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真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第四章 成長
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4-7 海の家

 夏のレジャーといえば、定番は海か山かで意見が分かれる所だろうが、レジャーでは無く、遠征で行くならどちらがいいとか考える必要はない。


 真一(しんいち)とカレンは混み合う電車やバスを乗り継いで、白い砂浜と青い海が広がる海岸までやって来た。


 遊びではないが、夏に一度も海に来ないという事もなく済んで、真一はほっとした。

 別に夏の思い出を話す相手も居ないけれど。


「取り敢えず、この地区を担当する班と合流するわよ」

「了解。ところで、前から気になってたんだけど、他の班は自分達の事を〜地区担当討伐班って呼ぶのに、うちは何でチームなんだ?」


 こうして他の班が遠征を受け入れてくれて居るので、別に御幸(みゆき)の所が勝手に鬼を討伐してまわるハグレ者集団というわけで無いのは解っているが、その違いが分からなかった。


「別にアタシは班でも良かったけど、御幸がなんか(こだわ)ってんのよ」

「つまり、御幸さんが始めた自称って事か?」

「そう」

「拘ってるって何に?」


 真一は首を傾げる。

 政治や宗教、主義主張の関係で呼び方に拘りを持つ人はいるが、御幸が何に拘って班を嫌い、チームと呼ぶのか、真一には見当がつかなかった。


「大した話じゃ無いわよ。班ってのは全国に散って活動する越境者(えっきょうしゃ)(まと)める結城(ゆうき)家が管理してて、その構成は結城家が決めるわけ」


 結城家といえば、メンバーの一人である龍二(りゅうじ)の実家だ。

 御幸はその結城家に何か思う所が有るのだろうか?


「でも、アタシ達は自分達の意思で集まって、後付けで討伐班の一つとして扱われる事になった集団で、編成から何から結城家が一切関わってないわけ。だから、結構勝手もやって来たし、結城家も指揮権振りかざしたりしない。責任取らされるのが嫌なんでしょうね」


 まさか始まりは本当にハグレ者集団だったとは……。

 真一は自分が否定した事が、以前はその通りだったと知って驚いた。


「で、御幸はアタシ達が自分達の意志で鬼と戦う為に集まったって事、命令や役目で集まったわけじゃ無い仲間ってのに拘ってんのよ。御幸は」


 呼び方なんて何でもいいのに、とカレンは言う。


 何となく真面目な御幸らしいと思って、真一は納得した。

 同時に、その拘りに自らの意志で本家の意向に囚われず、活動を続けると言う御幸の決意を感じて身が引き締まる思いがした。


 真一も勇み足であったが龍二の決定に従わず、真言とともに鬼を追った。

 だから、御幸の気持ちはわかるつもりだ。


 呼び名一つだが、そう思うと誇らしく感じる。


 やがて、カレンは砂浜に建つ建物の前で足を止めた。


「ここよ」

「ここ?」


 そこは夏の砂浜ではお馴染みの海の家だった。


 水着姿の海水浴客で賑わうそこに、カレンは足を踏み入れ、奥へと進む。

 飲食スペースを抜け、注文カウンターまでやって来ると、仁王立ちになる。


「いらっしゃいませ。すみませんが、今は満席ですから、お持ち帰りのみになりますが、宜しいですか?」


 バイトだろうか?

 真一やカレンと同年代のよく日焼けした健康的な少女がカレンへ告げる。


「客じゃ無いわよ。討伐に加わる立華(たちばな)高坂(こうさか)よ。ここの班長は居る?」

「えっ? あ、ちょっと待っててください」


 少女はカレンに言い置き、厨房へ向かって大声で呼びかける。


「お父さ〜ん! 立華さんが来たわよ〜!」

「おう! ちょっと待ってろ」


 厨房から野太い声が返ってきて、そう待つ事なく、声の主が姿を現した。


「ほれ、三番テーブルの焼きそば二つと海鮮カレー」

「はーい」


 厨房から現れ、カウンターに料理を置くのは身長二メートルはあろうかというスキンヘッドの巨漢(きょかん)で、よく焼けた身体は逞しい筋肉が盛り上がり、二の腕などカレンの腰程の太さがある。


 大男は少女が料理を受け取り、テーブルに向かうのを見送るとカレンへと向きなおる。


「悪いが見ての通りでな。昼時を過ぎたら落ち着くから、すこしまっててくれや。奥に休憩スペースがあるからよ」


 大男は視線で満席状態の店内を指し、そう言う。


 まあ、確かにこれでは落ち着いて話も出来ないだろう。


「解ったわ」

「悪いな」


 カレンと真一は厨房の横を通り、奥の休憩スペースに入った。


 休憩スペースといっても、屋外に抜けたそこには小さなテーブルとパイプ椅子が二脚あるだけで、外部との仕切りも大きく張り出した(ひさし)に立てかけられている葦簀(よしず)だけだ。


