カントリーハウスにて
遅くなりました。
いつだったろうーーー
そう、確か霧が出ていた、あの日ーーー
「もう兄さんに会わないで欲しい」
"セオドア"とよく似た色合いの男の子。でも瞳の色はブルーサファイアで、"セオドア"よりも濃いブルー。そのブルーサファイアには、嫌悪の感情が浮かんでいてーーー
◆◆◆◆◆
「フェイ様。ハロルド様は諸用で領地に戻られたそうです」
グレースの言葉に、顔を向ける。
「私たちも領地に向かいましょう。準備をお願いできる?」
「承知致しました」
(お祖父様とも、一度ちゃんとお話ししないと・・・
セオ様には申し訳ないけれど、セオ様との話はそれからだわ)
そうして向かった領地のカントリーハウスで待っていたのは、お祖父様に指示を受けてフェリシティを待っていた使用人たちだけだった。グレースが嘘をついた訳ではない。厳つい顔とは違い愛情深いお祖父様は、本気でセオドアとフェリシティを離そうとしているようだ。フェリシティのみ、カントリーハウスで自室として使っている部屋に軟禁され、グレースは王都に戻されてしまった。グレースがお祖父様に、フェリシティが話をしたいと言っていると伝えてくれるだろうが、きっと耳を貸してくれないだろう。カントリーハウスの使用人たちは極力フェリシティを避け、協力してくれそうな人はいなかった。どうしようもなく、ただ無為に時間が過ぎていく。このままでは、セオドアともう2度と会えないかもしれない、と思い始めた頃、フェリシティに客人がきた。
◆◆◆◆◆
「タウンハウスにいらっしゃらないから、どちらに向かわれたのかとお伺いしても、『存じません』の一点張りで・・・まさかと思ってこちらに来てみて正解でしたわね」
そう言ってフェリシティににっこり笑いかけたのは、エヴァだった。
「遠くまでご足労いただき、恐れ入ります。お元気そうでなによりです」
「いえいえ、私はただのキューピッド・・・いえ、伝書鳩のようなものですわ。フェイ様もお元気そうでなにより」
「よくこちらに入って来られましたね。使用人に止められませんでしたか?」
「止められましたわ。でも、私口が達者ですので、使用人の方を説得して入れていただきましたの」
「まぁ・・・それはご無礼を・・・ご迷惑をおかけして・・・」
「いいえいいえ、私はフェイ様の味方ですから。
所で、私がこちらに伺ったのは、こちらをお渡しする為ですわ」
そう言って差し出されたのは白い封筒。エヴァとは個人的にも交友があり、なんの疑問も持たずに封筒を受け取る。裏面を確認しても差出人の名前はない。
「こちらは・・・私宛なのですか?わざわざこれを届けに領地まで?」
「ええ。1度頼まれた事は、最後まで責任を持たないと。ささっ、開けてくださいまし」
「では、失礼して」
封筒の中から出てきたのは、1枚の手紙。書かれた内容は短いもので、下には「セオドア」の文字が踊る。
「・・・セオ様、やはり心配してくださっているのですね」
「それはもう!仕事も手に付かないのではないでしょうか。キャンベル家のタウンハウスにもお邪魔したそうですが、公爵閣下に冷たくあしらわれたそうですわ」
「お祖父様が・・・」
「フェイ様、どうされますの?」
「・・・」
「私で良ければ、力になりますわ」
「そんな・・・エヴァ様にこれ以上ご迷惑をおかけするわけには・・・」
「いえいえ迷惑だなんて、こちらは楽しんでやっているのですから、お気遣いなく。さぁ、フェイ様、いかがなさいます?」
「・・・コーンウォリス伯爵家のオリヴァー様に伝えていただけますか?カントリーハウスに来て欲しいと」
「かしこまりましたわ」
「エヴァ様、どうぞこちらをお持ちください。これを見せれば、コーンウォリス家の方もすぐにオリヴァー様に会わせてくれるかと・・・」
「まぁ、ありがとうございます。ありがたくお借りしますわね」
エヴァに渡したのは、お祖父様からいただいたキャンベル家の後継に伝わる指輪。そこにはキャンベル家の紋章が刻印されている。
「必ず、オリヴァー様をお連れしますわ。フェイ様、もう少しお待ちくださいませね」
そう言って颯爽と去っていくエヴァの後ろ姿を、フェリシティは万感の思いで見送った。




