97、休日
「もう秋だねぇ」
海獣との鬼ごっこの結果はともかく船旅は順調で、その航路である赤道付近は常夏である。だがしかし、シェルター内の箱庭は北半球中緯度帯の季節と同調しており。
「こうしてのんびり眺める紅葉って本当にいいですねー」
さらに言うと、創った時の無意識のうちの願望を《思考からの拡張解釈》が拾ったようで、リビングに繋がるテラスから見えるのは元の世界の俺が住んでいた国のような色鮮やかな紅葉が広がる景色。
「森に住んでた時には当たり前過ぎる景色でもあっただろうからね」
と、テラスにクッションを敷いて寝そべったままフェリに応える。
今日は定期的に入れているお休みの日。普段から遊んでいるようなものなのに休みなんて必要なのかという話だが……。
(まぁ、旅にしても鬼ごっこにしても同じことばかりしてると飽きちゃうからね、気分転換する時間は必要。……きっと、たぶん、おそらく)
考え始めると自分が凄く駄目人間になった気がするテーマから全力で目をそらす。
ちなみに、全員でのんびりしていたのは休日を導入した極初期のみであり、今日もアリスとリリィはそれぞれお菓子作りと料理の研究でキッチンにこもり、カーラとヒカリは図書館で何らかの勉強中、双子は工業区画内に創った鍛冶場で腕を磨き、メアリは個室で物語の執筆中と、もともと休日という概念が薄い世界で生まれ育った者が多いせいもあってか、オレ以外のみんなは勤勉である。
「あの頃は冬の準備に忙しくて、景色を楽しむなんて考えもありませんでしたからね」
懐かしそうに寂しそうに応えるフェリは、オレのお腹を枕にくつろいでいる。それぞれが気ままに過ごす中でもオレの近くにいることの多いフェリだが、箱庭内が秋らしい涼しさのためか今日は密着度も高い。
「あ、木の実と言えば、そろそろ栗とか柿がなってそうですね」
これまた無意識のうちに望んでいたのか、箱庭内には元の世界の木の実や果物などが多く実る。そして、今日はのんびりしているが、そんな箱庭内を休日に散策して様々な食べ物があるのに気づき、他の嫁たちのために採って来るのがフェリである。
(こうして考えると、何もしてないのってオレだけ? ……いやいや、休日の過ごし方としては間違ってないよな、うん)
再び、考え始めると自分が凄く駄目人間になった気がするテーマから全力で目をそらす。
「……あー、そうだね」
一転して嬉しそうにニコニコし出したフェリに対して、一瞬言葉に詰まるオレ。
オレにとって創造した食べ物は一度口から出した物をもう一度口に入れるような感覚があり、どうしても食べる気にならない。この世界で入手した物なら、創造した食料製造区画で育成して増やしても全く気にならないのだが、箱庭内に実る物は創造して数年経つ今でも駄目なのだ。
(魔法発動前後の魔力の質に関係する面白い問題だとかカーラが言ってたっけ)
例としては召喚魔法だろうか。
一度召喚魔法として発動してしまうと、間違いなくそこに自分の魔力として存在し続けているのに、再び自分の中に戻すことも他の魔法として用いることも出来なくなる。それと同じように、一度自分の外で形作ってしまった物であるために身体が受け付けなくなっているのではないか、という話だった。
(で、そんなオレが食べられない物をフェリが嬉しそうにしちゃうのが、魔力にフェロモン的な要素があるんじゃないかっていうヒカリの説か)
それによって種族や個人を判別出来ことから分かるように、それぞれの魔力には個性がある。そして、その個性間には相性のようなものが存在するため、ゴブリンのような問答無用で襲いかかってくる相容れない魔物と飼育可能な動物といった違いが生まれるのでは、という説だ。