「アンタ、事前資料は読んだわよね」

「ああ、ちゃんと目を通したよ」


 パイプ椅子に腰掛け、カレンが真一に確認してきた。


 御幸から渡された今回の討伐対象の鬼に関する事前資料には次のような内容が書かれていた。


 討伐対象の鬼は人型。

 既に海水浴客が複数人同時に行方不明となる事案が発生しており、これが単純な海の事故で無いとの判断から櫻澤(おうさわ)の情報網に引っかかった。

 被害者達の足取りから、被害は海水浴客で賑わう昼間の海岸である可能性が高い。


「人も多いし、範囲も広い。真夜が展開するまで場所の特定は難しいわ。恐らく、別れてビーチ全体をカバーする事になるから、前回みたいに速攻逃げられたら応援は間に合わないわよ」

「プレッシャーかけるなよ……」


 まだ前回の遠征から日も経っていない。

 カレンに言われて、自分の目指すイメージを固めようとはしているが、それも上手くいっていない。


 真一は眉をハの字にしてボヤいた。


「おう、待たせたな」


 程なくして、スキンヘッドの大男が休憩スペースへとやって来た。


 大男が新しくパイプ椅子を出して腰掛けると、簡単なつくりのそれは悲鳴を上げる。


「まずは自己紹介といこうか。俺はこの地区の討伐班で班長を務める蘇我(そが)源蔵(げんぞう)だ。さっきカウンターに居たのが娘の(みなと)。あとは民宿の方に嫁と息子、息子の嫁がいる。それでうちの班は全部だ」


 源蔵は班員は全て家族、五人で一班だそうだ。


「立華カレン」

「高坂真一です」


 遠征についての連絡で知っているだろうが、真一もカレンも礼儀として名乗った。


「早速だが、討伐について話させてもらう」


 源蔵は名乗り合いが終われば、すぐに今回の討伐について話を進める。


「対象が人を襲う周期はまちまちだが、どうやら真昼間からやらかしてるらしい。だから、俺たちは昼過ぎから夕方まで浜に散って、網を張ることにした。で、本部に応援を要請しようとしてたとこにあんたらから遠征の申し入れがあったってわけだ」

「遠征目的は聞いてるわよね? コイツみたいな新人がいてよかったの?」


 カレンは真一を(あご)で指し、源蔵に確認をする。


「確かに実戦経験の浅い新人を少人数で散って網を張るこの作戦に参加させるのは抵抗はあったさ。だが、一緒に立華の令嬢が来ると知ったら、そんな事は気にもならないぜ。あんたが居れば間違いなく鬼の討伐は成功する」

「買いかぶりよ」

「いや、あんたはそれだけの事をして来た」

「フン、期待するのは勝手だけど、失敗したからってアタシの所為にすんじゃないわよ」

「分かってるさ。これは本来、俺たちの班で片付ける問題で、あんたらは便乗して訓練するだけって事は了解してる」

「だったらいいわ」


 その後、源蔵とカレンは作戦参加者の配置など、一通りの打ち合わせを済ませると、席を立った。


 二人のやり取りをただ聞いていただけの真一も、慌ててそれに続く。


「じゃあ、俺と湊も店をバイトに任せたらすぐに行く。嫁たちは先に配置についてるはずだ。あんたらもよろしく頼む」


 カレンと真一は源蔵の言葉に頷き、厨房の横を抜け、店内へと出る。


 店内にはまだ多くのお客が居たが、最初に見た時よりは落ち着いているようで、湊を含む店員達はカウンターに集まって一息ついているようだ。


「あっ」


 源蔵に言われた通り、配置に着こうと店を出る二人に気付き、湊が店員の輪から抜け、走り寄って来る。


「あ、あの! 今日はよろしくお願いします!」


 湊は二人に追いつくと、そう言って頭を下げた。


「みんな、折角海を楽しみに来ているのに、そこで鬼に襲われるなんて、先祖代々、この地区の安全を任されて来た蘇我家の者として許すわけにはいきません! 何としてもこれ以上被害者が出る前に仕留めたいんです! ですから、どうか、力を貸してください! お願いします!」


 その熱意に真一はびっくりした。

 湊はまさに熱血という言葉がぴったりで、その瞳の奥には燃える炎がみえそうだ。


「フン! 言われるまでも無いわ」

「足を引っ張らないように頑張ります」


 カレンは何の気負いも無く言ってのけるが、真一は湊の熱意をプレッシャーに感じてしまう。


 源蔵の班員の実力は不明だが、この作戦で穴があるとすれば真一なのは間違いない。

 夏休みに入って、何度か遠征出ているが、真一はまだ役に立ったと言えるような働きは一度も出来ていない。


 自分が役立たずと罵られるだけならいい。


 だが、実際はそれでは済まない。

 湊の言う通り、鬼を取り逃がすという事は次の被害者を生むという事に繋がってしまうのだ。

 これ以上ヘマは出来ない。


 目の前には砂浜に溢れかえる海水浴客が居る。

 友達同士で、家族で、恋人と、それぞれが夏のレジャーを満喫している。


 そんな平和な光景のすぐ隣に、理不尽な死を振りまく存在が潜んでいる。

 真一は、そんな理不尽を跳ね除ける為にチームに入ったのだ。

 尻込みしている場合では無い。


 真一は自らが戦う事を選んだ理由を再度胸に刻み、気合を入れ直すと、任された担当場所に向かって歩き出した。

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