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真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第四章 成長
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4-16 繁華街へ

 繁華街から外れた場所に建つ薬局の駐車場。

 閉店後、出入り口にチェーンが張られ、車が一台も無いそこは、広々としたスペースになっており数十人もの人が集まっていても狭いとは感じない。


 集まっている人間は年若い者ばかりで、男女比は八対二といった所だろうか。

 男女共に髪を派手な色に染めている者が多く、そこに漂う空気は暴力的な物を含んでいる。


 それもそのはず、彼らはタイタンのメンバー。これから宿敵(しゅくてき)とも言えるB(ブルー)B(ブラッド)の拠点へ襲撃をかける所なのだから当然だ。


「こんなに居たんですね。タイタンって」


 道を挟んで薬局の対面。

 建物と建物の間の狭い路地で、雪緒(ゆきお)は驚きの声をあげる。


「タイタンはここらの不良集団を吸収して出来た寄り合い所帯だからなぁ。そりゃいるでしょ」

 

 路地裏には雪緒の他に正親(まさちか)とカレンも居る。


 カレンは駐車場に集まった連中の元に突っ込もうとした所を正親と雪緒に止められ、不満そうだ。


「ここからじゃ何やってんのか、解んないじゃない。何で止めるのよ」

「いや、止めるでしょ、そりゃー」

立華(たちばな)さん、全員殴り倒しそうだったんですもん」

「やんないわよ! そんな事!」


 繁華街でタイタンの連中からリーダーの居場所を聞き出そうとしていたのに、速攻で揉め事を起こしたカレンを二人は信用していない様子だ。


 この場に真一(しんいち)が居れば、二人に激しく同意した事だろう。


 そんな、やりとりをしていると、駐車場の方で動きがあった。


「あれは……、タイタンやB・Bが出来る前にここらを仕切ってた不良集団のリーダーだった男ですね。今はタイタンの副リーダーで、表に出て来ないタイタンの代わりに仕切ってる、確か……佐伯(さえき)とかいう男です」


 佐伯の登場に、集団は半円を描き、その元に集まる。

 佐伯が何か言っているようだが、カレン達の元まで声は届かない。


「やっぱここじゃ聞こえないわね」

「ちょ、立華さん! どこ行こうとしてるんですか?!」

「ちょっと混ざって聞いてくるだけよ。騒ぎなんて起こさないわよ」

「信用出来ません! って、あ〜……」


 こうと決めたら止まるカレンではない。

 カレンはスタスタと道を横切り、ごく自然に集団へ紛れ込んだ。


「―――じゃあ、襲撃場所とメンバーは今言った通りで頼む。あまり長時間こうしているとサツが寄ってくる。質問が無ければ行動開始だ」


 どうやら肝心な箇所を聞き逃してしまったようで、カレンは小さく舌打ちする。

 

 ここには鬼の気配は一切ない。

 全くの無駄足だったわけだ。


 カレンはそう判断すると、踵を返す。


「おい、タイタンはどうした? 今回はタイタンが来るって聞いたから俺らは集まったんだぞ」

「そうだ。リーダーのクセに俺らの前に全く姿を見せないってのはどういう事だ!」


 どうやらまだ聞くべき話は残っていたようで、カレンは鼻を一つ鳴らして足を止めた。


「タイタンはここには来ない。だが、作戦には参加する」

「どういう事だ?」


 集団のそこかしこで(ざわ)めきが広がるのを待ち、佐伯は勿体ぶった調子で続ける。


「タイタンはB・Bの坂本(さかもと)を直接ヤる」

「それは……」

「そうだ。これから俺達がやるイベントへの嫌がらせはただの陽動だ。本命はタイタンによる坂本襲撃。今夜、B・Bの関わるイベントは全て俺達がめちゃくちゃにして、頭の坂本は病院かあの世行きだ。あとに残るのは信用もリーダーも失ったB・Bだけ」


