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真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第二章 決意
27/94

2-9 デート(3)

予約投稿の失敗で、昨日上げられなかった分です。

2-10が投稿されますので、そちらもよろしくお願いします。

 真言は浮かれていた。

 真一とのデートは、真一が学校で孤立しており、いつも休日の予定が空いていると知ってから、ずっと計画していた事だった。誘う時の言葉も、どこで何をするのかもしっかり考え、妄想という名のイメージトレーニングも入念に行った。


 誘う時はテンパってしまい、予定とは全く違う言葉を発して、涙まで流してしまった時の事を思い出すと、死にたくなるほど恥ずかしい。

 デート当日は用意していた服を一度は着てみたものの、やっぱりしっくりこなくて、あれこれしている内に遅刻してしまった。真一は間に合ったと言ってくれたが、真言の予定では真一より先に待ち合わせの場所にいて、お決まりの


「ごめん。待った?」

「ううん、全然」


 をやる予定だったのだから、真言の中では大失敗だ。


 だが、ランチは最高だった。

 目標の一つである食事のシェアも果たしたし、真一も真言はおススメのマルガリータを大絶賛し、テンションが上がって会話も弾んだ。


 そして、現在は真一の選んだデートスポットであるアミューズメント施設で遊んでいる。

 この施設は一階が普通のゲームセンター、二階がカジノ風のコインゲームフロア、三、四、五階が体感型アトラクションのフロアになっていて、若者に大人気の施設だ。


 休日ということもあり、施設内はいつも以上に混み合っていた。


「先輩!次がラスボスですよ!」


 真言はトロッコ風のカーゴに取り付けられた銃座に陣取り、洞窟の中を走る線路の先から現れた怪物に狙いを定める。


「俺が手足を狙うから、真言ちゃんは本体をやって!」

「はい!」


 真言の隣では真一が同じように銃座に取り付き、こちらに伸ばされる、何本もある怪物の手に向かって発砲を続ける。


 二人の頭にはヘッドセットが取り付けられており、怪物や洞窟の風景はVRだ。作り物だとわかっていても、カーゴの振動とヘッドセットから流れる音と風景は臨場感たっぷりで、敵の攻撃に反射的に体が動いてしまうほどだ。


 こういった施設がある事は以前から知っていたが、真言の友達グループが来るような場所では無いため、今日が初めての利用となる。


 施設は思ったより女性客も多く、真言も十分楽しめる場所だった。


 特に、体験型アトラクションは待ち時間があるのが玉に瑕だが、どれも臨場感たっぷりで、今やっているアトラクションでもう三種類も遊んでいる。


「よし、あと少しで削り切るぞ!一気に畳み掛けるよ!」

「はい!」


 真一の号令で、二人はタイミングを合わせて外殻が剥がれて露出した弱点めがけて集中砲火を浴びせた。




「ああ、楽しかった。でも、最後の敵に手間取らなければ、もっと上位を狙えましたよね!」


 あの後、弱点を突いて敵を倒したまでは良かったのだが、実はその敵は第三形態まであり、倒したと思って一度気が抜けてしまったのを立て直すのに手間取り、かなりタイムロスしてしまった。


「次は何をやりますか?」


 真言は施設の入り口にあったパンフレットを広げ、体感型アトラクションの一覧を見ながら真一に意見を求める。


 (はしゃ)ぐ真言を見て、真一は苦笑しつつ、待ち受け画面を表示するスマホの画面を示す。


「残念。そろそろ出ないと訓練に間に合わなくなっちゃうから、今ので最後だよ」


 画面に表示された時刻は四時を回っており、五時までにホームに着くためにはそろそろ施設を出なければならない時間だった。


「えぇ~」

「また今度、ね」

「え? また付き合ってくれるんですか?」

「うん、俺も楽しかったし、また今度来よう」

「はい! じゃあ、今日はここまでにしておきます」


 真一の口から次の話が出た事で、眉をㇵの字にしていた真言の機嫌は簡単に持ち直す。

 

上機嫌の真言は真一と共にフロアを後にし、エレベーターホールへと向かった。


 真言は真一の横に立つと、下のボタンを押し、エレベーターを待つ間、階数表示を見上げる真一の横顔を窺う。そのまま視線を下に下げて真一の左手を眺める。


 今日は以前からの目標だった食事のシェアを達成した。

 ここはもう一歩踏み込んでもいいのではないだろうか。


 そう、真言は真一と、腕を組む、若しくは手を握りたいのだ。


 ランチを取った店に向かう途中にそうしたかったが、勇気が足りず、出来なかった。だが、今日一日を楽しく過ごし、次の約束まで取り付けた今なら可能ではないだろうか。


 エレベーターが到着して、乗り込み、一階に降りる。


 真言の心臓は早鐘のように鳴り、興奮と緊張で頭が痛くなってくる。


 真一の一歩後ろを歩き、施設を出た。


 このまま行けばすぐに駅に着いてしまう。

 言うなら今しかない!


