表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第四章 成長
72/94

4-5 遭遇

 豊野(とよの)市駅前のロータリー。

 時刻は午前十一時。

 いつか真言(まこと)とのデートで待ち合わせに使った場所で、真一(しんいち)皐月(さつき)が来るのを待っていた。


 ホームで昼食中に受け取ったメールについて、その場に居た真言を除く全員から行けと(すす)められた。

 翌日は遠征の予定もなかった為、元々そのつもりだった真一はすぐにOKで返信し、数度のやり取りを()て今日の予定が決まった。


 しかし、約束の時間になっても皐月はやって来ない。


 真一はロータリーの時計を見た後、スマホでも時刻を確認する。


「やっぱり、時計が進んでるわけじゃないか」


 皐月の家は駅前から近い。

 その為、交通機関の遅延(ちえん)は考えられない。


 約束の時間を十五分過ぎたところで、真一は再びスマホを取り出した。


「連絡してみるか」


 アドレスから皐月の番号を呼び出して発信ボタンを押そうとした時、いつかようにロータリーに駆け込む足音が聞こえて来た。


「ご、ごめん。遅れた」


 真一に駆け寄り、荒い息の合間にそう謝ったのは待ち合わせの相手である皐月だった。


 ただ、真一のイメージする彼女には無い格好に、口から出かけた文句が引っ込んだ。


 足元は動きやすそうなスニーカーだが、水色のパステルカラーが涼しいキャミソールにノースリーブのプリントパーカーは、活動的であってもガーリーな雰囲気を崩しておらず、しなやかで長い足を惜しげもなく(さら)す丈のプリーツスカートと合わさって、非常に魅力的な夏の装いとなっていた。


 皐月のスカート姿など、記憶の中に一度として登場しない。


「えっと、何か変、かな?」


 返事もせず、まじまじと自分を見る真一に、自信なさげに身を(ちぢ)こませて問う姿は完全に女の子のそれで、真一を慌てさせる。


「い、いや、スカートとか印象に無かったから、驚いただけ。よく似合ってるよ」

「っ! うえ? そ、そう? あ、ありがと……」


 スカートの印象が無いと言われて怒りかけた皐月だったが、後に続く言葉に顔を赤くする。


「じゃ、じゃあ、取り敢えず落ち着いて話ができる店に行こう!」

「あ、ああ!」


 気不味い空気を変えるように、皐月はわざと大きめの声を出し、真一もそれに(なら)った。


 駅前を離れて、並んで歩く二人。

 最初はぎこちなかったが、幼い頃からよく知る相手同士ということで、少し話せばいつもの調子を取り戻す。


「どんどん駅から離れてるけど、何処まで行くつもりだよ」


 店のチョイスは地元民である皐月に任せたが、どんどん駅から遠ざかって行く。


「ここら辺じゃ知り合いばっかだから、少し駅から離れなきゃダメなの。もう少し行ったらファミレスがあるから、そこでいいでしょ?」


 皐月の両親は駅の近くで洋食屋を営んでいる為、駅周辺の店は皐月を知る人が多い。

 年配の人の中には年頃の男女が一緒に居るだけでくっ付けて揶揄(からかい)いたがる人が居るので、避けたいのだろう。


「こんだけ歩いてファミレスかよ……。てか、だったら何で駅前で待ち合わせたんだよ」

「あんたがここら辺の地理に(うと)いと思って気を遣ったんじゃない」


 真一の文句に皐月も言い返す。

 最初の緊張感は既に無く、気安いやり取りに皐月は心地よさを感じていた。


 本当はファミレスに着いて、落ち着いてからと思っていたのだが、この雰囲気なら何気ない雑談として、聞き(にく)い事も聞けそうな気がした。


「ところで、さ」

「ん?」

「昨日、あんたと一緒に居たのってさ、立華(たちばな)カレンだよね」

「え? お前、あいつの事知ってたの? 昨日は知らない風だっただろ?」

「やっぱり……じゃあ、あの噂も……」


 真一の問いにも答えず、皐月は唇に指を当て、小さく呟いた。


 実は皐月は真一への連絡を(ひか)える一方、豊ヶ原高校に通う、同中の友達に真一の様子を聞いていた。


 皐月の従兄弟と知って、相手の口は重くなったが、無理に聞き出した話はとても信じられないものだった。


 転入当初はクラスから若干浮いていたというが、それをクラス委員長が気にかけていたそうで、ハブられたりはしていなかったと聞いて、安心した。

 しかし、その委員長が行方不明になってからは雲行きが怪しくなった。


 まず、真一が委員長の失踪に関係しているのでは、との噂が流れた。理由は委員長と最後に一緒に居たのが真一で、警察から色々聞かれているからだとか。

 この噂は一週間程で当の委員長が急に家族の都合で他県へと引っ越さなくてはならなくなり、連絡の不備から大事になっただけと判明している。


 しかし、そこから更に妙な噂が流れた。


 真一が同級生と先輩、中学生の女子を(はべ)らせ、ハーレムを作っているというのだ。しかも、ハーレムメンバーの一人がこの近辺(きんぺん)の女子中高生には有名な立華カレンだと言う。

