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薔薇の名前  作者: 菖蒲
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薔薇の名前





今日は教会で結婚式が行われているようで、鐘の音と人々の祝福の声を背に墓地を進んでいくセオドアを横目に見つめ、フェリシティはこれまでの事を思い返していた。


キャンベル家からの婚約の申入に、後見人であるソフィーが承諾したと聞いた。セオドアは突然の婚約に戸惑っただろう。それでも婚約者として接してくれていたし、蔑ろにされたなんて思っていない。カインに宛てた手紙のような日記のせいで、セオドアを振り回してしまったのは予想外だったが、日記を読んでからは少しずつ打ち解けられているように感じていた。それでも、心の奥底にはカインを死に追いやった罪悪感があって、何もかも忘れてしまったセオドアとこのまま結婚してもいいのかと、小さな棘のように心に引っかかっていた。セオドアが日記を通してフェリシティを気に掛けてくれていた事は嬉しかったが、余計にカインの事を黙っている事が難しくなってしまった。今が幸せなら、わざわざ苦しい過去を思い出す必要があるのか。このまま手紙の差出人としてセオドアの前に現れて、愛し愛される仲睦まじい夫婦でいられたら・・・そう思って、


(・・・私、これからもセオ様と一緒にいたいんだーーー)


もっと早く気付いていたら、もっと早くカインの事を打ち明けていたら・・・そうしたら、素直になって気持ちを伝えられたのか。いいえ、きっと臆病な自分はカインの事を話すことはできなかった。セオドアに嫌われたくなかった。カインの事を黙っているのは自分の為ではないかと、己の浅はかさに嫌悪した。アメリアやグレース、ハロルドとこれまでの自分の気持ちに折り合いをつけ、前に進もうと思えたから・・・背中を押してくれる家族がいたから、勇気を出してカインの事を打ち明けられた。


(これから、どんな事を言われたとしても・・・私はそれを受け止めなければーーー)


しばらく歩くと、教会の奥に薔薇で囲まれた小さな天使の石像が見えた。


「ジョージによると、あれが兄さんの墓らしい」


セオドアの言葉にフェリシティは頷いた。近付いてみると、様々な色のミニ薔薇が墓石を囲むように咲き乱れていた。


「綺麗ですね」

「ああ、花を絶やさないようにさまざまな品種を植えたと聞いた・・・兄さんは花が、特に薔薇が好きだったから」

「カイン様も、喜んでいらっしゃると思います」


フェリシティは優しげに微笑んで、その表情を見たセオドアは唇を噛んだ。


「今日ここに来たのは・・・兄さんに言いたい事があったからだ。・・・フェイにも聞いて欲しい」

「はい、なんなりと」


フェリシティがセオドアに視線を合わせ、頷く。


「私は・・・僕は、初めてフェイを見た時から、人形のように綺麗な子だなって思ってたんだ・・・」

「・・・」


カインへの言葉と言うよりも、まるでフェリシティに向かって話しているかのように、セオドアはフェリシティから視線を外さなかった。


「僕の知らない間に、兄さんとフェイが仲良くなってた事がすごく嫌だった。兄さんに笑いかけるフェイが憎らしかった。兄さんとフェイの間にある見えない絆を壊したかった。どうしてフェイの隣にいるのは僕じゃないんだって・・・だから、もう会わないでって言ったんだ。そしたら、フェイは僕にも目を向けてくれると思った。どうしてそんな短絡的な考えしかできなかったのか、今では馬鹿だなって思うけど・・・。それから兄さんとの仲がギクシャクして、兄さんが居なくなれば・・・いいなんて、そんな事も考えてたら、本当に死んじゃった・・・」


僕というセオドアはどこか幼く、頼りなげに見えた。


「僕のせいだって、僕が兄さんから生きる希望を奪って殺したんだって思って、自分が許せなくて・・・抱えきれなくなって、都合よく兄さんの事を、フェイの事も忘れちゃったんだ・・・。ごめん」


フェリシティは黙って首を横に振った。そんな事ないんだと、セオドアは何も悪くないと伝えたいのに、言葉が出なかった。


「フェイとまた再会して、婚約して・・・最初は無表情だったフェイの小さな変化が嬉しかった。愛しかった・・・。日記を貰って、自分もこんな風に想われたいって、思ったんだ。フェイに。フェイにこんな風に想われたいって・・・。記憶が戻って、はっきりと分かった。僕は、フェイが好きなんだ。記憶がなかった間も、ずっと好きだった。フェイは、まだ兄さんが好き?」


ゆらゆらと揺れていたセオドアのブルーサファイアの瞳が、確かな光を宿していた。


「私・・・私は・・・」

「・・・ねぇ、手紙にあった『なんでも言って』って、本当になんでも聞いてくれるの?」

「えっ・・・えぇ、私にできる事なら・・・」


「すぐじゃなくていいから、僕を好きになって」


そう言って宝物のように優しく抱きしめられたフェリシティには、セオドアの表情を窺い知ることができなかった。仄暗い表情の中で、その瞳はまるであの薔薇のような青色に輝いていた。


あの薔薇の名前はーーー





最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。一旦、これで完結になります。またたまに続きを投稿するかもです。

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