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93、南部地方

 

 

「うーん、壮観だねー」


 昨日は魔物対策に気配を消すだけでなく、人目を避けるために『光学迷彩』で姿も消して大河を飛んで渡ると、対岸とはがらっと様子を変えた砂利の川岸に上陸、その場でシェルターを設置して休んだ。

 そして今日も引き続き西へ、川から離れてまばらに木が生える背の高い草原へ入ると、さほど進まないうちに景色は広大な果樹園へと姿を変えた。


「なんだか甘い香りがします」


 使い魔のラスを乗せた頭をオレの胸にあずけるヴィナが、目を閉じて鼻をすんすん鳴らしている。


「うん、果物系のいい匂いがするね」


 さすが常夏、年中なにかしら果物が実っているのだろう。

 そんな感じで、可愛いヴィナにほっこりしつつ、のんびり道を探して果樹園の端を回り込んでいると。


〈アキラさん、町っぽい気配がありましたよ〉

〈道も発見です〉


 アリスとメアリの好奇心コンビから念話が入った。


〈了解。すぐに向かうよ〉


 さっきも「道を探してきます」と真っ先に駆け出して行ったので、今もきっと先に進みたくてうずうずしているはず。騎獣で駆ける程度には急ぐことにしよう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「なんだか、人の気配の多さのわりに小さな集落ですね」


 騎獣を降りてぞろぞろと向かう先にあるのは、風通しが良さそうな木造の高床式住居が立ち並ぶ集落。百人も居れば溢れそうな大きさだが、中心部付近の気配はその倍くらいは居る。


「……ふむ、確かに」

「どうします?」

「まぁ、争ってる感じはないし、このまま行ってみようか。いいかな?」

「はい、了解です」


 先頭を行くアリスとの話に、他の嫁たちも頷いて同意を示す。

 そうこうしているうちにたどり着いた集落の端には1メートルほどの高さの柵と簡易な門があり。


「おう、東から来るとか、道にでも迷ったのか? もうみんな広場に集まってるから、お前らも急げよ」


 兵士っぽい姿のおっちゃんから、よく分からない指示を受けた。


〈どうする?〉

〈大丈夫だと思います。行きましょう〉


 今度はオレから問いかけるとメアリからゴーサインが出た。

 さらに。


〈いいんじゃない? 面白そう〉


 何か心当たりがあるらしいメアリのキラキラした表情を見たヒカリが賛同し、他の嫁たちも異存はない様子。

 ちなみに、いつものように『認識修整』によってオレたちの姿はどこにでもいる冒険者に見えているはずである。


(つまり、何か冒険者を集める用事があるってことなんだろうね)


 そんなことを考えながら集落中央の広場へ行くと、案の定、そこには大勢の冒険者が行列を作っていた。


〈やっぱ南国感があるわね〉

〈暑い中での防御力の確保は難しい問題です〉

〈まさかビキニアーマーが実際するなんて……〉


 ヒカリと双子の感想からも分かるが、集まっている冒険者たちの姿は常夏の気候を反映してか上半身裸に盾装備だったりビキニアーマーだったりと、軽装どころか半裸と言ってもいい装備の者が多い。

 双子は、三年前に鍛治を始めて以降、シェルターの工業区画内に創った鍛治施設でちょくちょく武器や鎧といった物を作っているので、南国の冒険者たちの装備に何か思うところがあったようだ。

 そんな冒険者たちから聞こえてくる。


「今年は最初から参加できて良かったな」

「アンタが直前に違う依頼受けちまったせいで、去年は途中参加だったからねぇ」

「あはは、悪かったって。今年は五日間頑張らせてもらうよ」

「もう、アンタはただでさえうっかりなんだから、大勢でボコれるからって油断してると大怪我じゃすまないよ」


 とか。


「今年は稼がせてもらうぜ」

「去年はお前のせいで全然だったからなー」

「馬っ鹿! 去年は途中で剣が折れたんだから仕方ねーだろ! 今年は斧だし、予備も持って来てっから大丈夫だ!」

「今年折れるのはお前の首の方かもなー」

「ちょ、お前!? シャレにならんこと言うなよな!」

「「ハハハハハ!」」


 みたいな会話から分かるのは。


〈期間限定の硬い魔物みたいだね〉


 といったところか。

 そんなオレの言葉を受けて。


〈硬い場合、プランCだと弓矢じゃ厳しそうだし、今日は出番なしかな?〉

〈弓装備の人もですが、魔法使いも少ない感じですね。まあ、わたしは殺りますけどね〉


 フェリは見学を、目立たない方法を考えてあるのかカーラは参戦を選んだ。

 ちなみに、プランCとは目立たないようにCランク冒険者相当の力で戦うという意味の、人目につく場所用の符丁である。

 と、そんな感じで念話で駄弁っていると行列が動き出し、先頭の冒険者たちから順に村の外へ出て東西南北に散り始めた。

 どうやら、カードで冒険者ランクを確認して振り分けているようだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「じゃあ始めるぞー」


