99、島その2
「うーん、平和だ」
昨夜の光る島の中は本当に幻想的だった。
淡く光る木の葉や草花と、その間を明滅しながら飛び交う虫や鳥たち。そんな光景を楽しみながら再び山を登り、山頂からの景色を堪能していたところで、始まった時と同じようにゆっくり静かに光量を落として終わった。光っていたのは六時間ほどだろうか。
(まぁ結局、なんで光ってるのかはさっぱり分からなかったけどね)
そしてその後は予定通り船内のハンモックで休み、今日は朝から島のある海域を西の端から東の端へとジグザグに向かっているところ。
おそらく全ての島で共通するであろう動植物がアンノウンだったことから、この海域には人はおろかある程度以上の知性を持った生き物も居ないと思われる。しかし、いちおう念のためにというのと、後は観光ともう一つ別の目的もあり、全ての島を見て回ることになった。
昨日に続き晴天で相変わらず水深は浅め、海獣はもちろん襲いかかってくるような魔物もいない実に穏やかな航海。
今日は風が弱めなのと、どちらかと言うと観光の比重が大きいということもあり、朝から魔法の風で帆を膨らませて分体の操舵手のみで船を動かしている。
そして、初めて船が壊されずに創造二日目に突入したということで、午前中はきゃっきゃうふふな甲板大清掃大会が開催されたりもしたが、今は見張り台に居たり船首に居たりとそれぞれ思い思いに過ごしている。
(すべて世は事もなし、だなぁ)
さすがに今日は予想外の出来事は起こらないだろう。だが、そんな日も悪くない。
ーーーーーー
「では、ここを我々の秘密基地とする!」
「「おー!」」
そして海域東端で再び船内泊をした翌日昼過ぎに、全員一致で目をつけていた島にやって来た。
これが、昨日言っていた島を見て回ったもう一つの別の目的である。
「いやー、やっぱここだよね」
「ええ、ここ以上の場所はないですね」
オレの言葉にアリスが応え、他の嫁たちもうんうんと頷いている。
その島は海域の南端にあり、形はほぼ円形。周囲はぐるっと高い岩壁で一見すると船からの上陸は難しそうだが、実は南側に一ヶ所穴が開いていて小舟で内側に入れるようになっているのだ。
「じゃあ、上陸するぞー」
「「おー!」」
例によって雰囲気重視で錨を下ろして小舟で向かう。
「「わー、いい感じです」」
と双子がテンションを上げる。
小さな岩の洞窟を抜けると、そこには真上からの陽に明るく照らされた円形の空間と小さな砂浜があった。
「「せーのっ!」」
これまた例によって、掛け声とともにいっせいに砂浜へと降り立つ。
「階段が欲しいね」
「表面をジグザグに登ってる階段がいい感じになるんじゃないかな」
オレの言葉にヒカリが応える。
砂浜のすぐ後ろはまた岩壁になっていて、外の岩壁と同じ高さまで続いているようだ。
このくらいの高さなら、飛んで行くまでもなく岩壁を蹴って跳び上がれるのだが、ここも雰囲気重視だ。
「じゃあやるよー。……『階段生成』」
相談の結果採用されたヒカリの案に従い、魔法で少し傾斜がある岩壁の形状を変えてジグザグに登る階段を生成。
二人が並べるくらいの幅に作った階段をぞろぞろ並んで登り、高台へ。
「んー、森もあっていい感じ」
「うん、悪くないわね」
と、最後尾をのんびり登って来たフェリとカーラ。
登ってすぐは草原だが、遠くには森も見えるが、平坦で山などはない感じ。この島を上から見ると、円の下端にもう一つ小さな円が入っている二重丸になっているだろう。
「では、まずは家を創ろうか」
お揃いの指輪による繋がりを利用し、《想像力の強化》というチートによってオレの脳内に精密にイメージを描いて共有する。
「まず基本の形はこれでどう?」
「おっ、いいね。ここの自然とマッチしてる」
「いいですね。では、上り下りは雰囲気的にこんな感じで」
「リビングには、のんびり出来る大きなソファーが欲しいな」
「ゆっくり読書出来るようなベランダを作りましょう」
「……キッチンスペースは大きめがいいです」
「トイレとお風呂は外せません」
「一番上まで出られると嬉しいの」
「デッキチェアだけじゃなく普通の机と椅子も欲しいので、ベランダはもっと大きくしましょう」
ヒカリの原案を元にそれぞれの意見を取り入れて修正し、そのイメージ通りに《創造》。
「「おぉ~!」」