「あ、あの!」

「うおっ!」


 テンパって、思った以上に大きな声が出てしまい、真言は自分の声に怯む。

 真一も突然後ろで大声を出した真言に驚き、びっくり顔で振り返った。


「何? どうしたの?」


 顔を赤くして俯く真言に真一が尋ねる。


「あ、あの……」

「うん?」

「―――を、―――で、も、いいですか?」

「え?」


 緊張で掠れた声が聞き取れなかった真一は、上半身を傾ける様にして、真言に近づけながら、聞き返す。


「あの!」

「うん」


 バッと顔を上げた真言の必死な目と、真一の目が真正面からぶつかった。


「手を、繋いでも、いいですか?」


 蚊の鳴くような、震える声しか出なかった。


 イメージトレーニングではもっと上手く出来ているのに、情けない。

 それでも真言は真一の目から視線を逸らさなかった。


 真言の言葉に、真一は驚いた顔をした後、一瞬だけ眉尻を下げたように見えたが、すぐに優しく笑う。


「うん、いいよ」

「へ?」


 あっさりした返事に、お願いした方の真言が驚いてしまう。


「はい」


 左手を差し出す真一に、呆然としていた真言は恐る恐る右手を伸ばす。

 躊躇い貸しに伸ばされた真言の手を、私市はあっさり取り、軽く握る。


 緊張で冷たくなった手に、じわりと伝わって来る真一の体温が真言に現実感をもたらす。


 爆発するように広がる喜びと、それ以上に膨れる気恥ずかしさで真言は顔だけでなく、耳までリンゴのように真っ赤に染めた。

 確かめる様に真一の手を握り返すと、自分の手がじっとり濡れている事がわかり、焦ったが、今更その手を離す事はしたくない。


「じゃあ、行こうか?」


 きっと真一も真言の手が湿っている事は感じているはずなのに、何の反応も示さないまま、軽く手を引いて、真言を促す。


「……はい」


 真言は小さな声で返事をして、真一に手を引かれるまま、駅へ向かって歩き出した。


 誰かと手を繋いで歩くなってずいぶんと久しぶりで、意外に歩き難い事にはすぐ気が付いた。

 そして、真一がそんな真言を気遣って歩調を緩めてくれている事も解った。


 もしかして、真一はこうして誰かと手を繋いで歩くのに慣れているのではないだろうか?

 だから、こんな気遣いが出来るし、真言の望みにあっさり応えてくれたのではないだろうか?


 そんな事を考えて、真言は不安になってしまう。


「先輩……」

「何?」


 つい、呼びかけてしまった。


「何でもないです」

「そう?」


 何と言って聞いていいか分からず、真言はそう言うしかなかった。真一も不思議そうな顔をしただけで、それ以上は何も言ってこない。


 そんな落ち着いた様子が真言を更に不安にさせる。

 真言は緊張でいっぱいいっぱいなのに、真一はいつもと全く変わらない。


 折角、勇気を出して手を繋いだのに、達成感も何も無い。

 ここではっきりさせておかなければ、何時までも思い悩む事になってしまうだろう。


「先輩」


 真言はやっぱり思い切って聞く事にした。


「ひょっとして、手を繋ぐの、慣れてませんか?」

「……え?」


 真言の質問に、真一は心底驚いた顔をして、足まで止まった。


(やっぱり……)


 真言は心が急速に冷えて行くのを感じた。


「そんな事、解っちゃうんだ」


 真一は空いている右手で頭を掻きつつ、苦笑して見せる。

 それを見て、真一と繋がる手から徐々に力が抜けていく。


 真言の手が真一の手の中から、するりと抜けるその前に、真一が言葉を続けた。


「妹が、さ、癖だったんだよ。手を繋いだり、腕を組んだりするのが」

「え?」


 真言は危うく離しかけた手に力を入れ、真一の手を掴み直す。


 それに気づいた真一はちらりと繋がったままのそれを見て、握り返してから軽く引き、止めていた足を動かした。


「あ、」


 真言は手を引かれるまま、真一について歩く。


 真っすぐ前を見て歩く真一の顔を見上げると、真一は懐かしそうに目を細めて語る。


「俺に妹が居た事は知ってるよね?」

「……はい」


 それはチームに入ってすぐに、真一が戦いを選んだ理由を話す中で聞いた。


 真一の家族を襲った、唐突で理不尽な死。もし、それに抵抗する力があるのなら、それで誰かの大切を救えるのなら、家族の代わりに救いたい。それが真一が戦う理由。だから、真一は目の前の誰かを見捨てない。だから、真言も救われた。


