フィー
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フェリシティ
君の気持ちが知りたい。
7日後の14時に王立植物園で待っている。
セオドア
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たったそれだけの手紙。急いで書いたのだろう、文字が少し乱れている。どれだけ心配をかけているのか、罪悪感が心を揺らす。
それでも、フェリシティには会いに行くことができなかった。
(お祖父様はいつまでここに閉じ込めておくつもりなのかしら・・・)
フェリシティは領地のカントリーハウスに軟禁されていた。ここからタウンハウスまでは馬車で2日ほど。わざわざセオドアからの手紙を王都から届けに来てくれたエヴァに、オリヴァーを呼んでくれるように頼んだが、果たして間に合うだろうか・・・。この手紙が書かれてから、すでに4日経っている。フェリシティが来なければ、セオドアは諦めて婚約破棄を受け入れるのだろうか。それでもフェリシティは構わなかったが、セオドアに会ってどうしても話さなければいけない事があった。
4歳の時に出会った、"セオドア"のことをーーー
◆◆◆◆◆
フェリシティは子どもらしくない、子どもだった。
物心つくまで、両親の顔を知らずに育った。フェリシティの世界は、グレースだけだった。公爵家の広いタウンハウスでグレースと2人きり、賑やかではないが静かで幸せな時間を過ごしていた。何も知らずに。知らなければ、もう少し無邪気なままでいられたのかもしれない。
もうすぐ4歳の誕生日という時期に、それまで誰も訪れた事のないフェリシティの家に、若い男性が訪れた。初めて会う男性に、フェリシティは怯えてグレースの背後に隠れた。
「コイツの子守りなんて、お前も大変だな、グレース」
「ジェイコブ様、お帰りなさいませ」
「ああ。またすぐに出る。馬車を待たせているんだ」
「承知致しました」
「アイツも大概だな。俺も同じものだが」
そう言って、男性はいなくなった。男性はフェリシティの事を知っているようだったが、誰だったのだろう。
「グレース、あの人は誰?」
いつもなら、優しいグレースの顔が怖かった。
「フェイ様の、お父様ですよ」
「おとーさま?」
「そうです。前に読んで差し上げた絵本、『ルーシーとレイラ』に出てきた『パパ』と同じ意味です」
『ルーシーとレイラ』は小さい頃に大好きだった絵本。明るい姉ルーシーと、人見知りで大人しい妹レイラの話。
「フィーの、『パパ』?」
まだフェリシティと言えなくて、子どもの頃自分の事を「フィー」と呼んでいた。
「そうです」
「あの人が、『パパ』・・・」
それまでのフェリシティの世界に、突然現れた『パパ』。そして、どこかに『ママ』もいるんだと悟った。
「グレース、フィーの『ママ』もいるの?」
グレースは悲しそうな顔で答えてくれた。
「ええ、おります。お会いになりたいですか?」
グレースの悲しそうな顔を見て、
会いたいーーー
と、言えなくなった。
グレースは私が『ママ』に会いたいと言ったら悲しむ。でも、それは私が悲しい思いをすると思ってるから・・・そんな気がした。
「ううん、グレースがいてくれればいい」
そう言って、グレースに抱き着いた。
会いたい、と答えなかったけど、グレースは悲しそうな顔のままだった。




