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真夜蒼月、幽界の門  作者: 今
第二章 決意
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2-2 ハーレム野郎

 夕凪真言は自分の事をごく普通の人間だと理解している。


 共働きの両親はいつも忙しそうで、家を空けがちだが、二人共仕事が命というわけでも無く、それで両親の愛情を疑った事も無い。小学生の頃からカギっ子だったが、そういった子供は他にもいて、自分が特別だとも思わなかった。


 しかし、先月、鬼に襲われるという普通では有り得ない事件に遇い、現実に対する認識が一変する事となった。


 漫画やアニメ、特に魔法や超能力が出てくるような作品は好きだが、現実ではあり得ないと思っていた。

 それが、魔法や超能力とは少し違うようだが、フィクションのように同年代の少年少女が特別な力を駆使して、人類の敵と戦っている場面に遭遇したのだ。


 その時、真言は助けられる側の一般人で、屍鬼に囲まれた時は涙が出そうなくらい怖かった。

 でも、真一が身を挺して逃がしてくれて、梓に保護され、カレンが暴虐の限りを尽くすのを見て、怖いと言う気持ちの中に、どこか浮き立った感情がある事に気が付いた。


 命懸けで戦った三人には悪いが、それが真言の偽らざる気持ちだった。


 そして、戦いが終わり、ホームで御幸から鬼や真夜について、大体の事情を聞いた。


 真言はそんな事を簡単に話してくれるとは思っていなかったので、これには驚いた。後々、分かるのだが、この時の話は小さな嘘を含んだ表面的な説明に過ぎずないものだった。その上、鬼の存在は一般的には知られていないが、各国の上層部等、社会の根幹に位置する人々は、大体知っていて、真言一人が騒いだところで問題にもならない話だった。


 だが、この時の真言は世界の秘密を知った気になっていた。


 家に帰り、興奮で寝付けない真言は、その日の出来事を思い返す。

 真一と共に街を駆けた時の不安、豊ヶ原高校に辿り着いた時の安堵、裏切られた時の驚愕、梓に連れられて、校舎から脱出した時の恐怖と無力感、敵を蹂躙するカレンは悔しいが格好良く、その活躍にはドキドキした。

 そのどれもが今までの人生で感じた事の無い程、鮮明な感情だった。


 大好きな漫画を何度も読み返す様に、その日の出来事を何度も反芻した結果、理解した事がある。


 戦いの後、何故、自分があれほど真一の安否確認にこだわったか、その理由だ。

 真言自身、安易だと思ったが、自分を逃がす為に死地に残り、ボロボロになって帰って来た真一の事を好きになってしまっていたのだ。


 吊り橋効果の意味は知っていたが、一度自覚した気持ちの前では、そんな無粋な理論など何の意味も持たなかった。


 そして、真言は一晩寝ずに考えて、このまま日常に戻るのを拒否する事を決めた。

 翌日、御幸の住むホームに押しかけ、チームに加えて欲しいとお願いしたのだ。


 しかし、御幸からその願いは却下された。


 真言は真夜から生還したとはいえ、自力で越境したわけではないのだから、越境者ではない。つまり、あれだけの経験をしても、真言は一般人でしかないのだ。

 御幸が一般人を巻き込む事を良しとするはずがない。


 それは真言も分かっていたので、前日に考えた通り、直接的な戦力ではなく、サポート要員としてなら役立てるはずだとアピールを始める。

 PCの扱いは得意なので、事務的なサポートが出来る事、家の事が出来ない母親の代わりに夕凪家の家事一切を取り仕切っており、掃除洗濯、ご飯の用意、何でもするから仲間に入れて欲しいと食い下がった。


