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真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第二章 決意
28/94

2-10 訃報

昨日、予約投稿に失敗して上げられなかった2-9が23時に投稿されています。

そちらをまだお読みいただいていない方は、どうぞそちらを先にお読みください。

 真一が真言との関係について、とんでもない選択をしたデートが終わり、二人は五時前にホームへとたどり着いた。


 御幸達三人が櫻澤本家へ向かって、もう四日が過ぎた。

 ここ四日、真言と真一はカレンと梓が用意した訓練メニューを龍二の監督の元で(こな)していた。

 龍二は一々細かな指示は出さないが、質問した事にはきちんと答えてくれるし、悪い点は丁寧に指摘してくれるので、二人は順調にメニューを消化している。


 真一は相変わらず基礎体力の向上を図る訓練が中心だが、夕食後に龍二との組み手が加えられた。三人が本家から帰って来たら、その成果をカレンが直々に見ると言っていたので、真一は必死でこれに取り組んだ。


 そして、真言はホームの家事一切と、これまでに習った鬼との戦闘に関する知識を試される梓お手製の問題集が課題として与えられていた。


「掃除とお洗濯はこれで良し! 後は夕ご飯の準備だけ。先輩の訓練は怪我が付き物だから、回復の助けになるような美味しいものをいっぱい食べて貰って、元気になって貰うぞー!」


 御幸達三人が居ないので、ホームを利用する人数は半分に減り、人が居る時間は更に半減している。

 その為、梓がやってくれていた分を加えても家事全体の負担は随分と軽くなっており、真言はその分を用意された問題集では無く、真一に対するアピールを含んだ料理に注力していた。

 勿論、問題集は問題集で毎日のノルマをきちんと(こな)した上での話だ。

 真言の一番は真一だが、自分を可愛がってくれる梓の事も大好きなのだ。

 だから、梓を裏切るような真似はしない。


「先輩はいっぱい食べてくれるから、作り甲斐があるな~」


 先日、龍二から栄養面について指摘があったので、その点も留意してメニューを考えるのは大変だが、夫の体を気遣う新妻気分が味わえて真言は不満に思っていない。


「量を食べる分、油の取り過ぎには注意が必要だから、今日は水抜きした豆腐を加えたハンバーグをメインにして、ホウレン草たっぷりのソテーを合わせてっと」


 好きな物ばかりではダメだが、必ず一品は好物を作る事に決めている。今日はメインのハンバーグが真一の好物という事で、真言は気合を入れて調理に取り掛かる。


「ハンバーグやグラタンが好物なんて、先輩は子供っぽいな~。フフフ」


 キッチンには上機嫌な真言の鼻歌と、リズミカルな調理の音が響く。


 中学に上がってからずっと家の事をやって来た真言の手際は本職である梓が認める程で、メイン、添え物、スープと同時進行で進められる調理に淀みは無く、狙った通り完成時間目前で玄関の扉が開かれる。


「お疲れ様~」

「お疲れ」


 訓練から戻った真一と龍二がキッチンを覗きこんで真言に声をかける。


「あ、お帰りなさい。もう出来ますから、手を洗って席で待っててください」

「いつもありがとね」

「すまんな。よろしく頼む」

「いえいえ」


 二人は真言に礼を言うと、洗面所へと去って行った。


「お帰りなさい、だって。本当に新婚みたい」


 思わずにやけてしまう頬を押さえ、真言は出来上がった料理を手早く盛り付けると、ダイニングテーブルへと運ぶ。


 毎日好きな人と顔を合わせて、自分の作った料理をいっぱい食べさせて、美味しいと言って貰う。

 今日は真一とデートを楽しみ、目標だった食事のシェアと手を繋ぐまで行った。

 単純なもので、それだけで真言は数日前まで悩んでいた事などすっかり忘れ、チームに入ってよかった、と思えてしまうのだった。




◇◇◇




 夜九時を過ぎ、真言は真一と一緒にホームを出る。

 真一の住むアパートと真言の家はホームから向かうと若干方向がズレるが、夜も遅いという事で、真一は毎日真言を家まで送ってくれる。


 最初、御幸からは三人が居ない間、真言についてはホームでの活動を夜七時までにするように言われた。梓の用意したメニューが問題集だったのは、自宅でも出来る内容を考えてくれたのだ。

 しかし、真言は自身に配慮してなされたこの提案を拒否した。


 七時に終わってしまったら真一に家まで送って貰えないからだ。


 この時間は真言にとって真一と二人っきりになれる最高の時なのだ。

 今は御幸達が居ないので、偶に龍二が一緒になる時以外は豊ヶ原高校からホームに行くのも二人きりなのだが、夜道を送って貰うというシチュエーションは別格だ。


「先輩、今日も訓練お疲れ様でした」

「真言ちゃんも美味しいご飯をありがとうね。訓練で疲れても真言ちゃんのご飯を美味しく食べれるから辛く感じないし、感謝してるよ」

「え~、本当ですか?」

「ホントホント。今日のハンバーグなんて、たくさん食べても重くなかったし、すごく美味しかったよ」

「やった! そう言って貰えると、作り甲斐があります!」


 真一はいつも真言に感謝の言葉を忘れない。

 料理についても、ただ美味しいと言うだけでなく、必ず何の何処がよかったか言ってくれる。

 まあ、大抵は今のように好物を褒めるのだが、偶にそれ以外の料理を褒められると真言はしてやったり、と思って最高の気分になれる。


 それに、今日のデートの途中から、真一は今まで以上に優しくなったように、真言は感じていた。

 その理由を知れば、真言は失望して怒り出すだろうが、幸いな事に真言がそれを知る事は無かった。


「先輩、今日の組手はどうだったんですか?」

「まだまだ結城先輩には敵わないよ。今日もいいようにポンポン投げ飛ばされて終わり。これで打撃や関節が解禁になったらどうなる事やら……」

「いやいや、まだ三日目ですよ? 結城先輩とはキャリアが違うんですから、簡単にいかないのは当たり前ですよ」


 ため息を吐く真一に、真言は重くならないようにさらっと言う。


 スポーツ少女である恕と長く付き合っている真言は、こういった時、下手に元気づけようとするより、現状上手くいかないのが当たり前の事だと、本当に当然のように言うのに慣れていた。

