散歩
ここから、フェリシティの話になります。
パパはあれから屋敷に帰ってこない。
ママは、見たことがない。
グレースからママの肖像画を見せてもらった。
全体的な色合いはフェリシティと同じだが、顔はパパの方が似ているなと感じた。
グレースと2人きりの生活は幸せだったけど、それがおかしい事だって、だんだん分かってきた。
グレースに聞いてみたこともあった。
「なんで、パパもママもいないの?」
グレースはやっぱり悲しそうに答えた。
「お二人共、お仕事や社交でお忙しいのですよ」
『仕事』や『社交』がどんなものかわからない。
でも、一度も顔を見せないのは、フェリシティを見たくないだけではないのか・・・
パパが屋敷に帰ってきた時言っていた言葉、
『コイツの子守りなんて、お前も大変だな』
フェリシティの事を『コイツ』って言ってた。
嫌悪を隠してなかった。
子どもだから解らないと思って言ってるんだ。
パパもママも、フェリシティの事が嫌いなんだ。
フェリシティはいらない子なんだ。
それまで幸せだったと思っていたものが、崩れていく。
何も知らずに笑っていたのが、バカみたい・・・
それからフェリシティは笑わなくなった。
何をしていても楽しくなかった。
◆◆◆◆◆
「外にお散歩に行きましょう。
王立植物園のローズ・ガーデンが、見頃だそうです」
本を見ていたフェリシティに、グレースが声をかけた。フェリシティはちらっとグレースを見た。
「お外は危ないからダメって言ってたのに、いいの?」
外に興味をそそられたのか、開いていた植物図鑑を閉じてグレースに体を向ける。
最近は絵本ではなく、図鑑を見ていることが多い。物語に夢を見られなくなったからだ。
「ええ、旦那様も奥様も連絡が取れず、許可を待っていてはバラの季節が過ぎてしまいます」
雇い主であるフェリシティの両親に許可を取らずフェリシティを外出させれば、グレースが解雇されてしまうのではないか。フェリシティは躊躇った。
「・・・グレースが怒られない?」
グレースはフェリシティの問いに、優しく微笑んだ。
「まさか。怒られたりしません。フェイ様については全て任されておりますから。ご安心くださいませ」
「ありがとう、グレース」
フェリシティはぎこちない笑顔を見せた。グレースは、その笑顔に胸が締め付けられる思いがした。
◆◆◆◆◆
王立植物園までは馬車で向かった。植物園に入ってからローズ・ガーデンまで、フェリシティのスピードでゆっくり歩く。雲の多い国だけど、今日は快晴。段々と暖かくなってきて、お散歩が気持ちいい。
やがて見えてきたローズ・ガーデンは色とりどりのバラが咲き乱れ、華やかなバラの香りが頬をくすぐる。フェリシティも自然に笑顔になった。
「わぁ!見て、グレース!すごく綺麗ね!」
「ええ、そうですね。本当に綺麗です」
グレースはバラを見ているというより、バラを見て楽しげな声を上げるフェリシティを見ていた。最近笑うことのなかったフェリシティの笑顔に、グレースも安堵する。
しばらく歩き、気になるバラを見つけては立ち止まり、見た目と匂いを楽しんだ。
「フェイ様、大丈夫ですか?
少しベンチで休みましょうか?」
ずっと歩いていたので、グレースが心配してくれた。
「そうね。喉も渇いたな」
「でしたら、あちらのカフェで一休みしましょう」
そう言ってグレースの指差す方へ歩き出した。