そして出来上がったのは、草原の南寄りにそびえ立つ巨木と、その枝に載るツリーハウス。木の最上部付近には梯子で登る屋上的なデッキ。そして高さ的に全く必要はないが、家と地上を行き来する巻き上げられる縄梯子付きである。
もちろん、この巨木もこの海域の植物と同じように夜には光るように創ってあるし、建物は自動修復&自動洗浄機能付きのメンテナンスフリー仕様だ。
「よし、じゃあ中に入ろうか」
やっぱり雰囲気重視で、10メートルほどの高さを縄梯子で登ってツリーハウスの中へ。
内部は入り口から右の木の幹側にトイレ、反対に風呂。そこを抜けると幹に沿って少し弧を描いたLDKで、その先に寝室となる。家の左側はずっとベランダで、デッキチェアや小さな机や椅子が多数。
そのリビングの木の幹側の壁で、ふと思いついたのでもう一度《創造》。
「何を創ったの?」
「これは転移ゲートだよ」
「「転移ゲート?」」
ヒカリに答えると、脳が理解を拒絶したのか、嫁全員でこてんと首をかしげて聞き返してくる。
そこに創ったのは、人が一人潜れるくらいの大きさの楕円環。縁はうっすら青い銀色で幅は30センチくらい。おそらく素材はミスリルだろう。
「まぁ、ちょっと待っててよ」
と言うと、『光速行動』で移動し、対となる転移ゲートを設置して戻って来る。
「……えっと、こう、かな?」
転移ゲートの上部にはエメラルドグリーンに輝く宝石のような玉があり、そこから縁の中心を通って真ん中辺りまで模様が下りている。その模様に手を当てて魔力を流してみると、どうやら正解だったようだ。
「ふむ、こうなるのか」
楕円環の中、それまで壁だった部分が水面のように揺らぎ、向こうの景色が見えるようになった。
「ほら、みんな行くよ」
声をかけてゲートを抜けた先は、ウルーク王国北部の最初の秘密基地の館内の玄関ホール。
「「おかえりなさいませ、マスター」」
そこで出迎えてくれた精霊ズは平然としたものだ。
「やあ、島の方の秘密基地の管理もお願いね」
「「承知しました」」
執事型のセバスとメイド型のマリーにとっては一ヶ所だけでは物足りなかったようで、最初の秘密基地周辺はかなりいい感じに手が加えられて整えられている。たとえあと数ヶ所増やしてたとしても、管理に問題はないだろう。我ながら良い思いつきだった。
「――全くもう、こんなに驚かされたのは久しぶりです」
遅れてやって来た嫁たちにはひとしきり文句を言われたが、今度食べ物を《創造》するという条件で許してもらった。
(やっぱり事前に相談しないのは良くないね)
だが仕方ないのだ。二ヶ所に増えた秘密基地の管理問題とオレの好奇心を満たす手段を思いついてしまったのだから。
(でも、やっぱり作れるんだなぁ)
何も指定せずに《創造》すると空っぽなハリボテに機能だけ付与されるが、今回はこの世界で製造可能な装置として創ってみた。つまり先ほど創った転移ゲートは、いずれはこの世界の技術で再現可能なはずの物なのだ。
エメラルドグリーンに輝く宝石が何なのかさっぱり分からないし、その内部に刻まれた立体魔法陣の精緻さという技術的難度もあるが、いずれは転移ゲートで世界中が結ばれる世の中になる。そして、今現在のオレたちは、あまり寿命というものを意識する必要がない。
(いつか、そんな発展した世界をこの目で見れる)
そんな思考に胸を躍らせながら。
「一人にすると何をするか分からないので心配です」
と言って譲らないアリスを伴い、高台の中心辺りへ。
「……『刻印』」
そして発動したのは、この島の内部に魔法陣を刻み、この島自体を魔道具とする魔法。
これによって波や雨風などによる風化や地震や火山活動などによる崩壊を防ぎ、さらにウルーク王国北部にある秘密基地と共通の許可証を持たない生物全般を寄せ付けないことで、外来種によって現在の島の自然環境が変化することも防ぐのだ!
「……よし、これでOK。戻ろうか」
「ふふ。ええ、そうですね」
なんだかアリスが微笑ましいものでも見たかのような表情をしているが、なにかおかしなところがあっただろうか。
首をかしげながら寝癖がないか確認したり顔を擦ってみたりするが、笑みを深めるだけで答えてはくれない。
(……むむ、まぁいいか)
こういう時は聞いても答えてはくれないのだ。
振り返ると、ツリーハウスの屋上デッキから嫁たちが手を振っているのが見える。
(さて、明日からはまた船旅だな)
ここから先はひたすら南下し、次に目指すのは新大陸だ。




