ディナー
ネタバラシも済んだ所でいよいよ料理が出揃い、食事が始まる。
大皿の何の葉っぱか分からないサラダと、何らかのスープ。
何かの卵を茹でたやつっぽいものに、謎の肉をソテーしたものと、何を焼き固めたか分からないパンらしきもの。
こう説明すると、とんだゲテモノっぽいけれど、見た目は美味しそうだ。
いやさ、サラダの野菜が何かとか、元を知らないから説明のしようが無いのよ。
葉野菜だって事は分かるけど、葉脈のつき方が、前世でよく食べているアブラナ科の植物とも違う。
見た目は笹とかに近い、水平な模様が入っていて、前世の印象だと硬そうだなんて想像してしまうけど、食べるとそんな事は無かった。
上にかかっているドレッシングには馴染み深い、油と酢を乳化させたフレンチドレッシングのようなシンプルなものだったので何の抵抗もない。
そういうのはどんな世界だろうと同じ人の構造をしていたら舌は同じ。
そこまで大きくは違わないのかもね。
「ポーラーリーのステーキ。
若返ってから食べると、芳醇な脂が口に広がるのが心地よいなぁ。」
そんな事を呟くお父さんに釣られ、僕もポーラーリーとやらのステーキを口へ運んでみる。
んー?
んー。
お父さんの食レポ通り、脂の旨みも感じる。
だけど水っぽいと言うかなんというか…。
美味しいはおいしいんだけど、牛って感じもないし…。
豚肉が一番近い気がするんだけど、明確に違う。
ポーラーリーってなんだ。
見た目の想像が出来ない名前をつけないで欲しい。
「ポーラーリーってなに?」
そう素直に聞くと、斜向かいのララさんが答えてくれた。
「ポーラーリーはね、沼とか湖の近くにいる動物ね。
身体が大きいから狩るのは大変だけど味は美味しいのよ。」
水辺に居て、大きい。
ワニ?
ピンと来てない事を察してか、ぺぺさんも説明を追加してくれる。
「毛の処理が面倒だが、皮も食えるんだぜ。
大きな口をしているけどよ、意外と草食らしいんだってよ。」
毛が生えて?
じゃあワニとは違うか。
大きな口で草食…。
カバ?
カバさん?
「クチバシも煮込めば柔らかくて美味しい。」
シーちゃんも補足してくれるが、謎は深まるばかりだ。
クチバシって…想像していたマンモスとカバの間みたいな生物とは違いそうだ。
鳥なの?
鳥には毛が生えてるって言わないか。
「卵は食べられないらしいですね。」
ルーベンスさんの補足。
卵って事はやっぱり鳥系なのかな。
えぇ…なんか前世の鶏肉感は全然ないんだけどなぁ。
「うむ、卵というよりも、一部毒があるからな。
卵の様にひとまとまりで食すと、その毒部分も摂取してしまうのがよくないのだろう。」
流石お父さん、博識。
って毒まであんの?
まぁ、毒のある鳥もいるのはいるんだっけか。
「おお、前足と後ろ足、両方の爪に毒があんだよ。
もちろんこのステーキは、毒腺も外してあるけどな。」
足!
鳥じゃないやん。
流石異世界、訳の分からない動物がいるぜ!と思いきや、ダイニングの端にある本棚からルーベンスさんが持って来てくれた生物図鑑を見て、少し腑に落ちた。
「食事時に無作法ですが…。
これですよ、ポーラーリー。」
そこに記されていたのは、見慣れないけど、知っている生き物に違い生物。
カモノハシ。
あ、これ、でっかいカモノハシなんだ。
確かに全部の特徴に当てはまるわ。
カモノハシ食ってんのかぁ、僕は。
◆
不思議な感慨に耽るラルフを見て、屋敷の皆は困ってしまった。
彼らはサシュマが想像力豊かに推理した、ラルフの悲しき過去を共有していたので、到底子供に見えない程に肉を噛み締めているのを見て、またいらない同情を始めた。
あんなに真剣に…肉を食べられなかったのか。
あぁ、一口を大切にしている。
食事に苦労していたのだろうか。
あっ、食べないで残す部分を食べた…教育もされていなかったのか、ひもじかったのか。
歳の割にナイフとフォークが上手い。
躾に偏りがあるのは、何らかの任務で使い捨てられる予定だったのか。
考えた事は様々。
しかしラルフは意図せず彼らの心を掴んだ。
「何だか不思議。
師匠は子供好きなのに、そういうのを遠ざけて来たから、ラルフを連れて来ただけでも驚いたのに、隣にいるラルフを見る目が、もう、父親の目。」
そうか、とだけ返答をするサシュマ。
「そうね。
先生はお見合いとか全部断っちゃって、結婚もしてないのよ。
話だけなら山ほどあったのに。」
サシュマの地位であれば、結婚し、世継ぎを作るのが当たり前。
学園の長という立場、聖職者としても上位に位置する彼の跡を継ぐ者の心配は、若い頃からされて来ていた。
それを固辞し続け、65歳。
兄は存命だが、本教会に居る為離れているので、疎遠。
天涯孤独を望んでいる節があった。
屋敷に住む彼らを家族と呼び、大切に思っているのは伝わっていたが、自分の、本当の意味での身内を作らない。
財産も最低限を残して、あちらこちらへと寄付している様だ。
持ち物も最低限。
フラリと消えるのを望んでいるかの様だ。
過去には自分たちの存在が、新しい家族を作ることに気を遣わせているのではないかという話し合いもあったが、どうもそんな話ではない様だ。
望んで、独り。
そんな彼が、子供を連れ帰って来た。
神職の義父を持つルーベンス、魔法の研究の過程で神についての記述にも詳しくなったシーなどは、ラルフの容貌にここで育てるしかないと納得をしたが、それでもサシュマの兄に任せるなどをしても良かったはずだ。
なのに、自身で育てると言いだした。
神からラルフを無事に育てられる様に若返らせて貰った。
彼はそう言ったが、家族はそれでもサシュマを思い心配した。
敬虔とはいえ、心の負担ではないかと。
皆、彼の過去を知らないし、古傷を抉る様なことにならない様に触れずに来たが、恐らく、何かがあって孤独でいる事を決めたはず。
なのに子を育てろなどと。
それが、本当に我が子を見る様な顔をしているから、驚いたのと、安心した。
サシュマは、師匠は、先生は、アニキは、納得して自分の意思で育てると決めたのだ、と。
彼らを導いて来たのは間違いなくサシュマであり、彼に父性を感じていたが、その源泉は分からないままだった。
しかし、料理を巡っての話をする2人の姿は、親子にしか見えなかった。




