御加護
家に帰る道路を横にそれ、城門をくぐる。
丁度門番をしていたサンドラちゃんに挨拶をして、懐かしの丘の上の教会へと向かう。
こういう教会みたいな神聖さがある場所で、独りで立っていると、何故か身震いしそうになるのはなんでなんだろうね。
それにしても、ここはいつきても誰もいないな。
誰かは掃除しているみたいで綺麗だけども。
誰が掃除しているんだろうと考えると、そういえば普段生活していて、朝夕2回鐘がなっているのを思い出した。
ここの鐘楼に鳴らしにくる鐘守がいて、その人がここの掃除もしていってくれているんだろうか。
…時間は昼過ぎってところか。
夕方にくる鐘守の人とは会わないだろうし、ここは追ってきているかもしれない剣の妖怪から隠れるのに好都合だ。
今のうちに神様に力の件を聞いておこうかな。
見慣れた祭壇の前へ行き、祈りのポーズで唱える。
神様、神様…。
聞こえますか神様。
聞こえてるんだろ神様。
僕に与えた能力は拳の術とかいて拳術ですか。
つるぎの術の剣術だと思ってました。
どうですか、合ってますか。
ちゃんと確認していなかったのも悪いけれど、せめて力の名前ぐらいは知っておかないと、また突発的に肉塊になりかねないんですよー。
家族ができたんですよ、僕が肉塊になって宇宙に行ったら、家族はどう思うでしょうね。
…返事がない。
聞こえているはずなんだけどなぁ…。
知能が高くなった時にお父さんをここに呼んでくれたし、あの神様、基本的に僕をみているっぽいし。
神様、聞こえているんでしょ。
分かっているんだよ、こっちは。
なんとか言わないと、まずは祭壇にパンチを試しますよー。
才能満点なメガトンパンチかもしれないんですよー
違ったら手が痛いだけだけど、もし拳術が今回の力なら、こんな木の祭壇なんて粉々ですよー。
…よし、ぶん殴ろう。
僕がグッと拳を握り、大きく振りかぶったところで待ったが掛かった。
「ラルフちゃん、やめてって。
神様、『けんじゅつ』とは言ったけど、今日まで剣なんて握ったこともないのに剣の才能あげてもなって思って、無手で使える拳術にしちゃったんだって。」
ん?
あれ?エマさん?
「ラルフィード様が下界に声を下すと大変なんだって。
一人に声をかけるなんて繊細なこと出来ないから世界に響き渡るって。
そこでラルフの名前が出たら大変な事になっちゃうから、代わりに私が来たのよ。」
そうなの?
エマさんがいてくれて良かったよ。
本当に、個人名が入っている神託なんて響き渡らられたら困るから。
「それとね、私、正真正銘の神様になったのよ。
人間の時の名前使えないっていうから、正式にタナって名前の神様になったの。
改めてよろしくね。」
おぉ!
よろしくお願いします。
そうかぁ、良かったなぁ。
あそこ神様一人だったから。
仲良くしてあげてね。
「じゃあ行きましょうか。」
どこに?と思う間もなく、僕は天界にいた。
え?死んだってこと?
「そうなりますね。
いやぁ、死の神の名前は伊達じゃないですね。
はっはっは
スルッと召されましたよ。」
「死の神じゃないわ、安らぎの神、タナよ。
だってラルフちゃんってば、つるぎの方の剣術が良かったんでしょ?」
いやー…死ぬほどは願ってはないよ。
教会に来たのはね、神様のくれる力が神様仕様になっててさぁ、発動した反動ですぐに死んだりしてきたから、どんな能力か把握しないと思ったんだよ。
最悪、人を巻き込んじゃったら取り返しがつかないし。
「ラルフちゃん、無駄死にじゃない。
っていうか、反動で即死?
