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じょしょう:おくびょうもののおわり、そしておくびょうもののおわりのはじまり。

レンは走った。


ろくなことには一度も使われなかったその無駄な脚で、今までの人生のどんな善行よりも遠くへ。


なぜ走っていたのかって?


神崎レンは、自分の脱獄計画について考え、想像し、構想し、理想化し、妄想化してきた。


それこそ、人生で何か有益なことをした回数よりも、はるかに多く。


そして、まったく信じがたいことに。


その脱獄計画が、初めて、ほんの少しだけ、うまくいったのだ。


もし、独房の外にいる看守たちが、レンの想像の中にいた看守たちと同じくらい間抜けでいてくれたなら、計画は完全に成功していたはずだった。


もちろん。


現実は、いつだって現実である。


残念ながら。


濡れた草の上を、重い足音が叩いた。


雨。


霧。


泥。


レンとその仲間たちは走った。自分たちの小さな脳みそが想像できる限界の、そのさらに先へ向かって。


そのうちの一人が足を滑らせた。


「くそっ!」


男は胸から地面に叩きつけられたが、すぐに起き上がった。


虫けらのように惨めに死ぬよりは、走るほうがまだマシだったからだ。


「急げ!」


別の仲間が叫ぶ。


「くそ、くそ、くそっ!!」


さらに別の仲間が、半泣きになりながら悪態を吐いた。


「黙れ、この馬鹿ども!」


レンは小声で怒鳴った。


彼らは走り続けた。


自分たちの小さな脳みそが想像できる限界の、そのさらに先へ。


枝をかき分け、何度も滑り、何度も転びそうになりながら。


そしてついに。


レンは目的を達成した。


足が止まった。


両手を膝につき、レンは息を荒げる。


情けないほどの持久力しかないせいで、肺は悲鳴を上げていた。レンは深く息を吸い込み、この世に存在するにはもったいないほど有益な酸素を、彼のような人間の肺へ無駄に送り込んだ。


はぁ……。


ふぅ……。


はぁ……。


ふぅ……。


ようやく少しだけ落ち着いたレンは、満足げに喉を鳴らした。


そして、何か偉そうなことを言う前の合図のように、こほん、と咳払いをする。


「はぁぁ……はぁぁぁ!! よし!! 勝った!! 俺は勝ったぞ!! 俺以外にこんなことができる奴なんていない!! お前ら!! 俺たちはついに――」


レンはそう言いながら振り返った。


そして。


誰もいなかった。


文字通り、誰もいなかった。


本当に、誰も。


N・O・B・O・D・Y。


またしても始まるであろう、レンのうるさい勝利宣言を聞いてくれる者など、一人もいなかったのである。


哀れ、神崎レン。


「あの忠実で、素晴らしくて……侮蔑すべき人間廃棄物どもが!! まあいい! 藪の中で野垂れ死ぬなり、俺を見捨てて勝手に逃げ延びるなり、好きにすればいい!」


レンは文句を吐き捨てた。


だが、背後の不気味な暗闇を見つめた瞬間。


遠くに、いくつもの光が揺れているのが見えた。


さらに、犬の吠える声も聞こえた。


「は……? んん……? いや、違う! あいつらじゃない!! くそ、くそくそくそくそ――くそっ! 刑務官だ! 違う違う違う違う、違う!! もっと遠くへ逃げないと!! 限界のさらに向こうまで走らないと!!」


叫ぶなり、レンは再び加速した。


走れ、神崎レン。


走れ。


走って、走って、走り続けろ。


諦めるな、神崎レン。


臆病者らしく走れ。


その哀れな脚を動かせ。


命のために。


いや、そもそもそれを「命」と呼ぶ価値があるのかどうかさえ、怪しいものだが。


レンは、頭の中で同じ命令を何度も何度も繰り返していた。


まるで、それしか知らないかのように。


そして実際、それ以上にマシなことなど、何ひとつ知らないかのように。


「はぁっ!! はぁっ!! 止まれない、止まれない、止まれない――絶対に止まれない!! 俺の無駄な人生で、唯一と言っていい努力がここまで来たんだぞ!? ここで終われるか!! 終われるわけがない!! 全部、全部、全部ここまで来て!! 止まれるわけがない!! 俺は!! ここで死にたくない!!」


枝を突き破り、木々の間を縫いながら、レンは叫び続けた。


濡れた草の上に、さらに足跡が重なっていく。


そして、やがて。


片足が、何もない空間へ踏み出した。


続いて、もう片方の足も。


「は……? ああああああああああああああああああっ!!!!!」


レンは叫んだ。


心臓が沈む。


クソみたいな人生の中で、今まで感じたことがないほど深く。


神崎レンは、今まさに、約二十四メートルの高さから落下していた。


「助けて!! あああああああ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


強い風圧と重力に身体をめちゃくちゃに振り回されながら、レンは情けなく叫んだ。


レンはまず、昔どこかのテレビ番組で見た、落下姿勢を安定させるための体勢を取ろうとした。


失敗した。


風圧と重力のほうが、そんな浅い知識よりも圧倒的に強かった。


次にレンは、すぐそばにあったコンクリートの壁を、素手の指と手のひらで掴もうとした。


落下の勢いを少しでも弱めるために。


失敗した。


指先と手のひらが裂け、壁に赤い跡だけを残しながら、レンの身体はそのまま落ち続けた。


そして最後に。


レンは、何もしないことを選んだ。


ただ、起こるがままに任せる。


これが本当に、避けようのない結末なのか?


その通りである。


「ああああああああああっ!!」


それが、レンに残された最後の無意味な行動だった。


どんっ。


熟れた果実が地面に叩きつけられたような音がした。


こうして。


神崎レンは、泥の中で、臆病でどうしようもないクズらしく、その人生を終えたのである。


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