3-23 エピローグ
次話から梓と真言の番外編を一話ずつ投稿します。
本編には影響しない話ですが、よろしくお願いします。
御幸達がホームと呼び、チームの拠点として使っているマンションのペントハウス。
その専有部分は六階部分のほぼ全てになり、その半分がベランダになっている。
その広いベランダには梓が管理する家庭菜園もあるが、大部分がトレーニングスペースになっている。
ランニング等の広さを必要とする訓練には向かないが、筋力トレーニングや簡単な組手を行うには十分な広さがあるそこに、チームの全員が集合してた。
御幸は馴染の場所に集合する仲間たちを眺めながら、ここ二週間の事を思い出す。
カレンに対する査問が通達され、御幸はカレン、梓と共に里へ赴いた。
妹の由紀が不穏な動きを見せるそこで、全員がバラバラの状態にされ、不安を感じる事もあったが、終わってみればカレンに対する処分は無く、由紀との決闘は大きな怪我も無く勝利した。
由紀の力や慣例破りの宣言等、驚かされたが、それらは自身の主義主張に変化を強要するものでは無いと、足元を見直す良い機会になったと、今では思っている。
無事に日常に戻った御幸は、トレーニングスペースで相対するカレンと真一を見る。
「あのさ、本当にやるわけ?」
真一が嫌そうに言う。
「当ったり前でしょ? 訓練と実戦で、アンタがどれだけ成長したかみてあげるわよ」
本家の行く前に戻ったら行うと言っていた、カレンとの組み手を今からしようとしているのだ。
「俺は昨日まで入院していたんだけど?」
「もう完治してんでしょ? 問題ないわよ。それに、折角本家からぶんどって来た戦利品があるんだから、遠慮なく大怪我出来るわよ」
「やっと退院したんだぞ! 大怪我なんてして堪るか!」
ベランダの隅に置かれた灯篭のようなオブジェを指差して言うカレンに、真一は言い返す。
「大体、本当に真夜と同じように力が使えるのか? 真夜みたいに現世から離れた感覚がないんだけど」
真一は夜空に浮かぶ白い月と見上げる。
「疑り深いわね」
灯篭のようなオブジェはカレンが査問会と決闘で迷惑を被った代償として、明乃に直談判してせしめた第二第三修練場に使われているものと同種の道具だ。
これによって、真夜と同じ効果を持つフィールドを現世に張る事が出来る。
「大丈夫よ。里で使っているものと変わらない性能があるから、ほぼ真夜と同じように力が使えるし、あのサイズだったらベランダ全体にフィールドを張れるから、効果範囲から外れて怪我が治らないなんて事も無いわよ」
「御幸さんがそう言うなら……」
真一は御幸の説明に一応納得する。
「アンタ、アタシとの組手の前にいい度胸してんじゃないの」
カレンが凶悪に笑う。
「待て! 自分の説明が雑なのを棚に上げて怒るな!」
真一が止せばいいのに余計な事を追加で言う。
「じゃあ、納得した所でさっさと始めるわよ」
「待った、待った」
真一はカレンを宥めようとするが、カレンは止まらない。
「待たないわよ!」
「ギャー!」
組手にロボは参加しないようで、ベランダの隅で腹這いになって欠伸をしている。
だが、カレン一人が相手でも、真一が敵うはずが無い。
空気を突き破る物騒な音を立てて振るわれる拳や蹴りを、真一は不格好でも必死で躱す。
「真一! お前の力は驚異的な回復力だ。負傷を恐れず、立ち迎え!」
龍二からアドバイスが入るが、怪我を前提に攻撃を受け、反撃に転じる事は解っていてもすぐには出来ない。
怪我が治ると言っても、痛いものは痛いのだ。
「大丈夫だ。お前の体は訓練で十分鍛えられている。カレンの攻撃でも易々と骨を砕かれたりしない」
「骨!?」
真一はそこまでの大怪我は想定していなかった為、焦る。
「ふーん、面白いじゃない。本当に折れないか、試してみましょうか?」
「げっ」
龍二の余計な言葉で、カレンがやる気になってしまった。
「待て、待て、待て!」
「だから、待たないわよ!」
