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真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第二章 決意
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2-3 無責任な噂

 カレンによる真言への追求や、真一のハーレム騒動等、真言と真一の二人にとっては穏やかでない状況もあったが、四人は無事ホームのあるマンションに到着した。

 カレンは一度、制服を着替える為、五階にある自分の部屋に行き、他の三名はホームの玄関を潜る。


「ただいま」

「「お疲れ様です」」


 ホームは御幸と梓の住居も兼ねているので、「お疲れ様です」というのは少し違和感があるが、見える範囲で二人の生活を窺わせるものが無く、事務所的な雰囲気が強いので、自然にそういった挨拶に落ちついている。

 ちなみに、カレンはホームを家扱いしているようで、いつも「ただいま」と言って入る。そして、自分の部屋に入る時は無言だ。


 御幸が制服を着替える為に自らの部屋に引っ込んだので、真言と真一は二人でリビングに向かう。


「「お疲れ様です」」

「ああ、お疲れ」


 リビングで二人を迎えたのは、ダイニングテーブルでコーヒーを飲む男性だった。


 彼の名前は結城(ゆうき)龍二(りゅうじ)。御幸のチームのメンバーで、御幸やカレンの幼馴染でもある。身長は二メートルを超え、全身を筋肉の鎧で覆った巨漢で、短く刈り込んだ髪と厳つい顔だちはとても高校生には見えず、総合格闘技のプロのようだ。実際、そんな高校生はそうそうおらず、龍二の制服はサイズが無くて特注したものだった。

 ただ、見た目はともかく、本人はとても面倒見のいい性格で、様々な運動部の頼みを聞いている関係で校内での彼の評判は非常に良い。


「お疲れ様です」


 真一と真言が部屋の隅に荷物を置いていると、キッチンから梓が出て来た。


「今、コーヒーを用意しますね」

「梓さん、私も手伝います」

「真言さん。私の事は『お姉ちゃん』と呼ぶように言いましたよね」

「あ、はい」


 真言の『先輩』呼びにも驚かされたが、梓のこれに至っては、梓本人を除く全員が面食らった。


 御幸、カレン、龍二の三人から聞いた話では、表情が無い事と丁寧過ぎる口調の所為で、冷たく見られがちな梓だが、非常に世話好きで、特に年下を可愛がるのが大好きらしい。三人は小さい頃、梓の事を『お姉ちゃん』と呼び、本当の姉のように懐いていたのだそうだ。

 だが、成長した三人は梓の事を『お姉ちゃん』と呼ぶ事は無くなり、梓はそれを非常に残念がったらしい。

 そんな所に、年下で自分が指導する女の子が出来たのだ。梓の『お姉ちゃん』スイッチが入っても無理は無い。


 御幸は「私の事は『お姉ちゃん』と呼んでください」と言った梓を見て、これが真言のチーム入りを勧めた本当の理由ではないか、と本気で疑ったそうだ。


「では、もう一度やり直してください」

「え、え~っと……お姉ちゃん、私も手伝うよ」

「ええ、お願いします」


 まだ、お姉ちゃん呼びに慣れていないのか、偶に真言が『梓さん』と呼んでしまうのだが、その度にこうしてやり直しを要求されている。


 無表情ながらも満足げな様子の梓が、真言を連れてキッチンへ引っ込むのを見送り、真一は龍二の方へ移動した。


「今日は遅かったな」


 テーブルにつく真一に、龍二が言う。


「色々あったんですよ」

「何だ、それは」


 ため息混じりに答える真一に、龍二は冗談だと思ったようで、笑う。

 

 そう言えば、龍二は運動部を中心に顔が広い。噂について知っているはずだ。

 真一は現状、噂がどういった事になっているのか、龍二にも聞いてみる事にした。


「結城先輩は俺の噂って何か知ってます?」

「噂? お前が三又かけてるってあれか?」

「ああ、やっぱり知ってるんですね……」


 真一は頭を抱えて机に突っ伏す。


「ああ、色々あったとはその事か。気にするな。言いたい奴には言わせておけばいい」

「言わせておけばって……。この前までは誘拐だか殺人だかの犯人扱いで、今度は三又かける最低野郎ですよ? 誰も俺に近づいて来ないのは、先月の件だけが原因じゃなかったんだと思うと、そんな風には思えないですよ」


 紅子(べにこ)の事については疑われるには十分な状況だったし、真一が手を下したわけでは無いが、紅子が討伐される場に居合わせもしたので、過去に何かを言われても恨んだりはしない。