 命懸けの戦いに身を投じる理由になるくらい大切だった家族の一人。きっと仲の良い兄妹だったのだろうと思っていた。


「妹はさ、男嫌いだったんだけど、恋愛とかには憧れてたみたいでさ。兄である俺で疑似的にそういう気分を味わいたかったんだと思うけど、一緒に出掛けるとよく手を繋ぎたがったんだ。それで、慣れてるんだと思うよ」

「妹さん以外の人とは……」


 一応、聞いてみる。


「無い無い! した事無いよ。こんな事」


 真一は真言と繋いだ手を軽く持ち上げて見せる。


「そう、でしたか」

「うん」


 相手は妹だった。

 やっぱり聞いて良かった。真言は胸の(つか)えが取れ、表情を緩めた。


 真一はそんな真言を見て小さく笑った後、前を向いたが、その目は少し遠くを見ているようだった。

 

 その後は大した会話も無く、ゆっくりとした歩調で二人は駅に向かった。

 

 駅に到着すると、まずコインロッカーで真一の訓練用の着替えが詰まったスポーツバックを取り出し、ロータリーのバス停を目指した。

 帰宅するにはまだ早い時間だったので、バスを待つ人の数はまばらで、これなら座る席に不自由しないだろう。


 遊び疲れた二人は、ほっとした表情をしたが、お互いにそれに気づいて小さく笑い合う。


「流石にちょっと疲れましたから、座れそうで安心しました」

「俺も」


 そんな事でも、意見が合うだけで嬉しい。


 今日のデートは最初こそバタバタしてしまったが、ランチ以降は最高の時間だった。

 終わり良ければ全て良し! 真言は真一と繋がったままの手を見て、絞まりのない顔で笑う。


「お、バスが来たみたいだよ」


 真言が一人、にやにやしていると、ロータリーに入って来るバスを見て、真一が声をかけて来る。


「あ、はい」


 真言は油断した表情を真一に見られないように、慌てて改めて返事をする。


 真一と同じようにロータリーを大きく回ってバス停へ向かって来るバスに気付いた人達の中で、真言たちと同じバスを待っていた数人が幾つも並ぶバス停の一つに向かって歩き出し、すぐに列を作り出す。

 真言は真一と一緒にその列に加わると、後部ドアを開くバスに乗り込んだ。




◇◇◇




 真一はバスに揺られながら、隣に座る真言をそっと窺う。

 真言は窓の外を眺めているが、手は未だに繋がったままで、そこに意識が集中しているのは、ずっと赤いままの耳を見ればわかる。


 真一は心の中だけでため息を吐く。


 今日のデートで真言からの好意を確信したが、それを理解したのは、真一は自らが真言をどう扱うべきか答えを出した後だった。


 真言と出会ったのは二度目の真夜の中だった。

 御幸からの忠告を無視して真言を助けたのは、その大きな瞳に妹を思い出したからだった。そして、妹の面影を見た真言を助けた事によって戦いに身を投じる覚悟を決めた。


 今日、真言を女の子として意識する自分に後ろめたさを感じたのは、そんな風に妹の面影を重ねた相手にそういった感情を持つ事以上に、おそらく真言から好意を持たれる原因となった真一の行動が、他の相手に向けた感情によって起こされた行為によるものだと気づいたからだろう。

 だから、真一は最後まで真言を妹と同じように扱う事に決め、その好意に気付かない振りを続ける事に決めた。


 真言が聞いたら怒るだろう話だが、真一はそう決めたのだ。


 失礼な行為なのは理解しているし、それが誰の為にもならない、下らない選択だという事も自覚している。

 だが、真言のあどけない姿を見ると、どうしても妹を思い出してしまう。


 それならいっそ、妹分として真言を大切にして、それ以上の事を考えない方が潔いと思ってしまったのだ。真言を妹の代わりにするつもりでは無いが、このままの気持ちで真言の好意に応えるよりはマシだと考えたのだ。


 この日、真言が感じているのとは真逆に、真一の気持ちと真言の気持ちと決定的にすれ違ってしまったのだった。

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