その説によると、その相性の良さゆえにオレと嫁たちは惹かれ合い、《創造》というチートなしではあり得ないオレの魔力によって形作られた食物が、嫁たちにとってこの上なく美味しく感じる物になるらしい。それこそ、オレが食べられないのを知っていてもなお求めてしまうほどに。
(「だから仕方ないの」とか言いながら、わざわざ目の前で美味しそうに白桃を食べてくれたっけ……)
ついついその夜にハッスルしてお返ししてしまったが、まだこの世界で発見してない桃系の果物、その中でも白桃は大好物であると話した直後に行われた暴挙だったのだから、これもまた仕方ないのだ。
(まぁ、次の日に構われたがりなフェリが全く同じことをしてくれたり、その後は他の物でもフェリが採ってくるたびに誰かが同じようにオレをからかうのが当たり前になり、コミュニケーションツールのひとつとして用いられるようになってしまったのは想定外だったけどね)
魔力の相性の話は他にもあり、指輪に嫁たちがオレの魔力を使えるようにする機能が付いているが、これも相性が悪いと使えなかったのではないかという話だった。しかし、説が正しかった場合はオレの魔力が使えない相手に指輪を渡すこともないはずなので、相性が悪いと使えないのかどうかを試す必要はないと思われる。
と、フェリの言葉から連想されたとりとめのない事をぼんやり考えていると。
「ときにアキラさん」
「なんだいフェリ」
「ふと思ったんですが、私たち以外の人々が砂漠を渡れるようになるためにはアイテムボックスと水源の魔道具の性能の向上必要という話がありましたけど、そうなってくると大型船ってあんまりいらなくなるのでは?」
ごろごろとのどを鳴らしそうな感じで目を細めているフェリからの指摘。
話しかけられて気づいたが、無意識のうちにフェリの頭をなでていたらしい。さらさらの若草色の髪の毛がとても気持ちいい。
それはともかく、フェリが言いたいのは。アイテムボックスなどの魔道具が発達すると、船などの乗り物に荷物を載せるスペースはほとんど必要なくなる。そうなると船はあまり大型化しない可能性もあるが、このまま大型船で鬼ごっこを続けていいのか? という感じだろう。
(まぁ、分からんでもない)
現在の活気づく世界情勢的に、アイテムボックスなどの魔道具は急速に性能が向上する可能性があり、そうなると物資の流通に関して元の世界のような大型の乗り物はほとんど必要がなくなると思われる。
とはいえ。
「物資の輸送には必要なくても、人を輸送するためにはそれなりの大きさが必要になるからね。移住の可能性を検証している今回は問題ないさ」
「なるほどー」
「そもそも、未来のことなんて何も分からないしね。魔力効率の革命が起きたりして、大型船の前に空を飛ぶ乗り物が一般化する可能性だってあるし。今の大型船で楽しく遊べてるんだから、それでいいんじゃない?」
「あー、真面目に考えてたのに、楽しければいいってぶっちゃけましたね」
「おっと、口が滑った」
まぁ、全員がそれを建前だとちゃんと認識しているので問題ないのだが、せっかく真面目に考えてくれていた時に言うことではなかったかもしれない。
さて、どうやって誤魔化そうかと考えていると。
「マスター、フェリ様。アリス様のケーキが完成しました」
「お、行く行く」
休日中は使い魔の体を人型に再構成して存分にメイドの役割を果たしている精霊のマリーがおやつに呼びに来たので、これ幸いとフェリの頭の下にクッションを入れて立ち上がる。
「あー、アキラさん逃げる気ですか」
「ほらほら、フェリも早く来ないと食べ損なっちゃうよ」
「むー、誤魔化されませんよアキラさん。私の心が傷ついたので謝罪と賠償を要求します」
オレの言葉を受けてしぶしぶ立ち上がったフェリだが、誤魔化されてはくれないらしい。
(うーん、オレの分のケーキを半分くらいあーんして食べさせてあげれば満足してくれるかな?)
フェリは甘い物好きなので、たぶんこれで大丈夫なはず。