 ただ、三又の件は全くの濡れ衣で、誤解を解こうと思っても、腫れ物扱いで誰も関わって来ないのでは難しいだろう。


「ちなみに、何て言われてるか、結城先輩が知ってる範囲で教えて貰えませんか?」

「何? そんな事を知りたいのか?」

「う~、知りたくは無いですが、噂の存在を知って気にしないってのは出来ないので、せめて、自分がどう思われてるか知っておきたいんです」

「知っても仕方無いと思うんだがな。う~む」


 龍二にしては珍しく、言い渋る。


 そこへ、着替えを終えたカレンと御幸がリビングの扉を開き、六人分のコーヒーの準備を終えた梓と真言もキッチンから、それぞれ集まって来た。


「何の話?」

「ああ、真一が噂の件で、自分がどう言われているか知りたいと言うんだがな」

「アンタ、まだそんな事言ってんの?」

「スミマセン、先輩」

「高坂さんが噂になっているんですか?」


 御幸やカレンもも噂の被害者だ。その二人の前で聞くのはどうかと思って、二人が居ない間に龍二に聞いたのだが、もう少しタイミングを計るべきだっただろう。

 気になるあまり、事を急いだ真一の落ち度だ。


「知って気持ちいい話じゃないでしょ?」

「俺もそう思うんだがな、本人が知りたがっている以上、教えてやるべきか」


 御幸と龍二は同意見のようで、知らない方がいいと言う。


「バッカじゃないの! そんなに知りたきゃ、アタシが教えてやるわよ!」


 結局、言い渋る二人と知りたくないのに気になる真一の煮え切らないやり取りに、カレンが業を煮やしてぶちまけてしまった。


 噂の始まりはこうだった。

 校門で崇化館(そうかかん)中学の女子が男を待っているらしい。これは、真言が高校の部活終了時間が分からず、長時間待っていたところ、それを気にした者が声をかけた事で広まった情報だった。

 そうなると、次は誰を待っているか、という話になるのは当然の事だ。

 そして、それが先月、榊原紅子失踪事件で全校に名前が知れ渡った真一だと分かれば、後は一気に噂が広がった。


 ここまでであれば、ちょっと名の知れた生徒に彼女? が居たというだけの話だったが、真一はいつも御幸、カレンと一緒に帰っている。これはどういう事だ?


 そこからは無責任な憶測が飛び交うゴシップ情報のオンパレードだ。

 真一は毎日、御幸とカレンと一緒に地学準備室で昼食をとっている。どうもそれは先月の噂が広まった時期かららしい。つまり、根も葉もない噂に傷ついた真一を二人が同情して昼の間、匿っていたのではないか。それが今でも続いているのは、三角関係になったからでは? だったら、二股かけてた所に新しい彼女が乗り込んで来たんだ。そうに違いない。きっと、四人で帰るのは毎日修羅場なんだ。いやいや、そんな険悪では無いから、きっと公認で三又なんだ。


 御幸から聞いて想像は付いていたが、ひどい話になっている。


「その噂って、どれくらい広がってるんですか?」

「全校よ」

「全校ね」

「全校だ」

「そう、ですか……」


 三人が異口同音に最大規模の範囲である事を教えてくれた。


「まあ、俺も聞かれれば訂正しているから、そのうち収まるだろう」

「ええ、下手に弁解する方が変な方に話が曲がっていくから、放っておくのが一番よ」

「アンタ達のおかげでいい迷惑よ!」


 龍二と御幸が撃沈する真一に慰めの言葉をかけ、カレンは文句を言う。

 ただ、そんな噂になっているのに、真一が部室で昼食をとるのも、一緒に帰るのも止めろとは言わなかった。いい迷惑と言っているが、カレンはクラスメイトから色々聞かれるのが鬱陶しいだけで、他人が無責任な噂をする事自体は気にも留めていなかった。


「先輩、スミマセン。私が先輩を待ってるって言っちゃったから……」

「いや、そこは関係ないよ。元々、俺は変に知られてるから、真言ちゃんが答えなくても、俺達を待ってるのはすぐに分かっただろうし、そもそも真言ちゃんが待ってなくても、昼ご飯の話や二人と帰ってるって事で噂はたってたよ、たぶん」

「先輩~」


 真一のフォローに、真言は乙女のポーズで真一を見る。


「それより俺は元々、悪目立ちして、孤立してたからいいけど、御幸さんとカレンの方が女の子だし、ダメージデカいですよね。スミマセン」

「フン!」

「別に、言いたい人には言わせておけばいいわ。変な事を言うのは、私と関係ない人たちだもの。私が知っていて欲しい人は、直接私に聞いて来てくれるから、訂正は楽よ。気にしないで」

「はい」


 カレンはいつものように、鼻を鳴らすだけ、御幸は大人な意見で真一を許した。


「さあ、この話はこれくらいにしましょう」


 御幸が空気を切り替えるように、わざと明るく言い、学校に蔓延する無責任な噂に関する話の終わりを告げる。


「今日は、高坂君はカレンと龍二と訓練。食後はちょっと話があるから、今日の訓練は食前までで切り上げられるようにお願いね」


 放課後、ホームに集まって何をしているかと言えば、基本的には、真一はカレンや龍二と身体能力の向上を図る訓練、真言は梓と家事をやった後、御幸や梓と鬼と戦う上での知識を教えられたり、過去の戦闘データを整理しながらオペレータとしての訓練を行っている。

 そして、特別な予定がある場合は、こうしてお茶の後に告げられるのだ。


「よし、行くぞ、真一」

「はい」


 真一は訓練の時は動きやすい格好をするのだが、着替えは五階の龍二の部屋を貸して貰っている。


「では、私たちは食事の準備をしましょう。今日はグラタンでしたね?」

「あ、はい。グラタンと野菜スープにするつもりです」

「言われた通り、パンは買ってありますので、早速始めましょう」

「はい、……お、お姉ちゃん」

「フフフ」


 真言にお姉ちゃんと呼ばれて御満悦の梓は、真言と共にキッチンへ向かう。


「御幸はどうするの?」

「私は先月の件についての報告書を整理してるわ」

「そう。じゃあ、アタシも行くわ」

「ええ、行ってらっしゃい」


 最後にカレンがリビングを出て行き、御幸だけがそこに残った。


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