剣はたのしい
「では、初めに私が剣をゆっくりと振ります。
それを見て完全に同じ動きになる事を目指して、ラルフも振ってみて下さい。
いきます。」
左足を後ろにし立ち、フッと息を吐きながらシャルルさんは縦に剣を振り、もう一度フッと吐きながら左足で踏み込み、斜め下から振り上げた。
空を切る鋭い音の後に、離れた僕にまで風が届く。
これでゆっくり…音を置き去りにしてたよ。
素人ながら、シャルルさんが行う剣を振る所作の一つ一つに気品を感じる。
達人ってそういうものなのかな。
屋敷ではお父さんに魔法を教えてもらっているけれど、お父さんの魔法の所作もやっぱり綺麗だもんなぁ。
斬り降ろし、斬り上げる。
それだけを繰り返すシャルルさんの動きはシンプルだけど、いつまでも見ていられる。
なんか、楽しいな、こういうの。
好きなのかもしれない、剣術。
「さ、やってみてください。
振る時は息を吐くこと。
そうしなければ、すぐに息が上がって動けなくなってしまいますからね。
完璧にマネする事などできはしませんが、なるべくそうしようとして下さい。
それが成長への近道、かもしれませんよ。」
模倣は大切、それはよく分かる。
僕はシャルルさんの動きを頭に浮かべた。
肩幅より少し広く足を広げ、そこから左足を少し下げる。
剣の柄頭に左手の小指が掛かるように握り、小指と薬指以外の力を抜く。
左手と少し離して右手も握り、こちらはしっかりと握り込む。
そう、確かこんな感じだった。
神様から貰った力のおかげか動きがよく見えたので、自分に落とし込む際の参考になるね。
才能があるってそういう事なのかな。
見なければいけないところを見ることが出来る、みたいな。
よし、じゃあ、早速振ってみよう。
右肩の上に剣を構えて、斜めに…斬る!
うぉ、身体が振られて斬り上げに繋げられなかった。
それでも初めてにしては振り自体はいいような気がする。
力を貰っただけのことはあるね。
もう一度振ってみたけれど、剣が重くてあんなにピッと止まらず、振った先に剣先が流れて行くのが分かる。
8歳児の身体が耐えられてないな…鍛えないと。
制御に相当な筋力を使うぞ、こりゃあ。
あ、なるほど。
何度か繰り返したら、足の動きの理屈がちょっと分かった。
斬り下げのときは、剣が流れた時に左足が前にあると危ないから、右足で踏み込んでいるのか。
下げた剣を…ここから斜め上に…。
重い!剣って重いんだな。
木とはいえ、木製バットみたいなもんだもん、振った後切り返すのがどんなに大変か…。
なんでシャルルさんはあんなに簡単に、振り続けられるんだ…?
あ、足!左足を前に出してないからだ。
左足と同時にやらなきゃいけないんだった。
フッ
振れた。
でもやっぱり身体が流れるなぁ、斬り下げも斬り上げも、振った後に身体も剣も流れちゃう。
くそぅ、神様、能力マイルドにしたのかな。
それはどっちでもいいか、楽しいから。
このくらいマイルドな力の方が、自分の成長を感じられていいかもしれない。
「もっと続けてもいい?」
「もちろんです。
どうぞ何度でも続けて下さい。
納得がいくか疑問ができたら言ってください。
それに私は答えますので、まずは自分で考えてください。」
フッ
…ダメだ。
下げた後に振り上げた剣の刃が進行方向に向いていない。
これじゃあ刃が付いている意味がない。
フッ
なんでだ?やっぱり刃が逸れる。
肘か?肘の使い方が悪いのか?
それに…切り上げの時の左足がスムーズじゃない。
思いっきり振った後に、前への体重移動をするのが難しい。
フッ
あ、そうか。
切り下げと切り上げの動きが繋がってないからスムーズじゃないのか。
なんか腰とお尻の間に力を入れたら、足を使いきらないで次に動ける感じもするな、試してみるか。
フッ
そうそう。
腹筋と腸腰筋がちぎれて飛んでいきそうだけど、この方がいい。
フッ
もう少し力を抜いて振ってみよう。
斬るのが目的で、叩きつけるわけではないんだから。
フッ
力抜きすぎたか?
剣筋が波打ってしまった。
斬り下げは重力を利用できるから力を込めなくても振れるけれど、制御には力を使わないと。
フッ…
フッ…
「師匠。
ラルフ…才能ありますね。
楽しそうだし、一振りごとに成長してる。
いいなぁ、そんなんが一番楽しいよなぁ。」
フッ…
フッ…
「師匠?
なんで無視するんですか。
ね、ラルフ才能ありますよね?
…師匠?」
フッ…
フッ…
あ、今回は良かった。
フッ…
フッ…
全然だめだ。
意識したら上手くいかなくなった。
さっきのはマグレだね。
「師匠…?
あー、やべーな、忘れてた訳じゃねぇが、まさか最初の指導でこうなっちゃうとは。
師匠?聞いてます?」
フッ…
なんだ?手が滑る。
あ、なんだ、血か。
滲んできたのか。
8歳児の柔肌だもの、マメもすぐ出来るか。
……マメならいいか、別に。
フッ…
あ、いまの!今のはよかった!
チラッとシャルルさんを見ると一度頷いてくれた。
よしよし。
やっぱり今のは良かったんだ、
忘れないうちにもっと振っておこう。
フッ…
くそ、やっぱり手が滑るな。
小指をでっぱりに引っ掛けよう。
もう一度だ!
と剣を振った瞬間、カンと乾いた音がした。
カルさんが自分の木剣で僕の剣を受け止めている。
なんで?なんか間違っていたかな。
「あーあーあーあー。
おい、手がズル向けじゃねぇか。
ここまでだ、このぐらいにしとけ、な?ラルフ。
初日からやりすぎだっての。
聖魔法使えるんだから手も治しとけ。
師匠も、止めて下さいよ。
8歳なんすよ、ラルフは。
ほう、じゃないんですよ。」
あれ?
手から剣が離れない。
「ばっか、お前、やりすぎて手も開かねーじゃねぇか。
…ほら、剥がしてやるからゆっくりにぎにぎしてろ。
それはな、筋肉の疲労で手を開く力がなくなったんだ。
初日にそこまでやんなよ危ないから。」
んー、これ、治さなきゃまずいかな。
怪我したって事は動きに無駄があったってことでしょ?
それを知らないとどこが悪かったのかわからないし、魔法で治すと手の平も固くならないから、すぐまた手がこうなるよ。
「うっわ。
おっさん世代の剣の道に生きる変態みたいな事言うなよ。
師匠もなに頷いてんだ、全く。
ガキが怪我する前に止めるのが大人だろ。
…おい。
なんだよ2人して不思議そうに。
え?
俺がおかしい?
うっそ。
もう1人その辺のやつ呼んできていい?
あんたらがおかしいから。
絶対みんなそう言うから。」




