優しさ
「閣下、お待ちください!私の話を聞いていただけませんか!?」
「見苦しい。フェイには、私から伝えおく。金輪際、フェイに関わらないように」
そう言うと、キャンベル公爵は部屋を出て行った。全く取り付く島がない。キャンベル公爵が出て行ってすぐ、グレースが入ってきた。
「ウェスト伯爵、お帰りはこちらでございます」
せめて、フェリシティが元気でいるかだけでも、知りたかった。
「・・・フェリシティは、元気なのか?」
問いかける声には、力が無い。
侍女であるグレースが雇い主である公爵の意向に従い、答えてくれるとは思わなかった。
「私からは申せません」
「この薔薇だけでも、渡してもらえないだろうか」
「承知致しました。お預かりいたします。
・・・ウェスト伯爵、一言よろしいでしょうか」
セオドアは無言で頷いた。
「どうか、フェリシティ様をお見捨てにならないで下さい」
グレースの言葉に、セオドアは苦笑しながら返す。
「・・・・・・見捨てるつもりなんてないさ。フェイの口から、真実を聞くまでは・・・」
「・・・・・・・・・フェリシティ様を、よろしくお願いいたします」
そう言って、グレースは深々と頭を下げた。
◆◆◆◆◆
キャンベル公爵家のタウンハウスを突撃訪問してから数日。いまだにフェリシティからの返事は届かない。幸い、婚約破棄には双方の同意がないと成立しない為、しばらくは猶予があるだろう。ただ、キャンベル公爵が権力を使い、一方的に破棄させる事もあるかもしれない。なるべく早く、公爵の誤解を解き、フェリシティと話がしたい。
公爵が出席しそうな夜会にも顔を出してみるが、なかなか会えない。あちらも避けているのかもしれない。
手をこまねいていると、とある人物から手紙が届いた。
ラブレターの差出人では、と思われていたエヴァからだった。
◆◆◆◆◆
「最近、フェリシティ様をお見かけしませんの。
お手紙のお返事もいただけなくて・・・
ウェスト伯爵ならなにかご存知ではないかと思ったのですけど・・・」
エヴァはセオドアの顔をチラッと見て、ため息を吐いた。
「全く、なんて顔をしておりますの?ちゃんと寝ていらっしゃいます?フェリシティ様の事を心配して来てみれば、伯爵までその有様。
伯爵にはフェリシティ様を任せられませんわね」
「すまない、レディ・エヴァ。君と以前会った時のことを、キャンベル公爵に誤解されてね。婚約破棄の危機なんだ・・・。
フェリシティに手紙を送ったんだが、こちらも返事がなく・・・。
私は嫌われているんだろうか・・・」
「慰めて欲しいなら、夜の蝶たちにお願いしてみては?フェリシティ様も、こんな腑抜けの何がいいのかしら・・・」
「えっ?なんだって?」
最後の方は声が小さく、聞き取れなかった。
「いえ、なんでもございません。
・・・仕方ありませんわね。
フェリシティ様と特別仲の良い私が、
貴方のお手紙を直接届けて差し上げますわ。
さぁ、さっさと便箋を用意なさい!」
エヴァの言葉に、セオドアは顔を上げた。
「っ!ありがとう!君は優しいんだね」
「・・・」
「待っててくれ、すぐに書く・・・っすまない!ずっと立たせたままだったね。どうぞソファに掛けて、ゆっくりしてくれ」
「・・・・・・素直なところに惚れたのかしら・・・」
エヴァの小さな呟きは、セオドアに届かなかった。




