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真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第二章 決意
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2-14 作り替えられる身体

 豊野市の郊外、市営運動公園の前に立つ六階建てのマンション。その最上階に御幸をリーダーとした越境者チームの拠点がある。


 このマンションは一階から五階までは各階一部屋六十平方メートル強、3LDKの居室が六部屋入っているが、六階部分はその半分をペントハウスの居室、残り半分をペントハウス専有のベランダが占めている。

 広いベランダでは、梓の手によって見事な家庭菜園が作り上げられており、ホームでの食事に使う野菜の一部はここから採取されている。

 

 ちなみに、一般の入居者は四階部分までしか入っておらず、五、六階にある部屋は全て櫻澤(おうさわ)本家が所有しており、五階にあるカレン、龍二の部屋も櫻澤本家に住まわせてもらっているだけだ。


 マンションの前にある市営運動公園は広大で、テニスコート、プール、小さなグラウンド、武道場等が入っている。

 グラウンドは何の設備も無い代わりに、使用料がかからず、土日などは近所のジュニアサッカーチームが練習に使っているらしい。


 そのグラウンドの一角で、地面に大の字になって空を仰ぐ青年が居た。


「真一。お前は打撃に対する反応はいいが、関節や投げに対する備えが未熟過ぎる。屍鬼(しき)は打撃より組み付いて来る方が圧倒的に多い。今のままでは囲まれたら終わりだぞ」


 龍二は地面に寝転がる真一を見下ろし、組手の出来について評価を下す。


「そんな事、言われても、こっちは武道なんて(かじ)った事もないんですよ? そんな短期間で上達しませんって」

「だが、鬼の襲撃は突然だぞ? こちらの準備が整うまで待ってくれはしない。その時になって、そんな弱音を吐くのか?」

「そうは言いませんけど、もっとこう、手っ取り早く武器の扱いを学ぶとか……」

「武道の基本は身体(しんたい)の操作だ。はじめから武器ありきで考えるな。体の扱いを極めろ。そうすれば、そこにある物、全てがお前の武器になる」


 実際、龍二は空手や柔術も出来るが、同時に剣道、弓道、薙刀でも段を持っている武道のスペシャリストだ。

 そんな達人の言葉は説得力が違った。


「大体、この平和な日本で、武器を携行出来るはずがないだろう」

「おっしゃる通りですね」


 真一はため息を吐くと、地面に横たえていた身体を起こす。

 少し肩と背中が痛むが、動けない程では無い。


「しかし、お前の治癒は凄まじいな」


 龍二は身を起こした真一の手を取り、起きるのを手伝ってやる。


 さっきまで真一が地面に寝転がっていたのは、別に休憩していたからでは無い。

 龍二に投げ飛ばされ、地面に転がっていたのだ。


「そうは言いますけど、痛いものは痛いんですよ。それに、体を鍛えている時と違って、組手の傷は治りが早くなったりはしませんから、そこまでのものじゃないですよ」


 真夜(しんや)を越える事で手に入れた治癒の力によって、真一は基礎訓練を驚異的な速度と効率で(こな)した。超常の超回復はその日の訓練をすぐに肉体へ結果として反映させ、真一の肉体は見た目はそのままに、戦える体に作り替わっていた。


「それはな、お前は気づいていないようだが、日毎に手加減を緩めているんだ」

「は?」

「だから、初日にやった手加減では、お前に大した傷を負わせられないので、打撃や関節は徐々に()める力を増し、投げは角度や手を離すタイミングを変えていっている。だから、いつまで経っても傷を負うんだ」

「え? そ、そうだったんですか?」


 突然の告白に、真一は驚きで目を見開いた。


「組手を俺に任せる際、カレンから、手加減は真一が死ない程度の怪我を負うくらいにするように、と言われていてな」

「げっ! 死なない程度って……」

「安心しろ。そこまで過激にはしていない。実際、まだ骨は折れていないだろう?」

「骨って! 骨折なんてしたら、すぐには治りませんよ! ……たぶん」


 自分の体の事だが、喉を食い破られても治癒したのだ。ひょっとしたら骨折くらいすぐに治るかもしれない。そう思った真一は自信なさげに、言葉を濁す。


 実際、真一は覚えていない事だが、教室棟四階廊下で大量の屍鬼の下敷きになった際、全身の骨をバキバキに折られ続きけても無事どころか、最終的には無傷な状態になっていた。

