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転々転生  作者: まつり
タナと1000人の悪霊

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30/81

ブーケを持つ少年

「おやすみなさい。」


ダイニングで団欒している家族に挨拶を済ませ、僕は自室へと戻る。

ベッドに入り、足元のベッドメイキングを済ませ眼を閉じながら死属性魔法を発動させると、見慣れた死の世界へ踏み入れる。


あ、また僕のことを監視しに来ているな?

今日はルーベンスさんか。


見た目にはぐっすりにしか見えないよね。

その身体、魂ないから死んでるのと同じなんだぜ。


さてさて。

今夜も楽しいパーティだ。


僕は石碑へと歩く。


始めて来た時とは違い、この過剰にギラギラした空間にはもう恐怖心も薄れたなぁ。

ホラー嫌いだと、今の方が怖いだろうけど。


『貴様!貴様貴様キサマきさま貴様キサマ!』


はいはい。


『どこへやったぁあぁあぁあ。』


内緒。


『うぼぉおあぉおあぁ…ぃいいいいい!』


それはちょっと分かんないや。


繰り返し繰り返し代わりばんこにご苦労様。

僕はホラー映画、嫌いじゃないからね。

そんな風に透けながら恨み言を言われても、アトラクションにしか感じないよ。


なに?皆。

誰かを探しているのかい?


『タナ様がいなぃいいい!』

『私達の神様を返してぇえぇえ!』


え?ヤダよ。

いい年した大人なんだから、大人しく成仏しなさいな。

あんな、1人に負担ばっかり掛けてんじゃないよ。


『殺してやる。』


死人に何が出来るってのさ。


『殺してやる。』


その意気だ!そのままあの世へレッツラゴー!


『殺してやる!とり殺してやる!』


おー、来いよ。

今は何人だ?僕に憑いてるのは。

100か?200か?

足りない足りない。

神様謹製スペクトラルボディだよ、僕は。

怪奇にゃ負ける気がしないね。


『我らは国の為戦い…死んだ…。』


そうね、タナには関係ないね。


『おかあさん、おかあさん。』


タナは君のお母さんではないよ。


『我が!妻に!相応しい!』


うっわ、お前はシンプルに悪霊だな。

はい!悪霊退散!塩撒け塩!


もっと来いよ。

気に入らねーんだよ馬鹿野郎。

戦争に巻き込まれたのは可哀想だけどな、優しくしてくれる女の子に縋り付くだけの存在なんてクソだ。


自立しろ自立!

馬鹿なこと言ってないで働け!


おらおら来いよ、取り憑いて、殺してみろよ。

なんだお前、メンチ切ってんのか死人のクセに。

それだけか?それしか出来んのか?あ?


…あ?


あー、悪いね。

そろそろ起きる時間だ。

お前らに構ってんのも飽き飽きしてるから、とっとと俺をとり殺せよ。


全員でかかってこい。



死属性魔法を解くと、即座に身体に戻る。

起きると嫌な汗で寝苦しく、部屋の窓を片方開けて空気を入れ替えた。


起きてしまえば、世界はいつもと変わらない。

だけど、この世を一枚隔てたあの世では、確実に変化は進んでいる。


死属性魔法、霊視。

文字通り幽霊を見る力を一時的に付与する魔法だ。


窓ガラスに映る自分を見ながらその魔法を発動させると、自分の姿がかき消える。


いや、それは正確じゃないね。

この部屋に収まりきらないほどの霊が僕に取り憑いていて、それを目視してしまうと、その膨大な数の霊に僕の姿が埋もれてしまう。


そろそろ夜明けの時間だ。

タナが帰ってくる頃だろうか。


タナはこの数週間、ある時間に石碑から消えていた。


僕がお願いしたのだ。


「お父さんが自分のせいで学校に居られなくなったのが申し訳ないから、夜の誰も居ない時間に、学校の玄関にある事件が張り出される掲示板を見て来て欲しい。」


タナはそれを快諾してくれて、夜中は出掛けて行る。


そして、朝方僕の部屋へやって来て、起きるまで待ってくれ、書いてあった事を伝えてくれる。


だから死霊が蠢く丑三つ時に、タナは石碑に居ないんだ。

そんな彼らは寂しがっているけれど、いい加減親離れしないと、元気に成仏出来ないぞ。


『あら、今夜は早く目が覚めてしまっていたの?