 佐伯はニヤリと笑う。


「今夜、タイタンが天下を取るぞ!」

「「おぉー!」」


 カレンはあまりの下らなさにため息を吐き、盛り上がる周囲に気付かれないように集団を離れる。


「立華さん、ああ、よかった」


 二人の待つ路地裏に戻ると、雪緒が心底ほっとした表情でカレンを迎えた。

 その表情はカレンが集団に向かう時のやり取りを思うと、カレンの無事を喜ぶというより、カレンが揉め事を起こさなかった事を喜んでいるように見える。


「で、どうでした?」


 正親に(うなが)され、カレンは見聞きした事を二人に伝える。


「そっかー、今夜は繁華街を行ったり来たりとういう訳かー」


 正親は腰を叩きつつ、ぼやく。


「何言ってるの! もし、タイタンが鬼だったら田中(たなか)さん達は不意の遭遇戦になるかもしれないんだから! さっさと行くわよ!」

「はいはい」


 雪緒にどやしつけられ、正親は言葉とは裏腹に機敏な動きでB・Bの経営するクラブに向けて駆けだした。


 繁華街に入ると、夜のそこは人で溢れていた。

 道を行くのに支障は無いが、そこまでのように疾走するという訳にはいかなくなるのが普通だ。


 カレンは武道の走法で歩行者を(かわ)しながら先を急ぐ。

 少し離れた位置を行く雪緒と正親をちらり見ると、そちらはそちらで独特な歩法で道行く人々の隙間をスルスルとすり抜けている。その足取りは普通に速足程度にしか見えないが、実際はカレンと変わらないスピードが出ている。


 二人が問題無く着いてきている事を確認したカレンは、前方から風のようなものを感じる。

 だが、それは風では無い。


「立華さん」


 離れていた雪緒と正親がカレンの傍に寄って来て声をかけて来る。


「気づいてるわよ」

「はい、これは―――」

真夜(しんや)ね」


 前方から感じた風。

 

 それは鬼が展開した真夜の範囲が広がり、その境界がカレン達の上を通り過ぎる際に風のようにその身に触れて行った結果、風が吹いたのに似た感覚を受けたのだ。


 よく知るその感覚を歴戦の越境者(えっきょうしゃ)であるカレンが見逃すはずが無い。


「都合がいいわ。さっさと潜って先を急ぐわよ」

「はい!」


 戦闘を控えて興奮気味の雪緒は、カレンの言葉に気合十分に返事をする。


 意思確認が済むと即座に、三人は現世から幽界(ゆうかい)の理が混じる真夜へと潜る。

 周囲の空気には鬼の気配が色濃く漂い、周囲に溢れかえっていた人々は忽然と姿を消す。

 建物に切り取られた狭い夜空には蒼い月が昇っている。


「走りやすくなったじゃない」


 カレンはいつの間に呼び出していたのか、足元に伏せるロボに(またが)る。


「これが巨狼(きょろう)……」


 雪緒がロボを見てぼんやりとした表情でぽつりと呟くと、触れたいのか手を出したり引っ込めたりを繰り返す。


「何やってんの! さっさと行くわよ!」

「ひゃ、ひゃい!」


 カレンに一喝され、はっとした雪緒が背筋を伸ばす。


「雪緒は意外とミーハーなとこあるからなぁ」

「お父さん!」

「はいはい、ほら立華さんが行っちゃうよ?」

「わかってます!」


 ロボに跨ったカレンは既に走り出しており、二人は慌ててそれを追のだった。




◇◇◇




「どうした? 威勢がいいのは口だけか?」

「くっ、うるせぇ! そっちこそ、さっきから眷属だか何だか知らないけど、小物にばっかり俺の相手をさせて、お前自身は高みの見物かよ!」

「私はそんな泥臭い戦いなんぞ好まんのでな。お前ごとき俺の影で十分だよ」


 鬼はそう言うと自らの影から生み出した獣を真一にけしかける。


 真一はそれを迎え撃ちつつ、鬼の動きに注意を向ける。

 興奮したように口では挑発していたが、真一は戦闘にのめり込んでは居らず、冷静だった。


(現世で問題無く行動出来るという事は、こいつは眷属鬼だ。さっきからけしかけて来る獣やらを眷属だ影だと言っているけど、結局は屍鬼でしかないな。攻撃力も大したことないし、このまま時間稼ぎに気付かれないように気を付けつつ、皆が来るまで持ちこたえるぞ)