 あまりにしつこく食い下がるので、その時、ホームに居たカレンや梓も集まって来てしまい、真言は御幸に土下座せんばかりに頭を下げている所を二人に見られる事となる。


 意外な事に、最初に真言のチーム入りに賛成したのはカレンだった。

 真言は意外過ぎる援軍に、びっくりした。未だに、カレンが何故賛成してくれたのか、真言には分からない。


 そして、カレンに続くように梓が賛成に回る。梓は今回の事でチームの体制に思う所があったようで、彼女の考える真言を加えたチームの体制を御幸に語った。


 結局、梓に説得される形で御幸はしぶしぶではあったが、真言のチーム入りに許可を出した。


 新たなメンバーとして迎えられた真言は現在、学校が終わるとホームに行き、御幸と梓から基礎知識を学び、それ以外の事については梓から指導を受ける生活を続けている。


 見事、チーム入りを果たした真言の次なる目標は勿論、真一の攻略だった。

 きちんと、行動する前に梓に聞いてチーム内恋愛が禁止されていない事も確認しているので、真言が遠慮する理由は無い。


 そういった訳で、学校の違う真言は、真一と一緒に居る時間を少しでも増やす為に、こうして毎日、豊ヶ原高校の前で真一を待っているのだ。


 三人に合流した真言は、ちゃっかり真一の横に付き、並んでホームへの道を歩く。


「先輩、先輩。今日の晩御飯は先輩の好きなグラタン作りますから、楽しみにしておいてくださいね」

「え? ああ、ありがとう」


 真言は真一の顔を下から覗き込みながら、アピールを開始した。


 好きな男の好物を御馳走する。年下からのアピールは庇護欲を刺激するポーズで行う。呼び方は先輩、若しくはお兄ちゃんとする。あざといと分かっているが、彼氏が居た事も無く、欲しいとも思った事も無かった真言にとって、今まで恋愛とは漫画やアニメの中のものでしか無かった。上手いアピール等知っているはずがない。

 だから、自分の知るフィクションを参考に、アピールを開始したのだ。

 ただ、あれは誇張表現の類で、現実にやると引かれる可能性が高い事を真言は知らない。


 実際、初めて真言から先輩呼びをされた真一は目を白黒させ、対応に困っていた。


「へぇ、グラタンなんて久しぶりに食べるわね。梓さんは和食が多いから、夕凪さんが入って、食事の幅が広がったのは嬉しいわね」

「はい。他の事はまだまだですけど、まずはこれで皆さんのサポートしますから!」


 初めは真言がチームに入る事に反対していた御幸だったが、一度仲間に加えると決めた後は、そんな事を感じさせない扱いをしてくれるので、真言としてもありがたかった。


「ええ、でも無理はしないでね。夕凪さんはまだ中学生だから、毎日だとご両親も心配するでしょうし、前線に出るわけでは無いのだから、こちらの事は疎かにしない程度で、自分の事を優先させていいのよ?」

「大丈夫です。ウチ、両親の帰りはいつも遅いし、御幸さんと梓さんがちゃんと話してくれたから、応援してくれてるんですよ」


 御幸は真言をチームに加えるにあたって、梓を伴い、真言の両親に事情説明をして、チーム入りの了承を取っている。


 勿論、正直に鬼の事を言って心配させるわけにもいかないので、趣味の料理サークルと偽っての事だったが、大人である梓が同行したおかげか、真言の両親はすんなり納得してくれた。


「でも、学校の勉強とかもあるし、夕凪さんは中学三年生で、今年受験でしょ? 大丈夫なの?」


 御幸は意地悪で言っているわけでは無い。ただ、チームに加えはしたが真言は一般人なので、いずれまっとうな日常に返してあげたいという思いが捨てられず、鬼に係わる事で真言の人生が狭まってしまう事を心配しているのだ。

 まあ、それを抜きにしても、御幸の意見は至極まっとうな物だ。


 真言は自分で言うのもなんだが、頭はいい方だ。

 それに、真言も両親も学校の成績そのものにあまり重きを置いておらず、人並みの成績を取っていれば、それ以上はうるさく言われる事は無い。

 真言としては、高校は真一と同じ豊ヶ原高校に行くと決めているので、今の成績をキープしていれば特に問題ないと思っている。


 真言は少し考えて、そこら辺の事情を説明しようと口を開きかけたが、カレンから別の角度で答えにくい問いがぶつけられた。


「アンタさ、何で毎日、校門で待ってるわけ?」

「え?」

「アタシは御幸みたいに毎日ホームに来るのが悪いとは思ってないわ。戦うと決めて、行動する奴にとやかく言うつもりは無い」


 前を向いて歩くカレンの横顔を見ながら、真言はなんと答えるべきか考える。


 真言は真一にわかりやすいアピールをしているが、まだ想いを告げるつもりは無い。好意を感じさせながら、決定的な一歩は踏み出さず、真一が真言を十分意識するようになるまで待つ作戦なのだ。 