 上半身裸に短パンサンダル履きで日焼けした逞しいおっちゃん村人は、 50センチほどの高さの井の字型に積み上げられた薪に火をつけると。


「『〜〜〜〜、継続する微風』、……くはぁっ」


 魔法を発動。

 しばらく汗だくで膝に手をついて息を整えていたおっちゃん村人だったが、ヘソ出しノースリーブの短パンサンダルおばちゃんに付き添われて帰った。他に若者から壮年まで五人の村人の男たちが残っているが、討伐された魔物を村に運ぶのだそうだ。

 そして発動した魔法。これが効果時間は四時間ほどで指定方向へ微風を吹かせ続けるというなかなか高威力なものだと思うのだが、南部地方に連綿と受け継がれて来たもので、生活魔法に分類されるらしい。


(学習能力上昇なしであの長ったらしい呪文覚えてるってスゲーな)


 なんて感心していると。

 

「お、早速お出ましだぜえ」

「敵視認! 六匹だ!」

「しゃー! やるぞ、お前らー!」

「「オラーー!!」」


 果樹園の切れ目から姿を現し、ふらふらと近寄ってきた魔物に突撃する冒険者たち。その魔物は、気配でなんとなく察してはいたが、やはり大河を渡る前に見かけていた羽蟻である。と言っても、オレたちが相手をするのは、巣を作る前段階で護衛として体長1.5メートルほどの戦士蟻を五、六匹産んで引き連れた、羽が抜け落ちた女王蟻である。


〈ああ、やはり間違いありません〉

〈知っているのかメアリ〉

〈ええ、これこそが乾季の蟻渡り。私の知る物語に、太古より伝わる叡智によってもたらされる大いなる恵みと記されていた祭事です〉


 それはそれは嬉しそうに語るメアリによると、この蟻の魔物が地中に巣を作ると果樹の根が傷ついて枯れてしまうため、大河のこちら側に生息域を広げられるわけにはいかないそうだ。そこで、今回の冒険者たちの出番となる。

 まず、最初に火をつけられた薪には錬金術で作られた薬液が染み込ませてあり、それを燃やした煙が巣作りしようとする女王蟻を呼び寄せる効果があるらしく、この薬液と風を吹かせる生活魔法がいわゆる太古の叡智。また、そうしておびき出されて狩られた蟻たちの討伐総数に応じて冒険者には報酬が支払われ、その魔物素材が村で処理されて武具の素材や貴重な薬の原料といった様々な物に加工されて村の財源となり、これが大いなる恵みとなるのだとか。

 そして、なんとこのお祭りは、この時期の南部地方の大河沿いの各地で行われているそうだ。


〈年に五日しかないお祭りの初日の朝に村にたどり着いて参加できるなんて、さすがアキラさんです〉


 と締めくくるメアリ。どうやら、オレの無駄に高い幸運値が良い仕事をしたらしい。

 ちなみに、この間0.1秒。思考速度上昇を用い、刹那の間に行われた長い長いモノローグであった。

 と、そんなことをしながら突撃する冒険者たちの少し後ろを走っていると。


「おらぁっ! 初撃はいただいたぜ!」


 オレたちが割り振られたのは村の南側、二十人の3パーティ。その中の男女混成九人パーティの中の一人、十代後半の半裸男が一歩抜け出し両手剣を振り下ろすが。


「……あっ、くそっ!」

「ちぃっ! 若造が! 先走んなって言ったろうが!」


 4本の後脚で起き上がった戦士蟻の長く鋭い爪がある前脚であっさり受け流され、ごつい牙に挟まれそうになったところを大楯を持った半裸マッチョに庇われて難を逃れた。


〈戦士蟻と大楯マッチョがCランクで女王アリと大剣小僧がEランク、他のメンバーはCとDランクが半々って感じかね〉


 ただでさえ童顔な人種なうえに不老化しているオレに小僧などと呼ばれていると知られたらキレられそうだが、興味がなさすぎて一度自己紹介されたくらいでは名前を覚えられないので仕方ない。

 そうこうしていると、先の九人パーティで戦士蟻一号を相手取り、オレと嫁たちプラス細マッチョコンビが女王蟻を背後にかばう戦士蟻四匹を足止めする型になった。

 女王蟻たちには縄張り意識があって適度に分散しているそうで、実際に感じる気配でも女王蟻一パーティあたり二十〜三十分は時間をかけられそうである。


(うん、いい感じなんじゃない?)