子供なんだからもっと寝なくちゃダメよ、もう。


今日も何も張り出されていなかったけど、もうすぐ夏休み期間に入るのね。


それに関しての連絡事項が出てたわ。』


「そうなんだ。

夏休みかぁ、暑くなって来たもんね。

タナはどの季節が好き?」


明け方に戻って来て、1時間ぐらいそんな他愛の無い会話で朝を過ごす。

夜は幽霊達を挑発して、朝早くからタナと話をする。

そんな日がしばらく続いているので、そりゃあ寝不足にもなるってもんだ。


平均睡眠時間か2時間程度。

つれー。

寝てねーからつれーわ。


なんてね。

目的があるから、へこたれる訳にもいかないのよ。


「そろそろ朝食だから行かなきゃ。」


『うん、今日も甘いパイが出たらお供えしてね。』


タナは甘いパイが好き。

僕、お父さん、ララさん、ルーベンスさん、シーちゃん、ぺぺさん。

8つ切りのパイは、二つ余り、それは石碑にお供えしている。

ちゃんと許可を取りましたとも。


タナがパイをどう食べているのか知らない。

もしかしたらパイの魂みたいなものを食べているのかも。

それを聞くのはなんだか失礼な気がして聞けていないけれども。


「おう、おはようラルフ。

今日の朝飯はぺぺさん特製フルーツサンドだ。

しっかり食って元気に学んで遊べよ。」


甘いパイが好きで、フルーツサンドは好きじゃ無いのだろうか。

僕から見たら大した差はないのに。


「おはようラルフ。」


お父さんへ挨拶を返し、パンに齧り付く。

酸味と甘味、キウイフルーツとパイナップルの間ぐらいの風味が良く合っていておいしい。


「ふむ、塩漬け肉や野菜以外が挟まったパンも、これはこれで良いもんだな。」


お父さんは初めて食べるらしいフルーツサンドを気に入った様だ。

この世界では、果物をパンと一緒に食べなかったのかな。

あ、そっか、多分…戦争があったからだ。


栄養とは別の食の喜びを楽しめる様になってから、年が浅いんだろう。

そして、子供が好きそうな物を食卓に並べる事もなかった。


そんな所だろう。


…そうか。

だからタナはサンドを頼まないんだ。

知らないんだ、味を。


朝食を食べ終え、食器をキッチンへと運ぶ。


「ねえ、ぺぺさん。

今日もお供えしたいから、甘いパイを焼いて欲しい。」


「お供え?あぁ、石碑にか、いいぜ。

…ってなんで甘いパイを指定すんだよ。

お前が食べたいだけだろ?ラルフ。


じゃあ、今日のおやつは甘いパイな。

うめーの作ってやるから、今日も勉強頑張んな。」


少しだけ、フルーツサンドをお供え出来るように頼もうかと考えたけど辞めた。

まだ絶対にそうとは言い切れないけれど、タナの正体の推測は立ってる。


僕にも考えがあるんだ。

フルーツサンドはいつか僕がご馳走してあげよう。


キッチンの帰り、大きな姿見が見えたので、霊視の魔法を発動してみた。

鏡に映る僕の姿は、取り囲む大量の幽霊のせいで、大輪咲く花束に見えた。


それが鎮魂にはならない事を、僕が一番よく知っている。


よしよし。

恨め、僕を。

もっと来ないと、とり殺せないっぽいぞ?

この神様謹製ボディは。


じゃんじゃん来なさい。

じゃんじゃん。

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