昏倒
昨日投稿できなかったので、今日はもう1話投稿します。
「今日は来てくれて、本当にありがとう」
「いえ、お待たせしてしまって、申し訳ございません。もういらっしゃらないかと思っていました・・・」
「諦めきれなかったんです。フェイなら、きっと来てくれると思って・・・」
セオドアのその言葉に、フェリシティはなぜか頬がふにゃっと緩みそうになるのを堪えた。これから大事な話をしなければならないのだから。もしかしたら、セオドアを深く傷付けてしまうかもしれない。
「私はセオ様に話さなければいけない事があって、来ました。少しお時間をいただけますか?」
「ええ、構いません」
「ありがとうございます。
セオ様にとっては、悲しいお話しになるかもしれません。もし途中で止めたい時には、おっしゃってください」
「わかりました」
「私は5歳の頃から日記を書いているんです。日記と言っても、ある方に宛てた手紙のような形式で。
そのある方というのは、"セオドア"様です。ここで出てくる"セオドア"様は、セオ様ではありません。夜のような黒髪に、明るく輝くブルーサファイアの瞳の、"セオドア"様です 」
フェリシティはちらっとセオドアの方を伺った。セオドアは信じられない、と言うように口元に手を当て、瞳を大きく見開いている。それでもセオドアが何も言わないようなので、フェリシティは続けた。
「"セオドア"様との出会いは私が4歳の頃、"セオドア"様は5歳上の9歳でした。9歳でも背は私と同じくらいで、私よりも線が細かったです。自分の事を少食なんだとおっしゃっていて、私は少し疑問に思いましたが、それを信じていました。
このローズ・ガーデンで出会って、それ以降も度々ローズ・ガーデンで会っていました。口にはしませんでしたが、お互いに孤独で、通じるものがあったのでしょう。一緒にいるのがとても楽で、子どもながらに愛おしくて、私の初恋でした。
しばらくして、私の前にセオ様が現れました。私に、『もう兄さんに会わないで欲しい』と言うのです。何の事だかわかりませんでした」
そこでセオドアが口元を覆っていた手を外し、口を開いた。
「私、ですか?」
「はい、7歳のセオ様です。それから私はお祖父様に引き取られる事になり、こちらに来ることもできなくなり、"セオドア"様に会う事もなくなりました。
会えなくなって、少しでも"セオドア"様の事が知りたいと思って、私調べたんです。
ウェスト伯爵家には、男児が2人いて、セオ様と・・・カイン様という、セオ様のお兄様がいらっしゃると」
「・・・っ」
零れ落ちそうなくらいに見開いたセオドアの瞳からは、様々な感情が入り混じっているように見えた。
フェリシティはゆっくりと続きを話し始める。
「カイン様は生まれつきお体が弱くて、公の場には一度も出ていません。お姿までは確認できませんでしたが、私が会っていた"セオドア"様はカイン様なのだと確信しました。カイン様がどのような理由でローズ・ガーデンにいらっしゃっていたのか分かりませんが、私とここで会っていた事によって体調が悪化してしまった可能性があります。私と会わなくなってから、1年も経たずにカイン様の訃報が届きました」
セオドアの体が小刻みに震えていた。
「・・・セオ様がカイン様について覚えていないのは、これまで一緒にいてわかりました。こうしてお話ししてもいいのか、悩みました・・・けれど、嘘はつけません。手紙の真実を話そうとすれば、どうしてもカイン様との話は避けて通れません。謝罪では足りないと思います。私がセオ様の隣に立つ資格はないと、わかっていますが・・・すべてを踏まえた上で、セオ様のお気持ちをお聞かせください」
そうしてフェリシティがセオドアの瞳を見つめていると、セオドアは頭を振った・・・と思いきや、意識を失い倒れ込んでしまった。




