ティナ
「やぁ、ティナ。」
「ごきげんよう、ラルフ。」
改めての挨拶はなんだかおかしくて、2人とも笑ってしまった。
左手に温もりは、生きている証。
気がつくと石碑の前で僕ら2人、手を繋いで立っていた。
神様の計らいだろう。
バラバラに降ろすと、説明が面倒になるだけだ。
ただでさえややこしいのに。
「私の方が歳上だからお姉ちゃんって事でいいんだよね。」
産まれたてほやほやのくせに。
まぁ、僕もそうか。
この世に生まれてひと月かそこらだ。
姉をやりたいと言うならやるがいいさ。
「いいよ、ティナ。」
「お姉ちゃんね?」
厳しっ。
さぁて、こっからが面倒だぞう。
お父さんが見た事もない子を、貴女の娘ですと紹介しなきゃいけない。
歳も合わないのに。
どう考えたって理屈で納得してもらうには無理がある。
もう、そういうもんなんだって押し切るしか案が浮かばない。
ティナにはなんかある?
お父さんに、娘だって信じてもらう方法。
「あるわよ?任せて頂戴。」
流石姉を気取るだけのことはあるね、頼りになるぅ。
2人連れ添い、ダイニングへと向かう。
丁度お昼ご飯のタイミングで良かったかも。
こんなめちゃくちゃな紹介、一回で終わらせてしまいたい。
ドアを開けると、こちらに視線が集まり、時が止まる。
皆の頭の上にはてなマークが浮かんでいるのが見えるぐらいだ。
ほら、お姉ちゃん、出番ですよ。
「あぶぶぶぶぶぶばばばばば。」
えっ。
めっちゃ泣いてる…。
あんなに自信満々だったのに。
「おぉ、ラルフ、お友達かな?
迷子かい?お母さんは?お父さんはどこかな?」
子供好きのお父さんが泣いている子供を放置するわけもなく、駆け寄ってくる。
あ、ちなみに、お父さんは貴方ですよ。
「ばばばぶぶぶ、べば。」
なんて?
「…なんと、奇跡か…。
いや、まさか…ラルフ、お前が…?」
あっ、すいません、聞き取れなかったので、もう一度よろしいでしょうか…。
「おがーざんば!エマ!」
あ、うん、そうです。
そうなんです。
神様が、生き返らせてくれたんです。
「おどーざんば!ザジュバ!」
そうそう!そうなんです!
エマさんが亡くなった時お腹にいた子がこの子なんです!
「私は!ティナ!」
うん、この子はティナ。
僕の姉だよ、お父さん。
「おぉ…そうか。
泣くな、ティナ。
伝わるぞ、分かるんだ。
お前が私の娘だというのは伝わる。
…何故だろうなぁ、そういうものなのか。
荒唐無稽極まりないが、疑う気持ちは微塵も起きない。
お前は、私の…エマとの間に出来た…。
娘。
そうか、女の子だったのか。」
「そう、私、女の子だよ、パパ。
男の子なら剣士に、女の子なら魔法使いにするんでしょ、聞いてるよ。」
そうか、そんな話をしてたのか、エマさんと。
「あぁ。」
「嫁に出すのは、自分より強いやつだけ、なんでしょ。」
はは、そんなこと言ってたら嫌われるよ、お父さん。
「…あぁ、そうだとも。」
「ちゃんと、お母さんと、一緒に、みんなを見てきた。
ずっと、大好き、皆、だから、私…。
あぶぶぶぶぶ。」
「勿論だ、勿論…あぶぶぶぶぶ。」
あーあ、泣き顔が同じすぎるよ。
この姿を見て、他人だって思う方がおかしいね。
「あえ?
この子は先生の娘なのか?
なんだよ娘もいんのか。
堅物そうに見えてやることやってたんだな、おい!
だっはっは!
おー、ちょっと似てるか?
いやー、どうだ?
可愛らしいからな、こんな怖い顔にはならねーだろ。
よかったよかった、お母さん似で。」
ぺぺさんはなんかズレてるよ。
「ま、捏造する書類が一枚増えるだけです。
どうせ先生はサシュマジュクの息子として生きていかなきゃいけないんですから、孫が増えたって別にどうって事はないです。」
ルーベンスさんは…なんか慣れてるね。
「あたしは、エマさんも知ってるし、どんな奇跡が起こったって二人が一緒にいる所を見たかった。
だから、変じゃないよ。
それに、先生の周りで起こることにいちいち説明つくなんて思ってないし。」
シーさん…。
お父さん本当に今まで何して来たのさ。
「あら、どうしましょ。
お部屋が足りなくなっちゃうわ。
物置の部屋、また片付けなくっちゃね。
とりあえず先生はソファで寝てね。
子供を変なところで寝かせる訳にはいかないし。
ティナちゃん初めまして、私はララ。
飴ちゃん食べる?」
ひどいなララさん。
最優先で家主から部屋を奪うのか。
いや、お父さんならそうしろって言いそうだ。
この人ら、なんかいろいろ気にしないのね。
みんな揃って。
「明日皆で物置を片付けよう。
中のものは倉庫でも建ててそこに入れておけばいい。」
この人面倒事背負い続けて来たんだろうな。
なんか…変な出来事に慣れすぎてる。
まぁいいかお腹空いたな。
お昼時だもの。
ご飯にしようよ。
「パイ!パイ食べたい!」
あれは3時頃に食べるものなんですよ。
今はお昼ご飯の時間なんですよ。
「じゃあ今日もお祝いでおやつの時に焼くかぁ。」
うん、ありがとう。
8枚切りのパイ。
僕、ティナ、お父さん、ぺぺさん、シーちゃん、ルーベンスさん、ララさん。
これで残り一枚だ。
神様にお供えするって言ったけど、今日だけは石碑に。
エマさんに食べてもらいたいな。
「ティナ、お前の母さんも甘いパイが大好きだったんだぞ。
話してやろう、お前の母さんの話を。
長くなるから、二人とも座りなさい。
そして、私にも話を聞かせてくれ、ラルフとティナとエマの話を。」