 カレンはそんな真一を確認していた為、骨折程度は問題にならないと判断したのだが、真一はそんな事は分からない。


 自らの心配が手遅れである事を知らない真一は、無駄に不安を抱えてしまった。


 だが、それまでの発言とはレベルの違う爆弾発言を龍二がして、真一の苦悩は軽く吹き飛ばされる。


「実はな、初めは腕を折ってみるつもりだった」

「何ですって!」


 チームの中で、御幸と並んで常識人だと思っていた龍二の発言に、真一は驚きを隠せない。何か裏切られた気持ちだ。


 ちなみに、チーム内の非常識筆頭は当然、カレンだ。あれは絶対に産まれて来る時代と性別を間違えている、と真一は思っていた。本人には絶対言えないが。

 あと、梓も見た目は出来る秘書のようなのに、無表情のまま、とんでもない事を言う事がある。本人は冗談だと言っているが、表情が無いので、本気にしか見えない。


「まあ、そうしろとお前の指導者に言われていたからな」

「そんな……」


 真一は情けない声を上げる。

 チームの非常識筆頭の指示に簡単に従わないでもらいたい。


「だが、折れなかった」

「本当に折ろうとはしたんですね……。って、結城先輩のパワーで折れなかったって事ですか?」


 龍二は体格に見合ったパワーをしていて、別に関節など極めなくても、普通に突きや蹴りで骨を砕く事が出来る。

 その龍二が折れない骨とは一体。

 真一は自分の体が本気で心配になって来た。

 が―――


「ああ、勿論手加減はした」

「ですよね」


 続いた龍二の発言でホッとする。


「本気で折ろうとすれば折れない事も無い」

「折らないでください。今後も」

「しかし、本気で折りにいった場合、腕が繋がっている保証が無かったので止めておいた。許容範囲は骨折までだったからな。四肢を欠損して生えてくるかは分からんからな」


 一瞬何を言っているのか分からなくて、真一はポカンとして固まった。


 龍二は真一の骨を折ろうと試みた。しかし、予想以上に固くて手加減していては折れそうも無い。だったら、本気を出せばいいじゃない。でも、そしたら骨と一緒に肉が切れちゃうんだよ。って事?


「なっ! んな事されて堪りますか! もしも、生えてくるとしても、止めて下さいよ! それに、ちぎれた腕とかどうするんですか? 事件になりますよ! 事件!」


 制服を血で染めていただけで、あの騒ぎだったのだ。

 これで人の腕なんて持っていたら、学校で避けられるくらいの規模の騒ぎじゃ済まない。


「ああ、それは考えていなかったな。そういった事は真夜でしかやった事が無いから、処理に困る事は無かったからな」


 真一は自分の血の気が引く音を聞いた。


 チームに常識人は御幸だけだった。

 いや、この分だと、御幸もひょっとしたら……。




◇◇◇




 心の冷えるやり取りの後、もう一本組手をしてから、真一と龍二は夕食の為に一旦ホームへ引き上げる事にした。


「あれ?」


 六階までエレベーターで昇り、玄関の扉を開けるとリビングから光が漏れているのが見えた。

 足元には女性もののスニーカーがある。


「真言ちゃん? 暫く休むって言ってませんでした?」

「ああ、昨日の夜にそう連絡があったんだがな。何かあったのか?」


 真一が龍二に確認すると、龍二も知らなかったようで、首を捻っている。


「まあ、いい。本人に聞けばわかる事だ」

「それもそうですね」


 二人は玄関で靴を脱ぎ、リビングへと向かった。


「お疲れ様」

「お疲れ」


 挨拶と共にリビングに入ると、そこにはダイニングテーブルに三人分の食事を並べる真言の姿があった。


「あ、お疲れ様です。食事は出来てますから、手を洗って来てください」

「ありがとう。でも、どうしたの? 結城先輩からは暫く休むって聞いてたんだけど」

「あ、はい。その事も含めて、話があって来ました」


 真一の質問に、真言は少し答えにくそうに目を逸らす。


「まあ、いいじゃないか。折角、美味い飯を用意してくれたんだ。冷めてしまっては勿体ない。今は取りあえず食事にしよう」

「あ、はい」


 龍二は真言の様子に何かを感じたようで、真一を連れて洗面所へ向かう。


 真言はそんな二人の背中をホッとした顔で見送ると、残りの配膳を手早く済ませた。

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