ソフィー
困惑するセオドアを他所に、ソフィーはずかずかと部屋に踏み入ってきた。ソフィーの後ろに見えたフェリシティの姿に、嫌悪ではなく喜びを感じた事にセオドアは動揺した。一方、フェリシティも動揺しているようだったが、その表情が以前より柔らかくなっているような気がする。
(しばらく見ない内に、また綺麗になったーーー)
「23歳にもなって引き篭もりなんてっ!それでも私の甥っ子なの?!」
叔母の言葉に、セオドアは現実に引き戻された。
「叔母上・・・私がウェスト伯爵家当主です。ウィンチェスター侯爵に嫁いだ貴方に、文句を言われる筋合いはない」
「まぁっ!それだけ口答えできるなら、出てこられるわね?身嗜みを整えて応接室にいらっしゃいっ!」
そう言うと、ソフィーはフェリシティを連れて部屋から出て行った。それまで締め切っていた部屋にわずかに風が吹いた気がして、セオドアは背筋を伸ばした。
◆◆◆◆◆
「まるでカインがいた頃に戻ったようよ。ふふふ。私はフェリシティ様の味方ですからね」
「ありがとうございます・・・」
「随分と仲良くなったのですね」
背後から聞こえた声に、ソフィーもフェリシティもビクッと肩を揺らした。
「セオっ!なんて意地悪なのっ!ノックくらいなさいっ!」
「ここは父から受け継いだ、私の屋敷です。ノックする必要はないと思いますが」
「レディが中にいると分かっているなら、ノックくらいして当然よ!」
「フェイはそうとして、叔母上までレディだったとはっ!忘れていたようです。申し訳ありません」
「・・・前言撤回だわっ!セオ、貴方子どもの頃より口も性格も捻じ曲がったようね!そんな事では、社交界を渡っていけなくってよっ!」
「叔母上、為になる忠告をどうもありがとうございます。しかし、この言動は叔母上の前だけのものですから、ご心配には及びません」
「子憎たらしいったらないわね・・・まぁ、元気になったようだし、いいわ!私は帰ります。フェリシティ様をちゃんともてなしなさい」
「フェイを連れてきた張本人のくせに、フェイを置いていくなんて・・・」
「私がいては、したい話も出来ないでしょう」
ソフィーは含み笑いを浮かべて、応接室を出て行った。セオドアとソフィーが舌戦を繰り広げている間、フェリシティはソファの上で固まっていた。
(ソフィー様とご一緒に退室すれば良かったかも・・・)
退出するタイミングを逃してしまい、気まずさから次の動作をどうするか考えていると、目の前のソファにセオドアが座ったのが視界に映った。
「・・・まだ、フェイと呼んでもいいだろうか?」
申し訳なさそうにそう呟くセオドアの顔を、フェリシティはまじまじと見る。その悪意のない視線に居た堪れなくなったセオドアは、頭を抱えるように俯いた。
「この前は・・・みっともない姿を見せてしまって、すまなかった」
「そんな・・・みっともないだなんて・・・・・・そんな事ありません。私がセオ様を苦しめてしまったのに・・・」
フェリシティの顔も悲しそうに眇められた。
「フェイ・・・兄さんの事は私の責任だ。フェイが気に病むことはない。ただ、もし・・・よければ、兄さんの墓参りに一緒に行って欲しい」
「もちろんです。ご一緒します」
「これから向かってもいいだろうか・・・気持ちが揺らぐ前に行ってしまいたい」
「はい。私は構いません」
セオドアはジョージに馬車の用意を頼み、フェリシティと共に教会へ向かった。




