剣を習う
ララさんの疲労回復を考えるのは急務だ。
癒しにサウナでも作ろうかな…。
この世界は魔法があるし、我が家には魔法使いがいる。
たまには生活の役に立ってもらおうか、サウナは火、水、風の組み合わせでどうにでもなりそうだし、魔法使い向きの娯楽でしょ。
あぁ、だめだめ、おっさん方が憩うだけで、どうせ掃除はララさんがする事になるのだろう。
また仕事を増やすだけだ。
何もできない僕を許してください。
屋敷を出て道すがら、僕はそんなことを考えていた。
ついにララさん負担軽減案は実らず、兵舎へと着いてしまった。
兵舎の警備担当をしているらしいおじさんが、勝手に入ろうとしている僕を見て話しかけてきた。
「おー坊主、どうした?なんか用か?
泥棒があったとかの窓口はあっちのおねーちゃんがいる方だぜ。」
兵士は警察的な役割も兼ねているのか。
行政の仕組みはまだ理解していないけれど、そうっぽいな。
前世は医者だったので、そこそこ警察と話す機会はあったけれど、やっぱり苦手かも。
悪い事はしてないのに。
「カルさんに剣術を習いに来たんだ。」
「カルサン?あぁ!門番隊長か!
兵舎にいるのを見たな、通っていいぞ、あそこを進んだ先に練兵場がある。
そこにいるぜ。」
彼が指差す方向に歩いて行くと、建物に造られた中庭に練兵場と書いてある札を見つけた。
前世でいう刑務所だからか、なにか空気は重い。
それにしたって重すぎるな…何があったんだ?
…なんか練兵場に近づくほど空気がピリついている。
知っているぞ、この空気は。
空気の読める日本人だったのだ。
すぐにピンときたね。
これは電車に変な人が乗ってきて駅名を叫び出した時か、普段あまり来ない偉い人が会社に来ている時の空気だと。
ピリ重い空気の中を掻き分けて練兵場へ。
入り口から顔を覗かせて中を窺うと、僕に気がついたカルさんが手を振ってくれた。
「おー、ラルフ、こっち来い!
師匠を連れて来たからよ!」
あー、その人だよ、カルさん。
あなたの職場のこの悪い空気の原因は。
筋肉がすごいわけでも、怖い顔なわけでもないのに、ものすごい威圧感があるもの。
立っているだけのおじいちゃんから出ていいオーラじゃないもの。
逆になんでカルさんは普通なんだ。
さてはカルさんあなた、幼馴染と同級生と、謎の少女といい感じになりながら、結局なんだかんだ恋愛に発展しないタイプですね?
「初めまして、シャルルと申します。
本日はよろしくお願いいたします。」
おぉ、丁寧だ…!
ひっくい声で丁寧だ。
細身のおじいさんとは思えない筋張った上腕を折りながら、礼すらも丁寧。
あぁ、きっとそれがみんなを怯えさせているんだ…。
過剰に丁寧な礼は、人を怯えさせるんだから。
…シャルルさんか。
この人とんでもなく偉い人だな。
たぶん花の名前になっている人だ。
シャルルって部分あったもんな、たしか。
「ラッキーだなぁ、ラルフ。
師匠は先代の聖騎士団長なんだぜ!
指導なんてそうそう受けられないんだから!」
ウキウキしてんな、この人。
自分の職場のなのに、周りの空気とか感じてないのか?
…あー、あれか。
剣士にはシャルルさんは憧れで緊張はあるけど怖くはないんだ。
逆にお父さんは魔法使いには憧れではあるけど、剣士には怖い人なんだろう。
カルさんはお父さんへの態度のほうが緊張している感じするもんなぁ。
あれか、お父さんは関連会社の社長かなにかか。
ドラ息子ムーブでもしてやろうか?
「初めての剣術なんだ、良い人に教わっとけ、な?
財産になるぞ。」
カルさん…優しい。
ボンボンムーブはしません。
よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。
では、始めましょうか。
ラルフ、これを使いなさい。」
僕は木剣を受け取り、両手で握る。
前世で野球バットを持った時と同じぐらいの重さで、よく締まっている固い木の感触がした。
「ふふ、似合うじゃないですか。」
なんか…オーラに反して優しそうな人だなぁ。
「師匠、今日が剣に触るの初めてなんだってさ、ラルフ。
あんまり調子に乗って、イジメすぎんなよ。
誰とは言わないけどよ、偉い人の息子さんなんだから。」
…ん?カルさん、サシュマの息子だって事を伝えてないのか。
なんでだ…?
「そうでしたか。
誰の息子だとか、私はあまり気にしませんが、それでいいでしょう?
剣の前に、人は平等なのですから。
ラルフ、剣を習うのは何故ですか?」
なぜ。
そう問われても、パッとは出てこないなぁ。
戦う力が必要そうってのはある。
魔物だとかもどこかに棲息しているらしいし、家族が出来た今、守りたい人も出来たから。
だけどそれが剣を習う理由かと言われたら、そうじゃない気がする。
んー、言語化が難しいなぁ。
考える僕に、シャルルさんが言葉を続ける。
「ラルフは、なぜ剣を選んだのですか?
聞けば魔法も使えると聞きましたよ。
それなのにわざわざ剣を学びにきたのは何故ですか。
簡単に考えなさい。
自分の心と向き合うのも、剣の道の一つですよ。」
素直に。
素直に、か。
「かっこいいから。」
「うん、100点満点です。」
親指を立ててにっこり笑うシャルルさんとは対照的に、カルさんは苦笑いをしていた。
しょうがないじゃん。
そうとしか言いようがないんだから。
それと、口にはできないが、今回神様からもらった力が剣術だ。
汎用性が高い戦闘術の、剣術にしておきますね。
神様はそう言っていた。
今まで力を貰っても扱い方が分からずに自滅してきたけれど、ここで基礎を習えばそんな事故も減るだろう。
いや、まぁ、かっこいいからっていう方が強いけれど。
男は剣が好きなんだ。
たぶん、みんな。




