立華カレン(1) 面倒事
今回から三話、カレンを主人公にした番外編が続きます。
本編には全く影響のない話です。
三日間だけお付き合いください。
「アタシはやんないって言ったでしょ! しつこいのよ!」
アタシはしつこくかかって来た電話に出ると、こっちの要求だけを叩きつけて切った。
「フン」
スマホの画面に表示されている電話番号を着信拒否に設定しておく。
これでここ最近、うるさかったスマホも静かになるわね。
足元に座ってアタシを見上げてくるロボをわしわしと撫でまわすと、苛立ちが嘘のように消えていく。
「なあ、さっきの電話なんだったんだ?」
少し離れた所でさっきまでゼィハァいっていたヤツが、もうけろっとした顔をして聞いてくる。
本当にコイツの体はどうなっているんだか。
現在、アタシはホームの前にある運動公園で、新しくチームに入った高坂真一をシゴいている最中なのだ。
「別に大した事じゃ無いわよ。最近しつこく電話してくるバカがいるから、ぶった切って着信拒否にしただけよ」
「ふーん、それってストーカーか何かか?」
「は?」
ストーカー?
コイツは何を言っているんだか。
「いや、お前って見た目は良いから、そういうヤツが居てもおかしく無いかなって」
「アタシがストーカーするような根暗なヤツに構うわけないでしょ。もし、そんなヤツが居たら、速攻ロボの餌食にしてやるわよ。電話なんて取ってやるもんですか」
「ですよね〜」
全く、コイツは何を言ってるんだか。
◇◇◇
「カレン、時任さんから電話があったわよ」
夕食を終え、お茶の時間になると御幸の口から聞きたくないヤツの名前が出た。
「大分困ってたみたいだけど、協力してあげなくていいの? 時任さんにはお世話になったでしょ?」
御幸はお世話になったって言うけど、あれはきちんと契約に則ったギブアンドテイクよ。こっちが一方的に助けてもらった訳じゃない。あっちだって相応の利益を得ているんだから、こっちが恩を感じる必要なんてないのよ。
「時任さん? さっき問答無用で電話ぶった切った相手か?」
真一が余計なことを言う。
「多分そうよ。カレン、貴方着信拒否してるそうじゃない。話くらい聞いてあげなさいよ」
御幸からため息まじりに説教じみた事を言われてしまった。
本当に余計な事を言うヤツだわ。
「誰なんですか? 時任さんって」
また余計な事を聞くヤツがいる。
コイツも最近チームに入ったばかりのヤツで、夕凪真言。
こんな話広げる必要無いってのに。
「時任さんは、モデルとしてのカレンがお世話になってる雑誌の編集部の人よ」
「元よ、元。アタシはもうモデルなんてやる気無いんだから」
御幸は勘違いしてるけど、アタシはもうモデルなんてやる気は無い。あれは必要だったからやってた事で、そうじやなきゃあんな面倒臭い事、好き好んでやるはずが無い。
「えぇ? カレンってモデルだったんですか? 確かにルックスはいいけど、この性格で働けたんですか?」
「アンタ、言ってくれるじゃない……」
アタシの足元に伏せていたロボが立ち上がり、軽く唸り声を上げる。
「いや、だって、お前って人の話聞かないし、我が道を行くって感じだし、他人の視線なんて気にも止めてないし」
「言いたい事はそれだけ?」
ロボが唸ったのは冗談だったけど、すこし本気でお仕置きしてやろうかしら?
「真言さんは驚かないのですね」
真一と違って特に反応を見せなかった真言に、梓さんが気付いた。
「うん、……カレンさんはここらでは結構有名だから」
「ああ、やっぱり?」
「ええ」
真一と初めて公園で接触した時、御幸はアタシが有名だとか言っていたものね。自分の認識が正しかった裏付けが取れて嬉しそうね。
一方、御幸に答える真言は嫌そうな顔をしていた。
その表情はどういう意味よ。
真一と一緒にお仕置きして欲しいの?
「私は学校が別でしたし、カレンさんの載ってる雑誌は買わないので顔は知りませんでしたけど、名前は知ってましたから。近くの中学に雑誌の表紙になるようなモデルやってる人が居るって、有名でしたよ」
だから、その目は何なのよ。
「で、元ならなんで編集部の人が連絡してくるんだ? もう辞めたんだろ?」
「知らないわよ。もう契約も切れてるし、アイツが何を困ってようと知った事じゃないわよ」
モデルなんて勝手に本家を飛び出した所為で生活費が必要になり、それを稼ぐ為にやってただけで、本家から正式に許可が出て部屋も生活費もチームでの働きで賄えるようになった今ではやる必要のない仕事だわ。
「カレンが載ってた雑誌が創刊二十周年を記念して、特別号を出すそうなんだけど、その中の企画で有名なカメラマンがその雑誌の専属モデルを撮る企画があるらしいのよ。で、そのカメラマンはカレンも撮れると思って引き受けたのに、カレンが居ないからヘソを曲げて、撮影がストップしているらしいの」
御幸は時任から事情を聞いていたみたいで、しなくてもいいのに二人に説明してやってる。
「それでカレンに来てもらって、そのカメラマンのご機嫌を取ろうってわけですか」
「アタシには関係ない話でしょ?」
「まあ、確かに契約が切れてるなら関係ないっちゃーない話だな」
そうよ。その写真家だか何だかと揉めてるのはあっちの都合で、アタシがその尻拭いをしてやらなきゃいけない理由なんて無いのよ。
「だが、世話になった相手が困っているんだ。少しくらい助けてやってもいいんじゃないのか?」
「はあ?」
龍二が訳のわからない事を言い出す。
「契約は切れているかもしれんが、知らない相手じゃ無い。困っているなら多少の手助けくらい、してやってもいいんじゃないのか?」
「何訳わかんない事言ってんのよ。アタシはやらないわよ」
「でも、カレン、貴方がモデルの仕事に就けたのは時任さんがサポートしてくれたおかげでしょ? 一度くらい助けてあげてもいいんじゃないの?」
「そうですよ。ちょっと薄情じゃないですか?」
「まぁ、理屈の上では無関係な話だとは思うけど、人間関係はそれだけじゃないしな」
「はい、人と人との縁は大切にするべきでしょう」
何故か私が悪いみたいな話になってるけど、おかしくない?
理屈の上では無関係って、どこからどう見ても無関係以外の何物でもないわよ。
「実はそのカメラマンと契約の内容で話をしたのが時任さんだったらしいの。被写体については『専属モデル』としか言っていなかったし、カメラマンの方も特にカレンを撮れるかどうかなんて確認してこなかったから、騙したわけじゃ無いらしいんだけど、今回の企画は特別号のトップだったらしくて、失敗したら時任さん、かなり肩身の狭い思いをする事になるかもしれないらしいわ」
「うわー、それって左遷とかですか?」
「いや、相手は有名カメラマンでしょ? だったら、詰め腹を切らされてクビなんて事も……」
「有りうるな」
「はい、業界ではそういった事がまかり通るようですし」
全員の視線が私に向く。
「何よ」
言いたい事は分かってるわよ。
「「「「「やってあげたら?」」」」」