 真一は空から急降下してくる影の鳥を躱しつつ、地を駆ける獣を一匹ずつ確実に仕留めていく。


 最初、慣れない上空からの攻撃に翻弄(ほんろう)されたが、慣れればどうという事は無い。

 そもそも、そんな攻撃もくらえばくらっただけ真一の体はそれに対応し、徐々に効かなくなっていく。

 既に真一は体験した事の無い対空戦闘の訓練を実戦でしているような状態になっていた。


 そして、犬のような獣については黒狼の劣化版でしかない。

 最初こそ、不意を突かれて地面に引き倒され、いいようにやられてしまったが、戦闘スタイルとしては慣れた部類で、そこに慣れない対空攻撃がスパイスのように加わってこちらも良い訓練だ。


 真一は最後の獣を壁に向かって蹴り上げ、跳ね返って来た所に肘打(ちょうだ)を打ち込み、仕留める。


「お前、意外にしぶといな……」


 鬼は地面に転がると溶けるように消える獣を不機嫌そうに見て言う。


「クラブに来た連中の事もある。さっさと片づけたいんだがな」

「だったら、ちまちま屍鬼なんて出してないで、自分で来たらどうだ?」


 真一の挑発に一瞬苛立たしそうな表情をしたが、鬼はすぐにその表情を改める。


 険の目立った目がすっと落ち着きを取り戻し、不機嫌そうに歪められていた口元が引き締まる。


「そうだな。少し舐め過ぎていたようだ。俺自身で片を付けるとしよう」


 真一の体が緊張感に固くなる。

 すでに実戦を何度も経験し、今更屍鬼に後れを取る事は無いが、鬼相手に一人で挑むのはこれが三回目。


 一回目はボロクソにされ、二回目は足止めこそ成功したが、あのままやっていて勝てたかと言われれば黙る。

 真一の自身に対する評価は、しぶとさだけが取り柄のちょっと戦闘訓練を受けた素人でしかない。


「……マジか」


 口の中だけで呟き、頬を冷たい汗が伝う。


 鬼は影から細身の剣を取り出し、真一に向かって構える。


「行くぞ!」

「くっ」


 鬼は剣を片手で前面に突き出し半身に構えた姿勢から、一気に加速して真一の肩を狙った突きを繰り出して来る。

 真一は咄嗟(とっさ)に右足を引き、半身になる事でそれを躱す。


 胸の前を通り抜けた剣先が伸び切り、止る直前にフッとぶれ、真一の胸からわき腹にかけてがひやりとする。


「? っ、がぁあっ!」


 真一は思わず胸を押さえて叫んだ。


 ひやりとした感覚の次に来たのは、焼けた鉄棒を押し付けられたかと思う程の熱と痛み。

 真一の胸から左わき腹にかけて、ぱっくりと裂け、血が吹き出す。


「ちっ、浅かったか」


 鬼は真一の血に汚れる事を嫌ったのか、大きく飛び退(すさ)ると、剣を一振りして剣身についた血を払う。


 真一は何が起こったのか、今更に気づく。

 咄嗟に避けた突き。その剣先が伸び切る前、剣を引くのでは無く、横薙ぎに払われたのだ。


 強引に軌道を変えられた剣では、丈夫な肋骨を断つ事は出来なかったようだが、骨の上を滑り、わき腹を抜ける際には腹を大きく切り裂かれた。


 深く切り裂かれたわき腹を押さえ、真一は脂汗を垂らしつつ、鬼を睨みつける。


「ほう、腹を裂かれてもまだそんな目が出来るのか。稀人(まれびと)とかいう連中の噂は聞いていたが、なるほど、あながち眉唾というわけでもなかったか」


 鬼は一人で納得すると、再び剣先を真一に向ける。


「だったら余計に急がなくては、な」


 真一は自分に向けられた剣先を見つつ、考える。


 骨の上を通った部分の傷は既に塞がっている。

 後はわき腹の深い部分だけだ。

 さっきは鬼との戦闘という事で固くなっていた部分があったが、相手の剣が圧倒的とは感じなかった。


 初手で大きなハンデを負ってしまったが、これを(しの)げばすぐに状態はイーブンに戻る。


 真一は大きく息を吐き、自分を落ち着かせると、鬼の攻撃を待ち構える。

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