 皐月はファッションには(うと)く、カレンの顔は知らなかったが、名前は幾度(いくど)となく聞いたことがあった。


 だから、そんな華やかな世界の住人が真一を相手にし、ましてや他の女性と天秤(てんびん)に乗せられるような事を許すはずが無い、噂は所詮(しょせん)、噂でしか無いと思っていた。


 だが、昨日はとんでもない美少女と一緒に居た。


 まさかと思ってインターネットで調べてみたら一発だ。

 検索ワード「立華カレン」で出てきた画像は、完全に真一と一緒に居た美少女だった。


 一緒に居たからといって、噂が真実とは限らないが、少なくともそれなりに親しい関係である事は、昨日の二人のやり取りを見れば分かる。

 だから、皐月は真一に噂の真偽を確認し、もし本当であれば、そんな最低な行為は止めさせるつもりなのだ。


 取り敢えず、立華カレンと知り合いなのは確定だ。

 次は―――


「皐月?」

「どんな関係なの?」

「は?」


 昨日一緒に居たのがカレンかどうかの確認をした後、黙った皐月に真一が呼びかけたところ、皐月は真剣な表情で二人の関係を問う。


「立華カレン、彼女みたいな有名人とどんな関係なの?」

「どんなって……友達? いや、部活仲間かな?」

「部活? 部活って何部?」

「えーっと、文化人類研究会?」

「何で、部活名が曖昧(あいまい)なのよ?」

「いや、それは……」


 文化人類研究会は学校内での拠点確保の看板でしかなく、活動実態が無い為、真一は記憶が曖昧になってしまい、皐月の不信を買う。


「ねぇ、あんた何か隠してない?」

「え? え〜っと……」


 所属する部活名が曖昧という言い訳の難しいポカをやったばかりの真一は、皐月に詰め寄られて目が盛大に泳ぐ。


 皐月はカレンとの関係について言っているのだが、疑念の元が部活であった為、真一は隠し事と言われてチームや鬼、真夜(しんや)の事が頭に浮かんでしまい、答えに詰まる。


「ねぇ」

「先輩!」


 挙動不審になった真一に皐月が詰め寄ろうとした時、皐月の後ろで少女の声がし、真一がそれに反応した。


 真一の視線を辿(たど)るように、皐月が振り返ると、其処には二人の少女が立っていた。

 その内、真一の視線の先に居たのは、大きな目が印象的な髪を短いポニーテールに纏めた少女―――夕凪(ゆうなぎ)真言(まこと)だった。


「真言ちゃん」

「中学生の女子……」


 皐月の聞いた噂では、真一のハーレムメンバーは三人。立華カレンと先輩、そして中学生の女子、だ。


「やっぱり噂は本当……」


 真言の登場で、噂の信憑性が上がったように感じて、皐月はショックで固まってしまった。


「こんにちは、お休みの日に道で会うなんて、偶然ですね。ところで、そちらの方は昨日言ってた……」


 ところでも何も、登場してからずっと、真言はチラチラ皐月の様子を(うかが)っていた。


「ああ、こいつは高坂皐月。昨日話題になってた俺の従姉妹だよ。これからファミレスに行って近況報告やらするつもり。そっちは旅行の買い物とか?」


 真一は固まってしまった皐月を真言に紹介して、真言の隣に立つ少女へと視線を向ける。

 真言と一緒に居るのは真一には見覚えの無い人物だった。


 (よそお)いはシンプルな白いワンピースだが、シンプル故にそれが仕立ての良い高級品である事がはっきり分かるもので、青い日傘をさすその手もワンピースに負けず劣らず、白磁(はくじ)のように白く滑らかだ。全体的に白い印象の中で、腰まである長く艶やかなストレートの黒髪は日の照り返しを受け、キラキラと光って見える。

 顔立ちは目鼻立ちの通った美人で、その目はお嬢様(ぜん)とした見た目に似合わず、強い意志の光を宿している。


 よく見ると、何処かで見たことのあるような気もするが、真一はそらが何処だったか思い出せなかった。


「初めまして、私は由紀(ゆき)と言います」


 真言と一緒に居たのは櫻澤(おうさわ)由紀。

 櫻澤本家の次女であり、真一達のチームリーダーである御幸(みゆき)の妹だ。


 真一が見覚えを感じたのは、姉妹である二人が似ているからだったが、二人から受ける印象がそれぞれ違いすぎる為、気づく事ができなかった。


「あ、初めまして、高坂真一です」


 由紀の自己紹介を受けて、真一も名乗る。


「ああ、貴方が真一さんですか。一度お会いしたいと思っていたんですよ」

「え?」


 真一は相手が自分の事を知っていた事に驚き、真言を見る。


「由紀さん!」


 真言は責めるように呼ぶが、由紀はそれを笑顔で(かわ)す。


「いいじゃないですか。さっきから真言さんも気になっていた様子ですし、ここはいっそご一緒しましょう」

「え?」

「な、何言ってるんですか!」


 真言は慌てて由紀を止めようとするが、由紀は真言に構わず、真一へと一歩近づいた。


「真一さん、良ければご一緒にお茶などいかがですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