり剣術馬鹿を襲撃しよう。」
断ったから!断ったから落ち着いて!
「兄貴、この手見て下さい。
よく逃げられましたね、ラルフ。」
「うん、成長を感じられるいい傷跡だな。
…一体どうやって逃げ切ったんだ?ラルフ。」
手でそこまでわかるのか…!
聞けば、現役の聖騎士団長時代から、その辺の子供に剣術を教えるは毎度の事らしく、気に入った子供や素質のある子供を捕まえては兵舎のエリートコースへぶち込み続けてるらしい。
その中には、やはり学園の子供も混じっており生徒の食い合いや、文官に育てたかった親からの苦情が学園に行き、お爺さん二人がバチバチにやりあってきた歴史があるんだって。
ルーベンスさんとブランドさんも実の兄弟ではなく、ブランドさんはシャルルさんの実子、ルーベンスさんは捕獲された直弟子。
後にルーベンスさんが正式にシャルルさんの養子になったし、訓練を通じて仲が良かったので、そのまま兄貴と呼んでいるとか。
「剣術も大概やったんですけどね。
戦争で実家の長男が亡くなり、没落しそうになって、急ぎ実家へ戻ってから文官仕事をやりだしたんです。
結局家はなくなりましたが、無理言って実家へ戻った手前師匠の元へ戻るのも、ということで先生の元で働くことになったんですよ。」
はえー…。
歴史ありだね。
「ルーベンスの時は何日くらい追われたっけかな。
3日くらいか。
それで家族が根負けして養子にだしたんだっけか。
…あの頃のお前、初日にここまでやれたか?」
「そんなわけないでしょ。
…ラルフ、どうやって逃げたか詳しく教えてもらっていいですか?」
「えーと…
シャシャシャシャって笑いながら手を繋ごうとしてきたから、身体を半分引いて、手をこう、シュッてたしたら顎に偶然当たって、シャルルさんが気絶した。」
二人が絶句している。
なんだ?何がおかしいんだ?
ちょっと待っててください、と言いルーベンスさんが屋敷の庭の隅から剣を持って来た。
「ちょっと今日教わった通りに振って頂けますか?」
振ってと言われてもな…。
一つしか習ってないし…。
フッ
こう!
で
フッ
こう!
お?
ちょっと良かったな。
今日のことだからまだ身体が覚えるや。
でも最後の方もっと良かったよな…。
こう!でこう!
んー。
こう!で、あぁ、そうだ。
ここでぐっとしてこう!
これこれ!
どう?いい感じ?
「…兄貴、アンヌは何歳だ。」
え?どうだったの…?
僕の剣はどうだったの?
「11歳、今年12になる…。」
アンヌはそのくらいの歳なのね。
で、どうだったの?
よく振れてた?
「ラルフはもうすぐ9歳……丁度いいですね。
ラルフ、今日から塀の外にはしばらく出ないでください。
外から呼ぶ声がしても答えてはいけません。
その声に応えると大変なことになります。」
えぇ…?なんか、それ、怪談みたいなんですが。
カルさんに剣術習いに行こうと思ってたのに、妖怪に取り憑かれてるみたいに言わないで欲しい…。
「剣は私が教えますから。
いいですか、これから起こるだろう事を話します。
ジジイは諦めません。
それは確信できます。
私程度の才能で3日です。
ラルフのことは絶対に諦めません。
先生!ラルフはこの家の子ですね?
私達で守らなければなりませんよ。
少なくとも1ヶ月はジジイに会わせてはいけません。」
「サシュマ様、うちの子供大好きジジイが普段からアンヌを溺愛しているのは想像つきますね?
普段から口癖のように言っていることがあるんです。
『私を倒すような才能のある剣士がアンヌと結婚して、ひ孫を抱くのが私の夢だ。シャシャシャシャ』と。
妄言とかじゃなくて、マジの目をして言うんです。
ラルフ君は冷静じゃなかったとはいえジジイを倒したし、剣の才能は、ある。
ラルフ君をジジイの目の届くところへ出してはダメです。
捕獲して、アンヌと会わせて、婚約させられます。
あのクソジジイは権力もあるし、行動が早い。
軍にも聖騎士団にも貴族にも慕うものが山ほどいるんです。
つまり、武力も権力もある、外堀を埋められたらちょっとやそっとじゃあ逃げられません。
…私はヤツと同じ家に住んでいるので、アンヌを隠すことは出来ません。
出来ないのです…!」
ブランドさんの奥歯がギリギリ鳴っている。
そんなに僕は嫌なの?悲しいよ!
なんてね、そういうことじゃないよね。
そうか…シャルルさんから逃げ切るのは相当大変そうなんだなぁ。
「ラルフ、明日から剣術を真剣に教えるから、真剣に身につけて下さい。
ジジイが襲って来た時、捕獲されるまでの時間を稼ぐのです。
屋敷で数分凌げれば、私ルーベンス、もしくはララさんか、先生が駆け付けます。
まずはそこを目指しましょう!
しかし、楽しくなって来ましたね!
なぁ!兄貴!ララさん!」
「そうですね、私も教えます。
鍛え直すいい機会ですし、力はともかく速さには自信がありますので、いい練習になると思いますよ。
うちには先生とシーさんとラルフ君自身も聖属性魔法を使えるので、練習し放題です。
監督が付いていれば、オーバーワークなど存在しないも同然。」
「私もも非番を作って教えますよ!
シャシャシャシャ!
聖属性も使える…か。
ならいくらでも修行出来るじゃないか!
なぁ!ルーベンス!」
おお、ブランドさんから…血を、血脈を感じるよ。
ララさんは別の流派なのに、なにか通じ合ってる。
ちょっと怖い。
でもそうだね!
まずは、シャルルさんの捕獲をしのぐことを目標にしよう!
やる気が出て来たぞ!
◆
なんかやる気を出す4人をちょっと遠くから見ていたシーとティナは、
「シャルルさんをしのげる子供にするって、強い子大好きお爺さんには逆効果なのでは?」
と思ったが言わなかった。
やる気を出した子供のなにかがジェマの心に触れたのか、家族の団結感に流されたのか分からないが、大泣きしながら頷いているからだ。
もうなんかいつもいつも、剣士って皆んな最終的に鍛えて解決みたいなこと言い出すのだ。
いつもそう。