 拗らせて袋小路に入ってしまう前の前向きな気持ちが残っているなら、大抵はこれで大丈夫なはずだ。


「まあ、そうなんだけど」


 下を向く真一に、真言はもうひと押ししてやる。


「そ・れ・に、結城さん、言ってましたよ。先輩の動きが日に日に良くなってて教え甲斐があるって」

「ホント?」

「本当ですよ。今日、先輩が着替えに行ってる時に言ってましたから」


 これは本当の事。

 こういった場合に備え、真言が誘導して言質を取った感は若干あったが、間違いなく龍二はそう言っていた。


「そっか……。結城先輩がそう言うなら……」


 真一は固めた拳を見つめ、噛みしめる様に呟く。


 真言は真一の様子を見て、小さくガッツポーズを取る。

 今度こそ、真一のモチベーションを上げられたようだ。


(ああ、部活の先輩を巧みに励ますマネージャーポジションみたいで良い!)


 こうして何気ない会話の中で小さくポイントを稼いでいくのが真言の作戦だった。

 理想を言えば、そのまま真一の方から真言に告白するように仕向けられれば最高だ。


 数々の恋愛物の漫画、小説、アニメを楽しんできた真言の持論は『恋愛は告白した方が不利』というものだ。

 昔から『惚れた弱み』などと言うように、恋愛において告白した方はされた方より立場が弱い。なぜなら、告白された方は相手が自分を好きだという絶対の自信を持てるが、した方にそれは無い。たとえ両想いだったとしても、告白した方は相手がアクションを起こすレベルに気持ちが昂るより先にそこに到達していて、想いの強弱で言えば告白した方が強で、された方が弱と言えるだろう。

 だから、告白した方がより相手を失いたくないと思っている事になり、それを本人も自覚するものだから、ついつい相手に譲ってしまう事になる。


 真言はそうはなりたくは無かった。


 こう言うと真言が真一を振り回しているように思えるが、そうでは無い。

 ただ、真一の事が好きだから、絶対に失いたく無くて、それには恋愛で真一より強い立場でなければならないと考えているだけだ。


 今日のデートに関しては、誘う段階から最後まで真言から要求して、真一がそれに応える形になってしまっていた。ここからは露骨なアピールを控えめにして、バランスを取る必要がある。


 この持論はフィクションを参考にしただけの頭でっかちなものだし、相手に告白させようとする理由は恋愛未経験の臆病さから出た極端な考えだが、十五歳の理由の無い万能感で、真言は自分の考えを妄信していた。


「そうですよ。結城さんのお墨付きですから、御幸さん達が帰って来る頃にはもっと強くなって、カレンさんとの組手で一本くらい取れるようになってるかもですよ!」


 調子に乗った真言がそんな事を言うと、真一は露骨に顔を顰めて嫌そうな表情を作る。


「? どうしたんですか?」

「いや、結城先輩は本気で俺にカレンから一本取らせる気なんだよ。だから、毎日容赦なくボコボコにされて、大変なんだ」


 そう言って真一が撫でる頬は少し腫れているようにも見える。

 この腫れも、明日にはキレイに治っているはずだ。越境者というのは本当に凄い、と真言は思った。


 しかし、本当に嫌そうに言う真一の姿は情けない。

 ただ、好きな相手だと、それが可愛く思えてしまうから不思議だ。


「あはははっ、先輩なら大丈夫ですよ。頑張ってください」


 真言はそんな真一を見て笑い、無責任に励ます。


 真一と一緒だと、こんな何でもない会話も楽しい。


 終始上機嫌で、(はしゃ)ぐ真言とそれに振り回される真一。

 二人の騒がしくも楽しい空気は、真言のバッグからスマホのバイブ音が響き、終わりを告げた。


「あ、電話だ。誰からだろう? ……京子ちゃんだ」

「友達?」

「はい、中学の友達です。ちょっと、すみません」


 真言は真一に一言断るって、通話ボタンをタップする。


「もしもし、京子ちゃん?」

「真言! 貴方、今何処にいるの? 恕のお母さんが家に電話しても居なかったって!」


 電話がつながった途端、スピーカーが割れないか心配になる大声で、京子が捲し立てて来た。


「え? 料理サークルからの帰りだけど……。京子ちゃん、どうしたの?」


 滅多に聞かない京子の大声と、突然出て来た恕の母親の話に、真言は戸惑いつつも答えた。


「恕が、恕が……」

「ゆ、恕ちゃんが、どうしたの……?」


 電話の向こうで京子が泣いている事に気づいた真言は、嫌な予感で震えた。


 真一も尋常でない電話の声と、真言の様子に足を止め、心配そうに見ている。


 そして、京子は真言が想像もしない最悪を告げた。


「恕が、眠り病で倒れたのよ!」

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