真一は両手を突き出して、停止を求めるが、カレンは真一に向かって一直線に突っ込み、右の拳を突き出した。
「先輩!」
真言が悲鳴のように真一を呼ぶ。
カレンが放ったのは単純な正拳突き。
型通りのそれは、きれいに腰が入っており、威力、スピードは申し分ないが、完全なテレフォンパンチ。
龍二と組手を繰り返してきた真一は、自然に体が動き、その突きを両腕でガードした。
ゴ! と石を打ちつけ合ったような音がなり、カレンの拳は止められた。
「止め」
「動き止めんな!」
カレンの突きを止めた真一が喜びに顔を輝かせたところで、カレンの蹴りが側頭部に炸裂し、真一の意識は刈り取られた。
「ヒデー目にあった……」
真一は側頭部をさすりながらボヤく。
怪我は力で治っているので、別に痛いわけではないのだが、何となくだ。
「ホント、加減ってものを知らない人ですからね」
真言は真一に焼けた肉を取り分けながら、カレンを睨む。
「実戦だったら相手の攻撃を防いで終わりじゃないのよ。動きを止めてどうすんのよ」
カレンは自分の皿に取った山盛りの肉をかっ喰らいながら、ダメ出しをする。
カレンと真一の組手の後、そのままベランダで御幸達の帰還と、真一の快気祝いを兼ねてバーベキュー大会をやっているところだ。
「ところで、二人は夏休みの予定はどうなってるの?」
御幸から、もうすぐやってくる夏休みの話題が振られ、真一と真言はそれぞれ答える。
「俺は特に無いですね。課題を早々に片付けて、後は訓練に打ち込もうかと」
「あ、私は長期旅行の予定が……すみません」
真一は家族を失っており、こっちに友人も居ないので、夏休みの予定は丸々空いていた。
一方、真言はその逆で夏休みの予定はほぼ埋まっているとのことだ。
「そうなの。別にチームの活動は生活に支障がない範囲で構わないのだから、楽しんで来てね」
「はい」
御幸にフォローされ、真言は笑顔を見せる。
「受験生なのに、遊んでていいわけ?」
「勉強は勉強でやります。それに、夏休みに追い込みかけなきゃいけない程、成績は悪くないんで」
「あっそ」
真言は真一と出会って、志望校のランクを落とし、豊ヶ原高校に変更している。
今の成績をキープしていれば、特に問題ない。
「そっちこそ、期末テストで赤点取って、補習地獄なんて事にならないように、せいぜい気をつけてくださいね!」
真言は舌を出し、カレンに反撃の一言を放つ。
来週に迫る期末テストの事を思い出し、言われたカレンではなく、真一が渋い顔をする。
「あら、カレンは成績いいのよ。確か中間テストも学年二位だったんじゃなかった?」
「え?」
「えぇ~?」
御幸の言葉に真言と真一は驚き、カレンと御幸の間で視線を行ったり来たりさせる。
「何よ?」
「いや……」
その反応に、カレンが目を細め、真一は口ごもる。
「キャラじゃないですよ」
しかし、真言は正直に感想を述べる。
「いい度胸してんじゃないの。食事が終わったら、腹ごなしにアンタの成長も見てあげましょうか?」
「私は戦闘要員じゃないんで、結構です」
カレンと真言が笑顔で睨み合う。
真一は巻き込まれないようにこっそりと二人から距離を取り、梓はせっせと焼けた肉の世話をし、何故か龍二がエプロンを付けて足りない具材の下ごしらえをしている。
たった二週間の事だが、離れていたこの場を懐かしく感じ、御幸はそんな自分に苦笑する。
自分たちは鬼と戦う事を選んだ集団で、決して平和的な集まりでは無い。
査問会は何事も無く終わったが、未だに自分は次期当主のままだし、妹の由紀は自分こそが次期当主に相応しいと公式に宣言した。
真言の友人は眠り病で入院したままで、対象が担当地区から出てしまった為、自分たちの手からは離れたが幽鬼はまだ討伐されていない。
不穏の種は幾らでもあるが、出来ればいつまでもこの仲間と笑い合えればいい。
御幸はそんな風に思い、老け込んだ思考をしている自分に気付き、苦笑を深くする。
だが、それが正直な気持ちだった。
願わくば、この平和な光景が、いつまでも続きますように。




