100、新大陸
「「陸が見えたぞー!」」
島に秘密基地を創った翌日、は海水浴などを楽しんだりしたので出発したのはさらにその翌日になったが、それからひたすら南進すること二十日ほど。とうとう俺たちは南半球にある新大陸へとたどり着いたのだ。
「とうとう、着きましたね……」
例によって全員でぎゅうぎゅう詰めの見張り台の上で喜び騒ぐ嫁たちの中、感慨深そうに呟くアリス。
彼女から世界を見て回りたいという言葉を聞いたのは、出会って間もない頃。もちろん、それはオレも望んだことではあったが、思えば遠くへ来たものだ。
「そうだね、とうとう着いた。だけど、終わりじゃないよ? オレたちの世界を見て回る旅は、まだまだこれからだ」
その呟きは隣に居るオレにしか聴こえていなかったようなので、ここは会心のキメ顔で応えてみる。
「ふふっ。……そうですね、私たちはまだ世界の半分も見ていないんですよね」
オレの顔を見て吹き出したアリスは、そのままクスクス笑っている。
「そうそう。てことで、ここからどう行く?」
「そうですね。……このまま海岸沿いにぐるっと大陸を回ってみるのも面白そうですが、やっぱりまずは上陸したいですね」
「まぁ、そうなるよね」
最終的には全員の意見を聞いてから決めるのだが、先にいくつかの案を出しておいても良い。と言っても、ここまで来ておいて、アリスが言ったような先に海岸沿いをぐるっと回るという選択肢がとられることはないと思う。せいぜいここから上陸するか海岸沿いにちょっと様子を見てから上陸するか、そのくらいなものだろう――。
「「せーのっ!」」
そして当然のようにすぐに上陸するという選択がなされ、船はアイテムボックスに収納して来たが、例によって雰囲気重視の小舟で上陸。
降り立った海岸には岩がゴロゴロと転がり、その先のまばらに草が茂る平原の向こうには小高い山が見える。
砂漠というほど不毛ではないが、やや寂しい感じの風景だ。
「……わあっ! 見たことのない植物に名前が付いてますよ!」
歓声を上げたメアリが鑑定ルーペを向けているのは、くるんと巻いた分厚い葉っぱの多肉植物。確かに、これまで見たことがない物だと思う。
「おぉー! これは期待が高まりますなー」
と応じたヒカリと同じように、他の嫁たちも期待に目を輝かせている。
海獣との鬼ごっこの結果は、魔法の風を使うことで何度か勝つことも出来たが、結局自然の風任せでは一度も勝てなかった。そのことからオレたちの中では、北大陸からの移住者が存在する可能性は限りなく低いという認識になっている。
つまり、この植物に名前が付いているということは、ここには北大陸とは違う、高度な知性を有する生命体が存在するということになるのだ。
(まぁ、この植物が本当に北大陸になければ、だけどね)
北大陸でも竜の領域など行ってない場所があるのだから、見たことのない植物なんていくらでもあるだろう。しかし、島と南大陸、同じ北大陸から遠く離れた移住は難しそうな場所にそれぞれアンノウンと名前付きの植物があるのだ。こちらに北大陸とは違う知的生命体の存在を期待するのは、それほど間違ってはいないのではないかと思う。
「よし、じゃあとりあえずあの山を目指そうか」
「「おー!」」
期待はあるが、急ぐ旅というわけではない、のんびり行くとしよう。
ーーーーーー
「……あれは、街道か?」
急いでいなかったとは言えもともとたいした距離もなく、さほど時間をおかずに小高い山の頂上へと到達。そこから見える景色はそれまでとはうって変わって緑豊かな草原となっており、遠く向こうに見える山脈とのちょうど中間辺りを真っ直ぐに横切る線が見える。
「……どうやらそうみたいです。轍っぽいものも見えますよ」
手で庇を作り、目を細めたフェリ。
仲間内で一番目が良い彼女が言うなら間違いあるまい。
「これは確定したってことでいいんじゃない?」
キラキラした目で周囲に同意を求めるヒカリ。
一本道なだけであれば、干上がった川であったり、同じ道を通る習性を持った動物や魔物といった可能性もあるかもしれない。しかし、轍があるとなれば、車輪付きの乗り物で頻繁に往き来する何者かが居るのは間違いないだろう。
と、そんなことを考えていると。
「……あ、何か来ます!」
引き続き遠くを眺めていたフェリが見やるのは、左手側の街道が延びる先。
「おー、ホントだ。なんか砂煙が上がってるね」
来た日のうちに第一南大陸人と接触出来るとは運がいい。
しかし、砂煙が上がっているというのは、そういう移動手段なのか、それとも何か急いでいるのか……。
「……あ! 何かに追われてるみたいですよ」
「おぉ! ここに来て異世界テンプレ展開!?」
続くフェリの言葉に被せ気味に高速反応するヒカリ。
それはともかく、砂煙の理由が後者ならばとりあえず急がねばなるまい。
「みんな、行くよ!」
「「おー!」」
「お姫様、今行きますよー」
ヒカリは妄想を膨らませているようだが、ここはかなり辺境な感じだ。お姫様が追われている可能性は低いのではないだろうか。
なんて考えていたが。
(……マジか)
お姫様かどうかなんて、そんな問題ではなかった。はっきり見える距離にまで近づいたはいいが、追う方も追われる方も、その姿はかなりオレたちとは違うものだったのだ。