ラルフィード、何やってるのよ。
ラルフちゃんってば今まで何回死んでるの?」
神様が指折り数え、十本の指を使い切る。
少し間が空き、どうやら考えるのを諦めたようだ。
「数え切れません。
指が足りなくなってしまいました。
あっはっは。
すっごい死んじゃってますね、ラルフ。
ははは。」
ははは、じゃないよ。
前回だけなんだよ?自分の意思で死ぬことを覚悟したの。
他は宇宙にすっ飛んでいったり、ぺたんこになったり、発動した途端死んでるんだから。
「ラルフィード、貴方の方がよっぽど死の神様じゃない。」
ね!
僕も前にそう思ったよ。
「そんなそんな。
私は創造神ですよ、死の神なんてそんな。
…さて、ラルフ、次こそつるぎの方の剣術にしましょうか?」
いや、それがね?
ちまちま改善しながら練習するのが性に合ってて、いきなり強くなるとか嫌なんだよ。
だから剣術じゃないやつがいいな。
でもどうしようかな…。
「困っていることはありますか?」
今は特にないんだよね。
タナさんも見てたでしょ?
いい人たちなんだよ、あそこの人たち。
「そうねぇ…。
じゃあ、助けたい人なんかはいないの?」
あ、ララさんの家事を手伝いたい!
家事の力にしようかな。
「ちょっと!
ダメよ?ダメに決まってるでしょ?
ラルフィードもラルフも能力の調整なんて出来ないんだから!
なに?神様レベルの家事って。
ここみたいになるってこと?更地よ、ここ。」
おぉ…新たな視点の導入だ。
神様もびっくりしてる…。
あんたはびっくりしちゃダメだけどね。
確かにここぐらい真っ白になっちゃ困るな。
神がいるから成立する空間だ。
自分の部屋がこうなったら、ミニマリストでも落ち着かないよ。
「7人も生活していてなんで家事が大変なのよ。
各々が少しずつやればいいだけの話でしょ?」
…僕はやってるよ。
でも正直いって元々は、生活的にはダメ人間の仲間なんだ、僕は。
これからが心配だよ。
剣も始めたし、楽しかった。
魔法も楽しい。
将来的に時間感覚を失うのが目に見えてる。
「ティナも?あの子もそうなの?もう!
確かに教えてあげられなかった事だけど。
…ラルフちゃんに煽動とか命令系の能力あげて家事をさせることはできるだろうけど…。
神の命令なんて、自我を失ってそれしかしない生き物に成り下がりそうだし…。
んー、ダメね、家事に関してはラルフちゃんが頑張るか他の人を説得するしかないわ。」
家族を操るなんてぞっとするから仕方ないね。
家事ゾンビとか、可哀想だし。
神様はなんかいい案ある?
僕としては現状困ってることがないから、いざという時に頼れる能力が良いんだけど…。
「ふむ、そうですね。
…そういえば、貴方はタナからの加護が付いていることに気がついていましたか?」
え?知らない。
でも加護かぁ。
タナさんは僕と仲良くなったっていうことだね。
嬉しいな。
これからも仲良くしてね。
「タナはまだ生まれたての信仰のない、か弱い神様なので、強い力は有していませんがね。
そこで、結果的にタナの加護を強める能力なんてどうでしょうか。
今必要な能力が無いのであれば、タナの力も強まりますし、それも良いと思うのですが。」
それは良いかも知れない。
タナさんの力を強くすることにも繋がるならタナさんにも良いことなんだよね。
「決まりましたね。
では、ラルフよ、今回貴方に与える力は生贄です。
張り切って捧げて下さいね。
貴方の幸せを祈っていますよ、ではまた。」
…生贄…イケニエ!?
嘘でしょ?死の神への生贄って…!
嘘でしょ!
意識を失う寸前、遠くの方からタナさんの声が聞こえた。
「食べ物とかでいいからね〜。」
おぉ、良かった。
人をさらって、木に括りつけてから火で炙ったりしなきゃいけないのかと思った。
本当に良かった。
タナさんがいてくれて。