 なんて思っていると。


「おらぁっ! やばっ……!」

「しまった! ……なにっ!?」


 順調に追い詰められつつあった戦士蟻一号に大剣小僧が大振りして自ら大楯マッチョを遠ざけ、危うく一号から串刺しにされそうになるが。


「……ふっ!〈……危なっかしくて見ていられないので、大怪我しない程度に私が援護しておきます〉」


 三号と切り結びながらもリリィが細く絞った殺気を一号へと飛ばし、その刺突をキャンセルさせて事なきを得た。しかし、リリィのその行動は一号に大きな隙を作ることにもなり。


「シッ! これで終わりだ!」


 剣と盾とビキニアーマー装備のお色気姉さんが一号の首を刎ねたことで、それまでかろうじて保たれていた均衡を崩した。


「おっし! 次行くぞ、油断すんなよ!」

「くっそー、次こそは俺が仕留めてやる!」


 そして、一度勢いがついてしまったらもう止まらない。


「後は任せます」


 オレが、足止めしていた二号を細マッチョコンビと九人パーティに任せて移動している間に。


〈我慢して杖で突ついてましたけど、もう殺っちゃっていいですよね? ということでアキラさん、『認識修整』を魔法使っても分からないくらい強めにお願いします〉


 なんて言い出したカーラの魔法により、三号の首と胴体と腹部が斬り分けられ。


〈なんてこと、さすがはカーラ! その手があったなんて。ということでアキラさん、私にも強めにお願いします〉


 と、当初の予定と違って短剣で三号の気を引いていたフェリが矢を放ち、その背後に隠れていた女王蟻の頭部に風穴を開け。


〈ん? もういいの? じゃあ私が貰います。えーいっ!〉

〈もう、仕方ないなー〉

〈あっ……〉


 それまでにも何度か痛撃を与えていたディアがヒカリとヴィナより先に宣言し、ふらふらの四号の頭部を両手斧で砕き割り。


〈こうなってはやむを得ません。私が貰っていいですか?〉

〈あ、そうですね。お願いします〉


 一匹残すのもどうかと思ったらしいアリスにメアリが譲り、振るわれた槍によってあっさりと五号の首が刎ねられ。

 と、そんなことをしている間に。


「今度こそ、おらぁっ!!」

「……ふっ!〈……まったく、世話がやける〉」

「よく分からんが、隙あり!」


 大剣小僧が再び無謀な大振り。そして、それをフォローしたリリィによって二号は大きな隙を晒し、細マッチョコンビの一人に首をねじ切られて決着した。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ふう、今日は助かったぜ。お前らDランクにしてはやるじゃねーか」


 乾季の蟻渡り初日が終わり、大半の村人が蟻の素材を加工するために働き続ける中、オレたち冒険者は残る村人から歓待を受けている。と言っても、まだ初日が終わったばかりなのでハメを外すような者は居ない。

 そんな中、大楯マッチョが見た目の粗暴さとは裏腹に素直に頭を下げて来た。


「なに、まだまだ初日が終わっただけだ。礼はいらんよ」


 リリィが援護したおかげで無傷ではあったものの二戦目以降大剣小僧は下がらされてしまったし、その後もオレたちが手を抜いていたことには変わりない。


(舐めプしてるつもりはないんだけど、本気を出してない以上は礼を言われても居心地が悪いんだよね)


 なんとなく機会を逃し、いまだに冒険者ランクがDのままなのも申し訳なさに拍車をかけているのかもしれない。


「そうか、まあ、お前らがどう言おうと関係ないさ、俺が恩を受けたと判断した以上、それを返すのは決定事項だ。と言っても、出来る事には限りがあるがな、ガハハハ」

「ははは、じゃあ仕方ないな。何かあったら相談させてもらうよ」

「おう、この辺りなら俺もそこそこ有名人だ。困った事があれば力になるぞ。じゃあな、また明日も頼む」

「ああ、また明日」


 南部地方の人はまだこの村で出会った人たちしか知らないが、今のところ小気味良い豪快な人たちしか居ない。今年が初参戦だという大剣小僧だって、暴走気味なだけで話してみればさっぱりした好青年なのだ。


(まぁ、今回のこの場所以外でまた会う可能性は低いと思うんだけどね)


 それでも、この村に滞在する五日間は退屈せずにすみそうである。

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