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真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第四章 成長
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エピローグ

現在、当日書いたものを投稿している状態です。

書き貯めの為、毎日投稿を一時的に止める事を決めました。

今月の投稿予定について、活動報告にてお知らせしておりますので、そちらをご覧ください。

 真一(しんいち)が黒狼に連れられてクラブに戻って来たのは、瓦礫の山の上でロボが気持ちよさそうに遠吠えをしている時だった。


「なんじゃこりゃ……」


 真一は瓦礫を崩さないように気をつけつつ、ロボの足元に集合している味方の元へと向かう。


「やっと来たわね。遅いのよ」

「うげ、戦闘直後に引っ張って来た癖に何て言い様だよ」


 満身創痍でやっとのこと眷属鬼(けんぞくき)を一人で倒した直後、傷も治り切っていない身で黒狼の指示に従ってやって来た真一は、カレンの言葉に顔を(しか)める。


「アンタに負傷した班員を回収させて、さっさと幽鬼(ゆうき)を片づけようと思ったのに、全部終わってから来ても意味ないじゃない」

「幽鬼が出たのか?!」


 幽鬼と聞いて、真一は眠り病の原因であるザガンを思い浮かべる。


「アンタが遭ったヤツじゃないわよ。タンニンの頭が幽鬼だったのよ」

「タイタンですよー」


 カレンの間違いを正親(まさちか)が律儀に訂正するが、カレンはそんな事は聞いていない。


「まあ、一人で眷属鬼をヤッたのは褒めてあげるわ。よくやったわね」

「ああ、サンキュ」


 海で半殺しにされたからではないが、真一はカレンの褒め言葉を素直に受け取り、照れくさそうに頬を掻く。


「……ところで、武部(たけべ)さん」

「ん?」


 真一に呼ばれ、正親は真一に向き直る。


()()はどうしたんですか?」


 真一の指さす先には、巨大化して月に吠えていたロボの足元で、それを見上げてポカンと口を開けている雪緒(ゆきお)が居た。

 真面目で利発そうな容姿の雪緒がそうしていると、ギャップがありすぎて心配になる。


「ああ、あれね」


 ただ、親からするとそうでもないようで、正親には気にした様子が無い。


「雪緒は結構ミーハーなところがあって、歴代最強の越境者とその相棒である巨狼のファンなのさ。で、流石に作戦中は理性が勝っていたけど、戦闘も終わって、目の前に話の通り天を突くほどの巨狼が居るもんだからタガが外れたってわけ」

「はあ……そうなんですか」


 年頃の娘が大口を開けているのは心配になる光景だが、実の親が平気な顔をしているのだ。真一が気にする事ではないのだろう。


「まあ、ともかく今回の討伐はこれで終了って事で」


 正親はそう言うと、それまでのだらしない雰囲気を改め、表情を引き締めてカレンと真一へと頭を下げる。


「本当に助かった。この地区を預かる討伐班班長として礼を言う。そして、こちらの調査不足で、複数の眷属鬼や幽鬼の存在を把握おらず、迷惑をかけてすまなかった」

「え? えぇ?」


 急に畏まった調子になったのと、年長者から頭を下げられるという慣れない状況に、真一は狼狽(うろた)えてしまう。


「別にいいわよ。コイツの訓練には丁度良かったし、後始末はそっちでやるって言うんだから、文句は無いわ」


 カレンは全く動じることなく、狼狽える真一の隣でいつもの調子でそう言った。


「……そっか。じゃあ、謝罪はここまでだ」


 たっぷり間を取った後、正親はそう言って頭を上げると、いつもの調子に戻り、へらっと笑う。


「おーい、雪緒。いつまでそうしてるつもりだ? 小林君も心配だし、そろそろ引き上げるぞー」

「あ、そうだ。田中さんと小林さんは、どうしたんだ?」

「アタシは知らないわよ。気になるなら、あそこで(ほう)けてるヤツに聞きなさいよ」


 正親は雪緒を正気に戻しに向かい、真一はカレンに田中と小林の行方を尋ねる。

 巨大化していたロボが通常の大きさに戻ると呆けていた雪緒も正気に戻り、討伐を終えた四人と一匹はガヤガヤと騒がしく、戦場を後にした。




◇◇◇




 コンコン


 桐子(きりこ)は宿泊施設の一室の扉をノックする。


「……」


 (しばら)く待ってみたが、中から返事は無い。

 しかし、部屋の主は中に居るはずだ。


 桐子は腕時計で現在が食堂の最も込み合う時間帯である事を確認すると、大きく息を吸う。


 ドン! ドン!


「おーい、真言(まこと)ちゃん! 居るんでしょ? 私! 桐子!」


 桐子は思い切りドアを叩きながら、大声で部屋の中に居る筈の真言に呼びかける。


「ねぇ! 開けて! もう二日も顔見てないよ! ご飯も食べずに何やってるの?」


 桐子が周囲の迷惑になると解っていながら、こんな事をしているのは、ここ二日ほど真言が食堂を利用した様子が全く無いからだ。

 心配になった桐子がカウンセラーである九条(くじょう)に聞いてみたところ、自らの望みを叶える能力のイメージを固める為に部屋に(こも)っているとの事だった。


 九条もまさか食堂にも姿を見せていないとは思っていなかったようで、心配する桐子に真言の部屋を教えてくれた。

 桐子が会えれば良いが、そうでなければ本部に報告の上、合鍵を使って扉を開ける事になるだろう。


 ドン! ドン! ドン!


