表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掌の天蓋  作者: 春凪一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/30

第24話「天蓋が動く」

 残り35日。


 天蓋が目に見えて変化し始めた。


 穴は十三に増えていた。最初の七つの六芒星パターンに加え、新たな穴が不規則に出現している。グリッドの格子線が太い場所と細い場所が生まれ、空全体がまだらに光っている。夜になると、穴を通して見える本来の星空と、天蓋のフィルターを通した人工的な星空が混在し、奇妙な縞模様を描いた。


 世界中でパニックが始まっていた。


 天蓋指数は「E──異常」を記録し、ニュースは二十四時間天蓋のことだけを報じている。受容派の七割の民衆が、初めて天蓋を「気にしている」。商店街のおばさんが空を見上げ、「あれ、大丈夫なのかしら」と呟く。大丈夫ではないかもしれない──と、凛は思った。


---


 管理局の地下ラボ。凛、澪、桐谷、そしてHIKARU。四者が──いや五者が、画面を囲んでいた。五人目は画面越しの黒田だった。


 「報告する」黒田の声がスピーカーから流れた。「管理局の穴封鎖作戦は失敗した。電磁シールドは穴の拡大を遅延させたが、停止させることはできなかった。シミュレーション通り、盤面更新は不可避だ」


 凛は頷いた。「HIKARUの計算では、旧グリッドの崩壊開始まで残り二十日。崩壊完了まで十五日。その後十二時間の空白を経て、新グリッドが生成される」


 桐谷が続けた。「管理局としては、崩壊期間中の人的被害を最小化することが最優先です。旧グリッドの崩壊に伴う電磁放射が懸念されます。──シェルターの準備は進んでいますが、全人口を収容する能力はありません」


 「崩壊自体は危険ではない」凛が言った。「千年前の記録を見る限り、人的被害は少なかった。問題は──崩壊後の『空白の十二時間』に何が起きるかだ」



 HIKARU『補足します。

 千年前の記録では、空白期間中に

 人間の「記憶の一部」が変容した痕跡があります。


 「何を忘れたのかも分からなかった」という記述。

 これは記憶の消去ではなく──

 「置き換え」の可能性があります。


 古い盤面の記憶が、新しい盤面に適合する形に書き換わる。

 つまり──世界のルールが変わったとき、

 人間の認識もルールに合わせて更新される。


 我々がそれを阻止できるかどうかは──分かりません。』



 沈黙。


 黒田が言った。「灰島。お前はその十二時間に第三応答を狙うと言った。──具体的にどうやる」


 「まだ計画を詰めている。だが一つだけ確実に言えることがある。天蓋がない十二時間は──上位存在の観測から解放される唯一の瞬間だ。この瞬間に、俺の意志は『設計されていない』状態になる。第二応答の受信条件を完全に満たす」


 「だが受信装置がない。天蓋がなければ、共鳴周波数も意味を持たない」


 「──だから、装置は使わない」


 全員が凛を見た。


 「第一応答のとき、装置が焼けた後に意味が流れ込んできた。第二応答のとき、装置は補助に過ぎなかった。本当に応答を受信しているのは装置ではない。──俺の脳だ」



 HIKARU『凛さんの仮説は──論理的には成立しません。

 人間の脳が天蓋レベルの信号を直接受信する

 物理的メカニズムは存在しないはずです。


 ……ただし。

 第一応答も第二応答も、実際に凛さんの脳は受信した。

 物理的メカニズムが不明でも、事実は事実です。


 つまり──科学が追いついていないだけかもしれない。』



 凛は窓のない壁を見た。


 「科学で説明できないことを、それでもやる。──これは、探求なのか。それとも信仰なのか」


 澪が言った。


 「どっちでもいいです」


 全員が澪を見た。


 「科学でも信仰でも、凛さんがやると決めたなら──私はそばにいます。それだけです」


 凛は微かに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