賢者パーティ
「うう…気が重い…一体何度目なんだ…。」
うなだれながら嘆くブランドさんの足取りは重い。
僕を送っていかなくてはという義務感でギリギリ進んでいるだけだ。
子供が急にいなくなる。
大人が大騒ぎしながら散々探し回ってると、ジジイが勝手に連れ出して指導していたなんて分かって、関係各所へ謝りに行かなくてはならなくなる。
そんなことが何回もあったらしい。
近所の野球狂おじさんを3周りくらい凶悪にした感じじゃない?
だれか止められないの?
「ラルフ、あのジジイを個人で止めるのは不可能なんだ。
老いても剣聖、強すぎる。
サシュマ様ならなんとか出来るかもしれないが…。
この国で可能性があるのはあの方ぐらいなんだ。」
そんなん天狗じゃん。
天狗の仕業じゃん。
処罰とかはないの?
誘拐は重罪でしょ。
なんで野放しにされてるの?妖怪剣教え天狗が。
「あぁ、そうだなぁ。
あんな親父でも有名人だし、指導も変なことはしない。
連れて行く子供も剣聖に剣を教われると聞いて、むしろ望んでついて行った節があるから大問題にはなって来なかった。
うちの子が剣聖様に見初められたなんて喜ぶ親もいたぐらいだ。
だがな……。
やってることに問題はなくても、やり方に問題があると、誰かが謝りに行かなくちゃいけない。
ジジイは自分が悪いと思ってないから行くわけがないだろう?だから毎回俺が謝りに行っているんだ。」
あんまりな話に、ブランドさんの顔を見上げた。
そこにいたのは、諦観の目をした1人の男の哀しみそのもの。
僕は自分で問題を起こしたら、自分で謝ろう、せめて。
そう心に決めた。
屋敷の門を開けると、すぐにお父さんが飛んで走ってきた。
やっぱりとても心配をかけてしまっていたらしい。
そりゃそうだよなぁ、8歳児が初に近い1人での外出で、帰宅が21時過ぎになってたら心配もするよ。
よく事件化しなかったね。
「ラルフ!何があったのだ!
こんなに遅くなって…。
みんな心配したのだぞ…!」
本当に申し訳ない。
天狗に追われて、神様に捕まっていたんだ。
なんだそりゃ、振り返ると酷い日だな、今日は。
昔話か。
「そちらの方が送ってくれたのか。
申し訳な……ん…?…ブランドか?
……つまりそういうことなのだな?」
そう、ブランドさんが送ってくれたんだよ。
………あ、まぁ、お知り合いか。
関係各所に謝りに行くって言ってたもんな、ブランドさん。
学校責任者のお父さんは、各所に決まってる。
「夜分遅くに申し訳ありません、私、騎士団長のブランドと申します。
この度は息子さんに……。」
へー!ブランドさんは騎士団長さんでしたか!
シャルルさんの息子だもんね。
きっとすごく強いのだろう。
なのに何故だ、その美しい謝罪姿勢は。
謝罪の天才か。
才能は日常で作られるっていうけれど、それが本当ならこんなに悲しいことはないよ。
「ブランド、シャルルのクソ剣術馬鹿が関わっておるのだな。
はっ…!
ラルフぅううう!ラルフの手がボロボロじゃないか…!
大丈夫だぞ、ラルフ、お前にそんな事をしたジジイはな、私が焼き殺してくれる。
かけらもこの世に残るとは思うなよ…!」
あの、パピー?
シャルルさんが追いかけてきたのが帰宅が遅くなった原因ではあるけども、この手の怪我は自分のせいだよ。
話を全く聞かず、人って顔にこんなに血管あったんだってくらい激昂しているお父さんの後から、家宰のルーベンスさんがやって来た。
よかった、落ち着いた大人だ。
「あれ?兄貴、何を謝っているんです?
ラルフ、何があったか教えて下さい。」
ブランドさんとご兄弟だったんだ、ルーベンスさん。
また親父かと言われるとそうとも言えるけど、
今日あったことを説明する。
お父さんは正気を失いかけているけれど、ルーベンスさんなら話を聞いてくれそうだ。
「ふむ、そうでしたかラルフ。
……兄貴、親父はもうダメだ。
今までは子供の才能を伸ばすので、思って静観して来たけれど、ラルフの、私の家族の手がこんなになるまでやらせるなんて許せない。
斬ろう。
そうだ!俺と先生と兄貴が組めばやれる。
やれるじゃないか!」
なに言ってんのルーベンスさんまで!
あれ?手がボロボロなのは自分のせいなんだって説明したよね?
「やるなら早いほうがいいか、今夜だな。
あの剣術馬鹿は寝るのが早い。
ブランド、屋敷の使用人と家族をウチヘ連れてこい。
屋敷ごと燃やし尽くして、焼け出され出て来たところを斬れ。
やれるな、ルーベンス」
はい、じゃないのよ!
止めて!誰か止めて!
ブランドさん、何か言ってよ。
「あのぅ、もしかして…若く見えますけど…。
サシュマ様ですか?」
あー!そこからか!すっかり忘れてた!
若返りなんて大層な奇跡なのに、その後のティナ騒動で大した事じゃない感じになってた!
もう!ややこしいな!もう!
誰か来て!人手が足りないよ。
シーさん…はダメかも。
あの人も過保護気味なんだ。
ぺぺさん…はこの時間絶対べろべろだ。
役に立たない。
ララさーん!
また仕事増やしてごめんだけどララさんしかいない!
ララさーん!
あっ、ティナ!ティナがこっち見てる…!
ティナ!ララさんを呼んできて!
そう、走って!
人死にが出るから!
すぐにティナの後をパタパタと走りながら、ララさんはやって来てくれた。
いつものエプロン姿ではなく、ゆったりとした部屋着を着ている。
お休みのところ申し訳ないですぅ。
「先生、ルーベンスも一緒になって何をしてるの?
あら、ブランドさん。
…えーと、って事はシャルル師のアレね?
…ラルフの手が…?
わかりました、私もやります。
大丈夫よラルフちゃん。
私も剣士の端くれ、毎日剣は磨いているんだから。」
ララさん?
ララさん!?
剣士だったのララさん!
スーパーメイドじゃなかったんだ…。
あぁダメだ、パーティ編成が分厚くなって行く。
賢者、剣士、剣士なんてバランスもいいじゃない。
あわあわしているだけの僕とブランドさん、殺気を漂わせながら暗殺計画を話し合っているみんなの上に、大きな水の玉が浮いていた。
ティナが小さな声でやっちゃえ!
というと玉は割れ、僕以外の頭の上に水が降って来た。
「落ち着きなさい。
ラルフは自分で望んだ訓練でそうなったんだから、ね。
師匠も魔法使いなら同じような事して来たでしょ?
ララも、ルーベンスも、剣士なら分かるでしょ?
多少の怪我ぐらい訓練であるよ。
ね、ラルフ、頑張った証じゃない。
3人とも、まずは褒めてあげなさいよ。」
シーちゃん!
さすが最年長!
落ち着きがちがうよ。
…ブランドさんは冷静だったのに、シーちゃんが水をぶっかけているから、少しは怒ってくれているのかもしれないけども。
あ、ぺぺさん。
ぺぺさんがうずくまってる。
…年季が違うとか言ったんだろうな、きっと。
…口に出してなかったよね僕、最年長ってはみ出てなかったよね?