〈こ、これはちょっと想定外じゃない?〉
同じくその姿を確認したヒカリからの念話。
〈どうします? いっそ両方とも吹き飛ばしますか?〉
〈すごいです! これが南大陸……〉
物騒な提案をするカーラに、分かりやすく特徴的なその姿に喜びを見せるメアリ。
北大陸とは違う知的生命体とはいえ、せいぜい触角が生えてるとか、頭でっかちで目が大きいとか、全体的に大きくて色が青いとか、特に意識しないままその程度の違いしか想定していなかったのだ。
まず追われる方。馬車を引いたり騎獣にされたりしているのは、大きなツノを持つ水牛のような生き物。これも北大陸では見たことがないが、これはまだいい。問題はそれらを操っている方で、これがなんと、どう見ても巨大なカエルなのである。たぶん、立ち上がればオレの肩くらいの背丈にはなるだろうか。しかも、きちんと服を着てしっかりした鎧を纏っていたりと、北大陸と同じくらいの技術はありそうな感じ。
対して追う方。こちらは騎獣から変わっていて、なんと首の辺りに鞍を載せた太さ1メートルはありそうな大蛇。そしてそれに跨るのは、こちらは優にオレを超えるだろう大きさのトカゲである。こちらも武器防具を身に纏っているが、それはなんと言うか価値観の違いを感じるいびつな物。
〈どうする? もし味方するならカエルの方かな、って思うんだけど〉
トカゲの装備から感じる違和感は、いつだったかオークの装備を見た時と同様のもの。それはつまり、相容れない者に対する拒否感の表れであり、ヒカリの説風に言えば、きっと魔力の相性が悪い相手に違いない。
〈……行きましょう、どうやら追われている馬車は行商のようです。たとえどのような背景があったとしても、盗賊行為を許すわけにはいきません〉
ここで珍しく、リリィからの長台詞による意思表示。リリィ的に、思うところがあるようだ。ならば、それに応えないという選択肢はない。
他の嫁たちに視線を向けると、想いは同じようで頷きが返ってくる。
〈それなら、メアリは念のため馬車の護りで、他の全員でトカゲを片付けることにしよう。行くよ!〉
〈〈おー!!〉〉
接近中に念のため張っておいた半球状の『光学迷彩結界』を解除し、それを合図に全員で飛び出す。
「「グァーー!!」」
唐突に進路上に現れ飛びかかるオレたちに、すわ新手かとカエルたちが悲鳴を上げ慌てたようだが、とりあえず後回し。
「「ギャー!」」
突っ込むオレの眼前で、先頭二組のトカゲと騎獣ヘビ、今にも御者に襲いかからんとしていたその四体の頭部にほぼ同時に矢が突き刺さると、小さな爆発で頭部を吹き飛ばす。フェリによる先制攻撃だ。
「「シャー! グガッ……」」
後ろでそれを目撃し、警戒の叫びを上げたらしい二組。
こちらにはカーラが放った炎の槍が命中すると、瞬く間に焼き尽くした。
その間に幌馬車の上へと降り立ったメアリによって防御結界が張られる。
「「シャー! ガァー!!」」
続いて馬車後部を水牛に乗って護衛していたカエル二組を襲っていた左右四組のトカゲ。
これはそれぞれ左右二組ずつ、頭上から襲撃したアリスの槍とヒカリの薙刀から繰り出された縦方向の一振りで片方は上から、もう片方は下から前後に斬り離される。
「「ギャッ! ギャー!!」」
さらに後ろ、最後尾の護衛風の四組。
ちょっと装備が良い感じだが、こちらも左右二組ずつ。
まずは向かって右二組の間に突っ込んだリリィの双剣が同時に上から下へ左右に振られ、それによってトカゲと騎獣ヘビの頭部が同時に落とされた。
そして左二組はオレ。リリィと同じように間に突っ込み、右手の剣で片方のトカゲと騎獣ヘビの首を刎ね、もう片方は左手から放った『爆裂火球』でまとめて吹き飛ばす。
「「ギュルァ! シャー!」」
そして最後尾。さらにもう一段、質の良さそうな装備を身につけた二組には双子が当たる。
まずは、ねじれた槍を持った向かって左側。リリィに気を取られたそいつは横からのヴィナの襲撃に気づくのが遅れ、両手槌の振り上げをまともに受けて騎獣ヘビごと爆砕。
最後に盾を装備した右側。こいつもオレに気を取られた隙に、これまた横から襲いかかったディアの両手斧によって盾ごと両断されて終了。
『光学迷彩結界』の解除から十秒も経っていないだろう。まさに電撃的勝利。
(ふむ、手ごたえ的にも北大陸のオークと同程度かな)
おそらく騎獣がある分トカゲの方が面倒なくらいか。
そんなことを考えながら、どうするべきか不明な死骸は放置してそれぞれの武器を綺麗にしたりしていると、少し先まで行っていた馬車が戻って来て御者のカエルが降りて来た。どうやら、このカエルが話をするらしい。
さて、どうなることやらと第一声を待っていたのだが。
「oyatagatakikoyut、usamisahsnak、kero」
鳴き声ではないことも落ち着いた声音であることも理解は出来るのだが、その大きな口から漏れる音を言葉として認識することは出来なかった。
(お、おう。でもまぁ当然と言えば当然か)
北大陸では言語が統一されていたためすっかり油断していたが、さすがに南大陸でまで同じ言葉ということはなかったようだ。




