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転々転生  作者: まつり
剣と魔法と聖女とジジイ

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逃げろ


そういえば思い出したよ。


前世で反復練習が大好きだった事を。

ちっちゃい時は野球部で、一人でできる壁当てと素振りを延々とやっていた。

それこそ今回みたいに、手がボロボロになって血が滲むほどやっていた。


そんなんだからか、そのうち怪我をして続けられなくなった。

そんで、暇になって、次は勉強を始めたんだった。


野球ばっかりやってて、学力何それ美味しいのって僕をみかねて、2時間勉強をしたら500円もらえるルールがあったから、とりあえず。


机に向かって黙々とってのも、意外と性にあって、僕のお小遣いは月5万円に達した。

親父の財布を圧迫した事だろうなぁ、あのルール、俺のお小遣いから出してやるって言い張ったてし。


お陰で医者になるくらいの進学校へ行ったから、ギリギリ親孝行になるかな。


つまり何が言いたいかって、神様が剣術の才能をくれたわけじゃなさそうってこと。


一つの作業をやり続けるのを苦に思わないのは元々の性質で、更に剣は壁当てとか勉強みたいに、やればやるだけ早めに成果が感じられるから、性に合っただけ。


迷子だ。


才能迷子。


もしかして、神様、忘れてた?

蘇生のどさくさだったしなぁ。


でも、今となってはそれで良かった気がする。

変に力をもらっていたら剣の楽しさが分からなかったかもしれないから。


「よく学びました、ラルフ。

私の養子になりませんか?

剣を共に極めましょう!


楽しいですよ!

剣は!ね!ね!」


おじいちゃん先生が急に大きな声を出してきた。

歯茎が剥き出しな、パワーを感じる強い笑顔だ。

何が、何が起こったのか。


「やばいな…逃げろラルフ。

俺が説得しておくから。


早く、走れ!


振り返るなよ!」


え?どういう事?

逃げ…?逃げろ?

養子になれってのは、例えでしょ。

めちゃくちゃ褒めてくれたんでしょ?


「師匠!ダメですって!

そんなことばっかりやってるからサシュマ様と仲悪いんでしょ!


教え魔の二人なんだから仲良くやればいいのに、生徒取り合って!


ラルフ!ぼーっとすんな!

この国最強の剣士と魔法使いの決闘が起きるぞ!


行け!」


今まで見た中で一番必死なカルさん。

これはマジの話なんだとようやく理解した僕はとりあえず走り出した。


なんだこの世界、神様。

おじいさん達が病的に子供好き過ぎる。


「お?終わったか坊主。

走って出てきたってことは師匠に気に入られたな?

ははは。


あ?…お前たしかサシュマ様の孫なんだよな…。


笑い事じゃねぇ!

隊長が食い止めてんのか?

俺も加勢しねぇと!


早く帰れ!

本当に早くした方がいい。

走れ走れ!」


なんなんだ。


兵舎の奥でバコンという音が鳴り、カルさんが吹っ飛んできた。


「お前ら集まれ!師匠を止めろ!新弟子を気に入っちまった!食い止めるぞ!」


ホラーじゃないか。

それも、タナの件みたいなじっとりしたやつじゃなくて、B級ホラー。

殺人鬼が追ってくるタイプのやつ。


カルさんの号令に反応した兵士が、兵舎へ向かう。

その度、重い打撃音がして、兵士が飛び出してくる。


…えぇ。


シャルルさんが低い姿勢で走ってくる。


「ラルフ、待ってください。

貴方、サシュマの孫なのですか?


なる程、また私の夢の邪魔をするか、クソジジイ!

才能のある子を独り占めしやがって!

本当は、みんな、みんな、剣を学びたいはずなのに!


ラルフ!分かっていますよ!剣はカッコいい!

一緒にクソ魔法馬鹿を殺して剣の道を邁進しましょう!


サシュマ、あいつめ…こんないい生徒隠していやがった。

今日こそ首を切り落としてやるわ!


シャシャシャシャ!」


こっわ…。

悪魔の笑い方じゃないか。


高速で走り寄ってくるシャルルさんが力強く、そして優しく腕を掴もうとしてくる。

矛盾しているようだが、そう感じるのだ。

怪我をさせることが目的ではないと感覚で分かる。


僕は何故かそれがゆっくり見えた。

だから色々感じ取れたし、自然と避けられた。


身体を引き、左前の構えに切り替えて、掴もうとしている右手を避けながらそのまま掌底を繰り出す。


その手はシャルルさんの顎を的確に捉えていた。


完全にカウンターのタイミングで入った攻撃は、シャルルさんの意識を一撃で刈り取った。


スピードに乗ったおじいさんが、糸が切れたように崩れ落ちる様は不気味だ。


何がおこった?


不思議と身体が勝手に動いた…。

僕は格闘技なんて知らないし、習ったこともない。

…もしかして。


崩れ落ちたシャルルさんに追いついたカルさんは、じいさんを縄で縛りながら、息を整えている。


「はぁ、はぁ、はぁ。

ジジイ…はぁ、はぁ。


剣聖なんて呼ばれる男も冷静さを失ったらこんなもんだ。

いい教訓になったな…。


さ…帰りな、ラルフ。

早く帰って寝て、今日のことを忘れるか、思い出にしちまえ。

向き合う必要はない。」


あ、うん、そうします。

悪い夢を見たみたいな経験になっちゃったなぁ。

剣は楽しかったから、別の人から習うとしよう。


それにしても、よくシャルルさんの攻撃を避けられたなぁ。

ほんと、あの瞬間だけスローモーションに見えたし、身体の捌きだって鋭かった。


…うん、多分。

もしかしてとは思ったけどさ。


神様、これって剣術と拳術間違えてない?

読みは同じだから、僕が勘違いして受け取っただけ?

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