商品
施設は、廃業した保養所か何からしかった。窓は塞がれ、廊下の要所にカメラ。収容されている女性は、確認できただけで六人。食事は与えられ、暴力の痕はない。商品に傷をつけない主義らしい。それが、かえって底冷えのする恐ろしさだった。ここは倉庫なのだ。
搬入の翌朝、「検品」があった。
白衣を着た男が一人ずつ呼び出し、身長、体重、スリーサイズを測って端末に打ち込んでいく。番号で呼ばれ、採寸され、正面と横から写真を撮られる。人間を規格で記録する作業だった。俺は氷見アヤとして従いながら、白衣の手元の端末を薄目で読んだ。項目の最後に「出荷先」の欄があり、俺の欄は空白、他の何人かには英字三文字のコードが入っていた。空港コードだ。
出荷は、海外。急がなければならない理由が、また一つ増えた。
収容部屋に戻る廊下で、すれ違いざま、美原ひかりと目が合った。
二十年前の団地の階段と同じ、膝を抱える座り方を、彼女は大人になってもしていた。ただし目は死んでいなかった。新入りの俺に、彼女は小声で、早口で言った。
「……夜、カメラが二分だけ止まる時間がある。西の非常口はダミー。逃げるなら厨房側。──あなた、まだ間に合うから」
自分が出荷リストに載っている状況で、昨日入った新入りに逃げ道を教える。俺は不覚にも、氷見アヤの顔のまま、泣きそうになった。ノートの漢字を見せに来た小学生は、こういう大人になっていた。
「……あんたは」
「私はいい。私が騒ぐと、他の子の食事が減らされるの」
人質の構造まで見抜いている。俺は短く「ありがとう」とだけ言って別れた。正体は明かせない。明かせば彼女の演技が崩れ、崩れれば彼女が危ない。
その夜、談話室と呼ばれる監視付きの部屋で、俺は幹部連中の「視察」を見た。ソファでふんぞり返る貴島。酌をさせられる収容者。そして、貴島の隣で寛ぐ、もう一人の男の顔を見て──俺は、呼吸を一つ、飛ばした。
久我。警視庁生活安全部の理事官。二度の内偵情報に、決裁の判を押した男。
内通者は、漏らしていたのではない。経営していたのだ。
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