「真言ちゃん!」


 扉を叩く握り拳は力を増し、桐子の声も目一杯大きくなる。


 無理か。


 桐子は諦め、扉を叩く手を降した。

 その時―――


「―――はいっ! 桐子さん? すぐ開けますから! ちょ、ちょっと待ってくださいね!」

「……え?」


 中から慌てた様子の真言の声が聞こえて来た。


 その声は焦ってはいるようだが、普通の調子で、てっきりやつれている真言を想像していた桐子は予想と違う展開に目を丸くする。


「はい、お待たせしました。―――って、どうしたんですか?」


 扉を開けた真言の姿は健康そうで、頰がこけていたり、目の下にクマがあったりもしない。


「ど―――」

「ど?」

「どうしたんですか? っじゃないわよ!」

「きゃあっ」


 勝手な話だが心配していた分、真言の平気な様子に桐子は怒りを感じて怒鳴りつけてしまった。


「はあ……」


 大声で怒鳴った後、桐子は額を押さえて脱力する。


 一瞬の怒りが過ぎれば、そこには安堵しかない。


「えっ……と、大丈夫ですか?」


 脱力して今にもへたり込みそうな桐子に、真言は心配して声をかける。


「大丈夫ですか、はこっちのセリフよ。二日も何してたのよ。食堂でも見ないし、悩み過ぎて引き籠ってるのかと思ったら、ケロッとしてるし……」

「あっ……、心配かけてすみません……」


 そこでようやく、真言は桐子が自分を心配して来てくれたのだと思い至った。


「とりあえず、あげてくれる?」

「あ、はい、どうぞどうぞ」


 真言は疲れた様子の桐子を部屋に招き入れる。


 桐子が自分にあてがわれたのと全く同じ造りの部屋に足を踏み入れると、カーテンが閉め切られて暗い部屋の中、机の上に置かれたタブレットだけが煌々と光を放っていた。


 小走りに部屋の奥に向かった真言によって、すぐにカーテンが開けられ、外の光で部屋が明るくなると、桐子はタブレットから目を離し、部屋の様子を確認する。

 部屋の中は特に荒れた様子も無く、綺麗に使われており、部屋の隅に寄せられたワゴンの上には空の食器が乗っている。

 どうやら、真言は食堂では無く部屋で食事を取っていたようだ。


 きちんと食事をしていたと解り、桐子は改めてほっと息を吐く。


「桐子さん、コーヒーでいいですか?」

「え? ああ、うん」

「じゃあ、座って待っててください。って言ってもベッドになっちゃいますけど」


 ビジネスホテルのシングルと同じような部屋の造りなので、椅子は机とセットになっている一脚しかない。

 桐子は勧められるままにベッドに腰掛けて真言を待つ。


「はい、どうぞ」

「ありがと」


 桐子は真言から受け取ったコーヒーを一口(すす)り、気を落ち着かせると、椅子に腰かけてコーヒーを飲んでいる真言に向き直る。


「で、二日も部屋に籠って何やってたの?」


 桐子の問いに、真言は申し訳なさそうな表情になる。


「心配おかけしたみたいで、すみません。……私なりに望みを叶える能力のイメージを固めるのに集中したくて引き籠ってました」


 真言の状態は予想とは違ったが、目的は予想通りだったようだ。


「で、上手くいってるの?」

「はい! もうバッチリです! 由紀(ゆき)さんにも『イメージさえ強固に持てれば大丈夫』って言って貰えましたから」

「え? 由紀さん? 誰?」

「私をここに誘った櫻澤(おうさわ)家の人です」


 桐子は由紀のことを知らなかったが、自分も櫻澤の人間に誘われて里に来ているので、簡単に納得した。

 まさか由紀が櫻澤本家の令嬢とは思っていない。


「桐子さんにはお礼を言わなきゃって思ってたんですよ」


 真言の言葉に桐子は首を傾げる。


「お礼?私何かした?」

「はい、談話室でアドバイスしてくれたじゃないですか。あれのおかげで思いついたんですよ。私の望みを叶える力」

「へぇー」


 桐子は談話室での会話を記憶から引っ張り出すが、真言の役に立つような発言には思い至らない。


「で、どんな力なら三つの望みを全て叶えられそうなの?」

「それは―――」


 真言は机の上から起動したままのタブレットを持ち上げる。


「これです!」

「っ! これって………」


 桐子はタブレットの画面に映し出されている映像を見て、声を詰まらせる。


 画面にはパステルカラーのフリルをふんだんに使った衣装を身に纏い、メイクの濃い女性と戦う少女の姿。

 視聴した事はないが、それが何かは理解できる。


 ただ、このタイミングでそれを見せられる意味は全く理解できなかった。


「私、魔法少女になります!」


 真言の宣言は桐子の脳まで届かなかった。

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