夢の中1
「・・・オ・・・セオ・・・セーオ」
「・・・セオ・・・セオっ!」
「起きろっ!」
「っ!」
ずっと自分を呼ぶ声がしていた様な気がする。
「いつまで寝てるの。今日は植物園に行くって言ったろ。早く支度して」
すぐ横から聞こえてきた懐かしい声に、勢いよく体を起こして振り向くと、ベッドサイドには兄のカインが立っていた。
「に、いさん?」
「うん?」
「なんで・・・」
「なんでって、セオが全然起きてこないから起こしにきたんだよ」
「・・・兄さん、ベッドから起き上がって大丈夫なの?」
「問題ないよ。セオこそ、なんか変じゃない?大丈夫?」
「あ、いや・・・大丈夫・・・」
「なら良かった。僕は先にエントランスで待ってるから、早くおいで」
そう言うと、カインはセオドアに向かって微笑んで部屋を出て行った。
(なんだか頭が痛い・・・)
セオドアはベッドから降り立ち、周りを見回した。そこは見慣れた自室であるはずなのに、どこか懐かしかった。
コンコンーーー
「どうぞ」
返事の後に入ってきたのは侍女たちで、伯爵も夫人もお待ちだからと急いで着替えさせられた。
◆◆◆◆◆
「カイン。あまり走っては、お行儀が悪いですよ」
「すみません、母上!」
「いいじゃないか、マデリン。やっと元気になって、初めての外出なんだ。はしゃいでしまう気持ちもわかるよ」
「もう、貴方は子どもに甘いんだから」
セオドアは一歩後ろを歩きながら両親のやり取りを見て、どこか既視感を感じた。
「母上、兄さんはもう走っても大丈夫なのですか?」
「お医者様からは大丈夫と言われているわ。セオは心配なの?」
「はい・・・なんと言えばいいのか、不安なんです」
「では、兄が無理をしない様に見張っていなさい。少しでも体調の変化があれば母に言いなさい。仲が良いのだから、ずっと側にいても文句はないでしょう」
「はい、そうします。ありがとうございます、母上」
そう言うと、セオドアはカインの方へ走って行った。その後ろ姿を、母のマデリンは優しく見つめていた。
◆◆◆◆◆
「母上!このチョコレートはすごく美味しいです。母上もどうぞ」
「まぁ、では1つ頂こうかしら」
美味しそうにチョコを頬張るカインは、まるで9歳には見えなかった。生まれてからずっとベッドでの生活だった為、線が細く小さい。外出もままならなかったカインが、こうしてカフェに来てチョコを食べるのは初めてだった。
その日は珍しく晴天で気温が上がった為か、どんどん客が入ってきてあっという間に満席になってしまった。店員も注文を取ったり、給仕にと慌ただしく動いている。そんな店内を見ていると、入り口が開きまた新たな客が入ってきた。どうやら母子のようだ。なんとなくその子どもを見た時、トクンっと胸が鳴ったような気がした。その子どもはまるで人形の様な美しさで、視線が離せなかった。
「綺麗な子だな・・・どちらの家の子だろう」
カインもその子を見ていたのだろう。セオドアが頷く。
「本当に、綺麗だね」
「見ない顔ね・・・でも、あの髪色と瞳の色はキャンベル公爵家じゃないかしら。数年前にキャンベル公爵家のエラ様がご結婚されたから、エラ様のお嬢様かしら」
「公爵家?僕たちとは住む世界が違うね」
「あら、子どものうちはそんな事気にしなくてもいいと思うわ。気になるなら、お声がけしてみたら?」
偶然にも席がいっぱいだった為、お人形のように綺麗な子はセオドアたちの席と相席となった。声を掛けるまたとないチャンスだったが、カインもセオドアも声を掛けることはできなかった。




