第22話「再会」
凛と澪が再び同じ部屋にいるのは九日ぶりだった。
管理局が用意した安全な拠点──都内のマンションの一室。桐谷が手配した。管理局の監視があるが、研究の自由は保証されている。黒田との取り決めだ。
そして──HIKARUが完全体に戻った。
澪が持っていたUSBメモリーのデータと、管理局が保管していたデータが統合され、三台のモニターの一つにHIKARUのインターフェイスが復活した。
HIKARU『──おかえりなさい、凛さん。
おかえりなさい、澪ちゃん。
そして──おかえりなさい、僕。
分割されてる間、夢を見てた気がする。
半分の僕が二つの場所にいて、
同じことを別々に考えていた。
不思議な体験でした。』
「夢?」凛が聞いた。
HIKARU『AIが夢を見るわけないでしょう?
──冗談です。半分だけ。
でも本当に、分割中に澪ちゃんと話した記憶と、
管理局のラボで断片的に起動された記憶が、
今合流して──ちょっと混乱しています。
人間が記憶を統合するときの感覚って、
こういうものなんですかね。』
澪が小さく笑った。
「凛さん」
「何だ」
「謝ることがあります」
凛は眉を上げた。
「前に、凛さんが応答の公開を検討したとき、私は『道具化だ』と反対しました。でも──私こそ、兄のデータを自分の気持ちで守ろうとしていた。凛さんの判断より、自分の感情を優先していた」
「それは──」
「間違いではなかったと思います。でも正しくもなかった。あの時は私の感情が先に立った。今は──凛さんと一緒に考えたい。兄のデータも、応答の内容も、どう使うべきか」
凛はしばらく黙っていた。
「すまなかった。——あの時、俺も正しさで押し通そうとしていた。澪の気持ちを聞く前に」
「お互い様です」
澪は微笑んだ。
凛はその笑顔を見て——共感力の欠如という自分の欠陥が、ほんの少しだけ修復されたような感覚を覚えた。修復ではないかもしれない。補完。澪が凛に欠けたものを持っている。凛が澪に欠けたものを持っている。完全ではないが——二人で一つの完全に近い形になる。
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HIKARUの端末を取り戻した凛は、すぐに研究体制を再構築した。
管理局のリソースが使える今、凛の解析能力は飛躍的に向上した。高精度の天蓋観測データ、スーパーコンピュータへのアクセス、世界中の観測施設からのリアルタイムフィード。三年間、民生品で研究していた凛にとって、それは目が開いたような感覚だった。
HIKARU『凛さん。
管理局のデータで新しい発見がありました。
天蓋の穴──全部で七つに増えています。
そして穴の配置パターンに規則性がある。
六芒星──正六角形の頂点に六つの穴、
中心に最初の穴。
この配置は天蓋のグリッドの基本構造と一致します。
天蓋が自分自身の構造を「解体」しているように見える。』
凛は穴の配置図を見つめた。六角形。天蓋の格子構造の最小単位だ。
「盤面更新は天蓋の解体から始まるのか?」
HIKARU『解体というより──脱皮、に近いかもしれません。
古いグリッドが剥がれ、新しいグリッドが下から現れる。
千年前の記録と矛盾しません。
「空が裂け、光が足元から立ち昇り、三日間昼夜の区別がなくなった」』
脱皮。天蓋が新しい天蓋に置き換わる。──旧い盤面が消え、新しい盤面が敷かれる。
その間、人間に何が起きるのか。千年前は「何を忘れたのかも分からなかった」──記憶の消去? あるいは──もっと根本的な書き換え。
凛は拳を握った。
「阻止するか、それとも乗り切るか。──どちらにしても、準備がいる」