 だから、ここで正直に理由をいう訳にはいかなかった。


 真一への想い隠しつつ、校門で待つ上手い言い訳を考える真言だったが、カレンが続けた言葉は、そんな真言の浮ついた気持ちを粉砕するのに十分だった。


「でも、だったら何で校門で待ってんの? さっさとホームに行きなさいよ。ホームには梓さんが居るんだから、いくらでも教わる事があるでしょ?」


 カレンの顔が真言の方に向けられ、元々カレンを見ていた真言とまともに目が合う。

 その真っすぐな視線に、真言は頬が赤くなるのを感じる。自分の浮ついた考えを見透かされたような気がして、恥ずかしかったのだ。


「そ、それは、通り道ですから、どうせなら皆さんと一緒に行こうかと思って……」

「アンタの学校からだったらホームの方が近いじゃない」

「一度、家に帰って、家の事やってから来てるんです! 家からホームだったら、ここが通り道ですから!」


 これは本当の事だ。

 ただ、平日は家には寝に帰って来ているだけのような両親と真言しか居ないので、家事の量は大したものでは無く、行こうと思えばもっと早くホームに行ける。


「家に帰ってるのに何で制服なのよ!」

「校門で待つのに私服だと目立つじゃないですか!」


 これも本当の事。

 ただ、真一にアピール出来るような可愛い服をそれ程持っていないので、気の抜けた服装を見せるくらいなら、いっそ制服を着て後輩アピールで攻めるという裏の事情もある。


 勿論、校門で待つ必要など元々ないので、言い訳にもなっていない。

 しかし、聞いて欲しくない事ばかり聞かれるので、真言にはそんな事を考える余裕は既に無い。


「だったら待たなきゃいいでしょ! 他校の制服で毎日毎日待たれたら噂になって仕方ないじゃない!」

「ぐっ」


 全くその通りで、ついに言い訳に詰まる。


「えっ! 噂になってんの?」


 カレンの発言に真一が驚きの声を上げた。


 真言もそれは知っている。

 もう慣れてしまったので気にならないが、校門で真一達を待っていると、そこかしこでひそひそとやっているのをよく感じる。


 だから、目立たない為に制服を着ているというのは全く手遅れなのだ。

 

「バッカじゃないの? 当たり前でしょ! コイツが校門で待つようになって、何日経ってると思ってんのよ! もう学校中の噂になってるわよ!」

「御幸さん?」


 真一は信じられないといった面持ちで、御幸に確認の視線を投げかける。


「まあ、そうね。私もクラスメイトから何回か聞かれたし」

「で、でも、今日だって誰も気にしてる様子、無かったじゃないですか」


 確かに、真一も噂になりそうだとは思っていた。

 しかし、真一が知る範囲では。校門で待つ真言と合流した時に誰かがひそひそやっているという事は、今まで無かったはずだ。


 だが、実際は真一が知らないだけで、噂は学校中に広がっていた。


「あったり前でしょ! 誰がアンタの前で噂なんてすんのよ!」

「へ?」

「高坂君、君は先月の件で一度、学校中から疑いの目で見られ、現在は腫れ物扱いでしょ? そんな君の前で()()()()()()()()()()()()()なんて出来ないわよ」


 間抜けな声を上げる真一に、御幸から爆弾が投下された。


「私がクラスメイトから聞かれたのはこうよ。『高坂君って、御幸と立華さんと毎日校門で待ってる子、誰と付き合ってるの?』とか『三又されてるって聞いたけど、大丈夫なの?』」

「ホントに、いい迷惑よ!」

「ご迷惑おかけしました……」

「すみません」


 まさか、そんな噂になっているとは思わなかった真一と、噂になってるのは感じていたが、そんな内容とは知らなかった真言は、揃って頭を下げる。


 最初は制服を着て来る理由から話が逸れたのでホッとしていた真言だったが、最終的にはもっとひどい話になってしまい、校門で待つ事を禁止されると思ったが、今更止めても噂は無くならないし、逆に毎日来ていたのが急に来なくなった方が新しい噂話の元になるという事で、なんとか今まで通りで大丈夫という所に落ち着いた。

 真言は喜んだが、自分が三又した上、毎日ハーレム状態で下校する最低野郎のレッテルを貼られていた事を知った真一はひどく落ち込んだままだった。

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