夢の中3
寝落ちしてしまいました。ごめんなさい。
霧の中を馬車で王立植物園に向かって走る。こんな天気なのに、本当に彼女は来るのだろうか。馬車から降り、ローズ・ガーデンに向かって歩く。薔薇のトンネルに差し掛かったあたりで、ベンチに腰掛ける彼女が見えた。彼女の視線は薔薇に向かっており、セオドアが近付いている事に気付いていない。ふと、セオドアは立ち止まり彼女を見つめた。今日も変わらず彼女は綺麗で、霧の中だからか、どこか神秘的な佇まいだった。彼女は何も知らずにカインを待っている。そう思うと、胸に暗いもやがかかるようなイライラとした感情が浮かんでくる。感情のままに彼女に近づき、声を掛けた。
「もう兄さんに会わないで欲しい」
セオドアの顔は嫌悪に強張り、とても初対面の人に掛ける声音ではない。振り向いた彼女はきょとんとした顔をしていて、セオドアはそんな顔も綺麗だと思った。
「あ、あの・・・貴方は?」
「と、とにかく!兄さんは来ないから!」
それだけ言うと、セオドアは焦ったように走り出した。「兄さん」ではカインの事だと分からなかったに違いない。セオドアが自分でカインに約束した事でさえ、中途半端に伝えてしまった。そんな自分が恥ずかしくて、逃げてしまった。戸惑ったような彼女の声が、今も耳に響いている。初めて交わした言葉がこんな喧嘩腰で、しかも彼女を困らせてしまった事が悔しかった。でも同時に、これでカインと彼女が2人並んでいる所を見なくて済むと思うと、安堵していた。
◆◆◆◆◆
「セオ、フィーに会えた?」
ベッドから起き上がれるようになったカインが、セオドアに最初に尋ねた。セオドアは少し視線を逸らして頷いた。それがセオドアの嘘だと、カインは見抜いていたのだろう。「そっか」とだけ言ってまた身体をベッドに横たえた。
それからまた数日経ち、カインもやっと動けるようになりセオドアと共に植物園へ向かった。セオドアの心中は複雑で、彼女が来ていたらどうしようとか、この前の無礼な振る舞いをカインに告げ口されたらどうしようとか、そればかり考えていた。なのでカインが不安そうな顔をしている事に、気付けなかった。
カインがいつものベンチに座り1時間待ったが、彼女は来なかった。カインも疲れたようでしばらく東屋で休む事にした。
「ごめんね、セオ。フィーが来たら、教えてくれる?」
そう言うと、カインは東屋で身体を横たえた。セオドアは「わかった」と答えてベンチを見澄ました。しかし、しばらく待っても、彼女は来なかった。
それからだ。カインの体調は良くなるどころか、悪化していった。カインに生きようという気概がないのだ。その事に、セオドアは焦った。そんなにも彼女がいいのか。両親やセオドアではダメなのか。イライラして、ついセオドアは病床のカインを責めたことがあった。
「生きる事を諦めないでください!残される僕たちの事を考えてください!」
「・・・」
「早く良くなって、一緒に植物園に行きましょう」
それまで宙をぼんやり見ていたカインが、セオドアのその一言でセオドアに顔を向けた。
「・・・お前がそれを言うの」
「・・・え?」
「セオはいつも、自分の事しか考えてないな。僕は、お前たちの為に生きてる訳じゃない・・・」
頭をガツンと殴られたような感覚。心が冷えていく。
「・・・自分の事しか考えてないのは、どっちだよ!」
セオドアは堪らず部屋を飛び出した。
それから1週間も経たずに、カインは僕たちを置いて逝ってしまった。




