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薔薇の名前  作者: 菖蒲
19/26

夢の中1





「・・・オ・・・セオ・・・セーオ」

「・・・セオ・・・セオっ!」

「起きろっ!」


「っ!」


ずっと自分を呼ぶ声がしていた様な気がする。


「いつまで寝てるの。今日は植物園に行くって言ったろ。早く支度して」


すぐ横から聞こえてきた懐かしい声に、勢いよく体を起こして振り向くと、ベッドサイドには兄のカインが立っていた。


「に、いさん?」

「うん?」

「なんで・・・」

「なんでって、セオが全然起きてこないから起こしにきたんだよ」

「・・・兄さん、ベッドから起き上がって大丈夫なの?」

「問題ないよ。セオこそ、なんか変じゃない?大丈夫?」

「あ、いや・・・大丈夫・・・」

「なら良かった。僕は先にエントランスで待ってるから、早くおいで」


そう言うと、カインはセオドアに向かって微笑んで部屋を出て行った。


(なんだか頭が痛い・・・)


セオドアはベッドから降り立ち、周りを見回した。そこは見慣れた自室であるはずなのに、どこか懐かしかった。


コンコンーーー


「どうぞ」


返事の後に入ってきたのは侍女たちで、伯爵も夫人もお待ちだからと急いで着替えさせられた。






◆◆◆◆◆






「カイン。あまり走っては、お行儀が悪いですよ」

「すみません、母上!」

「いいじゃないか、マデリン。やっと元気になって、初めての外出なんだ。はしゃいでしまう気持ちもわかるよ」

「もう、貴方は子どもに甘いんだから」


セオドアは一歩後ろを歩きながら両親のやり取りを見て、どこか既視感を感じた。


「母上、兄さんはもう走っても大丈夫なのですか?」

「お医者様からは大丈夫と言われているわ。セオは心配なの?」

「はい・・・なんと言えばいいのか、不安なんです」

「では、兄が無理をしない様に見張っていなさい。少しでも体調の変化があれば母に言いなさい。仲が良いのだから、ずっと側にいても文句はないでしょう」

「はい、そうします。ありがとうございます、母上」


そう言うと、セオドアはカインの方へ走って行った。その後ろ姿を、母のマデリンは優しく見つめていた。






◆◆◆◆◆






「母上!このチョコレートはすごく美味しいです。母上もどうぞ」

「まぁ、では1つ頂こうかしら」


美味しそうにチョコを頬張るカインは、まるで9歳には見えなかった。生まれてからずっとベッドでの生活だった為、線が細く小さい。外出もままならなかったカインが、こうしてカフェに来てチョコを食べるのは初めてだった。

その日は珍しく晴天で気温が上がった為か、どんどん客が入ってきてあっという間に満席になってしまった。店員も注文を取ったり、給仕にと慌ただしく動いている。そんな店内を見ていると、入り口が開きまた新たな客が入ってきた。どうやら母子のようだ。なんとなくその子どもを見た時、トクンっと胸が鳴ったような気がした。その子どもはまるで人形の様な美しさで、視線が離せなかった。


「綺麗な子だな・・・どちらの家の子だろう」


カインもその子を見ていたのだろう。セオドアが頷く。


「本当に、綺麗だね」

「見ない顔ね・・・でも、あの髪色と瞳の色はキャンベル公爵家じゃないかしら。数年前にキャンベル公爵家のエラ様がご結婚されたから、エラ様のお嬢様かしら」

「公爵家?僕たちとは住む世界が違うね」

「あら、子どものうちはそんな事気にしなくてもいいと思うわ。気になるなら、お声がけしてみたら?」


偶然にも席がいっぱいだった為、お人形のように綺麗な子はセオドアたちの席と相席となった。声を掛けるまたとないチャンスだったが、カインもセオドアも声を掛けることはできなかった。






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